見出し画像

あわれ読者は彼女の手のひらの上で踊る【創作大賞感想】

ミステリ小説を読む動機は、人それぞれだと思う。

探偵と一緒に謎解きをしたい。
あっという驚きで満たされたい。
現実離れした設定の話が読みたい。
事件の一部始終の目撃者になった気分を味わいたい。

私の場合は、

「どんでん返しで踊らされたい」

という欲求が強い。

星月渉さんの「私の死体を探してください。」は、そんな私の読書欲を満たしてくれる作品だった。

【あらすじ】

 ベストセラー作家、森林麻美は「私の死体を探してください」という自殺をほのめかすブログを更新した。夫の三島正隆は別荘でその話を麻美の担当編集者の池上から聞く。新作の原稿と、人気シリーズの完結までのプロットがどこにあるのか突き止めたい池上だったが、実は正隆と不倫関係にあった。
 麻美の行方が分からず混乱する二人だったが、池上のスマホのアラートが鳴り、二人はますます混乱する。死んだという麻美のブログが更新された通知だったのだ。

 死んだ妻のブログの更新が止まらない。

「私の死体を探してください。」第1話あらすじより

もともとエブリスタと竹書房共催で行われた「最恐小説大賞」の受賞作である、「ヴンダーカンマ―」の読者だった。
こちらは地方の高校が舞台のイヤミス。

↑あ、kindleアンリミテッドに入っているやんけ。今が読み時ですよっ!

note創作大賞応募作品である「私の死体を探してください」もまた、人の心の闇に焦点を当てた作品だった。

ミステリは、もっともネタバレ厳禁なジャンルなので、詳細な感想を述べるのが難しいジャンルでもある。
「面白かった!」だけなら誰でも言えるし、どこまで言及していいのか、ギリギリを攻めるべきか毎回悩ましい。

この話に関して言えば、まずタイトルが秀逸。
「私の死体? 死んだ人視点?」
「探す? なんのため? 探したらどうなるの?」

そんなワクワクを抑えきれずに読み始めると、まぁ、ぞわぞわする人間模様。

麻美と夫、麻美と編集者、そして編集者と夫。
この三つ巴による人間ドラマが興味深い。
広い意味では、この物語は「愛」の物語であると思う。

正直、ミステリ読みであれば、彼女の死に方については、
「まぁそうよね」
と、オチは読めるだろう。
けれど、壮大なトリックだけがミステリの醍醐味ではない、と私は主張したい。

この作品の一番の魅力は、ブログを読んで右往左往する人々と同じ目線で読み進められることだ。
人気作家である主人公のブログは、名もなき群衆にも注目されているし、彼女に近しい人物は、もっと切実に死体および新作原稿、シリーズもののプロットを探すために必死である。
私たち読者は、群衆たちと同様、他人事の目で読み進めながらも、夫や編集者たちの動きを知ることもできて、大変オトクな立場である。

また、ブログには新作原稿がアップされ続けており、これがまた、ミステリ小説になっている。
・主人公の死体はどこにあるのか、はたまた死因は?
・作中作(主人公の衝撃の過去を下敷きにしている)の結末は?
と、二重のミステリを堪能できる。
最後に更新された記事についての真相を次のシーンで暴露されたときには、思わず戻り、「確かに……!」と、膝を打った。

しかし、この主人公はどこまでお見通しなのか。
とある人物に届けられた彼女からの本当の手紙には、これまで読んできた物語、ほぼすべてが網羅されているため、ぞくりとする。
すべては彼女の、そして作者である星月渉さんの手のひらの上なのだと改めて思った。

そしてこの踊らされている感こそ、私がミステリ小説に求めているものなのである。





(一応こっそりと、note創作大賞に参加している自作も貼っておきます)


この記事が参加している募集

創作大賞感想

いただいたサポートで自分の知識や感性を磨くべく、他の方のnoteを購入したり、本を読んだりいろんな体験をしたいです。食べ物には使わないことをここに宣言します。