乱反射_表紙

乱反射 2.

 テーブルに家族四人が座っている。でも、姉の姿を見ることが出来るのは私だけのようだ。母が私と父の分の朝食を持ってくる。姉は自分の席にご飯や味噌汁を置かれないことに、ひどくもどかしさを感じているようだった。

「確かに幽霊はお腹が空くことは無いんだけど、ここまで見ちゃったら我慢するのも辛いわね」

 姉は私たちを恨めしそうに見ている。そして、私が姉の大好物だった玉子焼きに手を伸ばすと、姉は突き刺すような視線で私を睨みつけるのだった。どこか子供のような姉を見て、私は少し安心した。姉は殺される前と何も変わっていないということに。

 私は二限目からある講義を受けるために、大学へ向かった。勿論、私の横には姉がいる。姉はキャンパスをきょろきょろと辺りを見回しながら、感慨に浸っているようだ。

「美月の通っている大学って、結構人が多いのね」

「まあ、一応三万人の学生がいる大学だからね。お姉ちゃんの卒業した大学とは全然レベルが違うけど」

 私は隣に姉がついてきているという居心地の悪さを感じながら、姉に言った。ちなみに、姉の通っていた国立大学は在籍している学生は七万人ほどなので、私は姉の反応に白々しさを覚えた。

「真野」

 後ろから聞き覚えのある男子の声を聞き、私は振り向く。

「おはよう、水口くん」

 私に声をかけてきた男子は水口慎司(みずぐちしんじ)。私と同じゼミの同級生だ。明るい性格と人懐っこい笑顔を武器に、同性にも異性にも好かれるちょっとした人気者だ。私も彼みたいに世渡り上手だったら良いのに、といつも思う。

「今から講義か?」

「うん。水口くんは?」

「俺は三限まで時間が空いてるから、部室で時間つぶそうと思う」

「そうなんだ。じゃあ、また五限の時に」

 私は水口くんと少し会話しただけで、別れた。講義棟へ歩を進めている時に、姉は私を茶化したが適当にあしらうことにした。

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