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図書館の彼女 6.

 僕はずっと美空さんのことが気になっている。引っ叩かれた理由も、悲しい目をしている理由も、彼女は何も教えてくれない。聞いても、いつもはぐらかされる。一体、美空さんは僕に何を隠しているのだろうか。
 金曜日の夜は、また文也さんに飲みに誘われたので、春樹と一緒にいつもの小ぢんまりとした居酒屋に入った。文也さん曰く、「飲まなきゃ、やってられない」らしい。
 僕は図書館でアルバイトをしている文也さんなら、美空さんのことを何か知っているかもしれないと思い、彼から聞き出そうと考えた。しかし、美空さんの話を先に振ってきたのは、文也さんだった。
「航、美空ちゃんとはどうなってるんだ?」
 ビールを飲みながらいきなり聞いてきて、僕は「どうって言いますと?」と少し戸惑って、曖昧な答えを返した。すると、文也さんは「だから、二人はどこまでいったんだよ! 手を繋いだのか? キスをしたのか?」と若干苛立ったような口調で迫るように聞いた。
 手を繋ぐとか、キスをするという段階以前に、僕らはそもそも付き合っているというわけでは無い。確かに、僕は美空さんのことが好きだが、そんなことを想像することが出来ない。
 僕は「何もやってないですよ。第一、俺ら付き合ってないですし」と文也さんの勢いに押されながら言うと、彼は「そうか」と意外とあっさりと引っ込んだ。
「あの……文也さん」
「何だよ?」
「美空さんって、いつも図書館にいるんですか?」
「ああ、図書館が開く八時半に入っていって、閉館する十時まで外に一歩も出ないな」
 文也さんから即答された答えに、僕は耳を疑わざるを得なかった。開館から閉館まで一歩も外に出ないということは、彼女は講義を受けていないということなのだろうか。
「それって、進藤さんは講義を受けていないってことなんですか?」
 僕の疑問を代弁するかのように、春樹は尋ねる。
「おそらくな。俺たちは瓜生さんから、地下には行くなと後期が始まってすぐに言われたから、地下のことはよく分からない」
「何で瓜生さんはそんな事を言ったんでしょうか?」
 僕は、瓜生さんが話に絡んできたことに驚きながら聞く。
「さあな。地下での仕事は全部あの人がやってるし、バイトの俺らには何にも言ってくれねえんだ」
 文也さんはため息交じりに言って、グラスを傾ける。
 分からないことが多すぎる。この前の会話を聞く限り、美空さんと瓜生さんは赤の他人という感じではなく、明らかに顔見知りという感じだった。そして、美空さんを叩いた女の子の真意も気になる。
 それに、美空さんは外に出たくないと言っていたことを思い出した。特に、海は嫌いだそうだ。これはどういうことなのだろうか。
「なに深刻ぶった顔してんだよ」
 自分がそんなに深刻ぶっていた顔をしていたのかは分からないが、文也さんはいたずらっぽく僕の頭をくしゃくしゃとする。そして、「頑張れよ。あんな可愛い子そうそういないからな」と少し手荒いエールを僕に送った。

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