映画レビュー「スパイの妻」〜黒沢清の新たなる試み
ヒッチコックの「断崖」のような映画かと思いきや、かなり二転三転した末にあのような物悲しさのある結末になったので、良い意味でとても驚かされた。
マクガフィン的な存在である例のフィルムの内容は、さすがJホラーの名手とも言うべき不気味さ極まりないものであり、かの埋もれた名作「ブラッディ・ナイト」を彷彿とさせる。
あそこまですさまじいインパクトを誇る内容のフィルムだったからこそ、終盤の仕掛けはとても大きな意味がある。あれに加え、中盤における病的なまでの聡子の執着ぶりがあるからこそ、「おそらくそうなるんだろうな」という予測がブレ、まさに「お見事ですッ!」というべき着地を見せる
そしてまた、演出にも注目したい。とくに序盤、ある人物が拷問される場面の不自然なまでの長さや、登場人物の顔を隠す強烈な影は、あたかもフリッツ・ラング作品のようなレトロクラシックなおぞましさを醸し出しており、「黒沢清の歴史物」というチャレンジが結果的によい試みであったと感じさせてくれた。
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