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僕という人格を作っているものvol.3 海

 コロナ禍に世界が飲み込まれ、多くの人がリモートワークに入り、居酒屋でわちゃわちゃすることも出来なくなり、人々はストレス発散する場を失い、そして病んでいく人も多くなった。

 誰かが満員電車が東京に住む人々のストレス源だと言っていた。確かに満員電車は人々を憂鬱にさせる。見知らぬ人と身体を寄せ合い、気持ちが悪い人と肌が触れることもある。ああ、なんという憂鬱か。
 しかし、現在満員電車に乗っている人はあまり多くないのではないか。前述のリモートワークや、時差出勤など、感染防止対策が打たれ、密の中の密である満員電車など最も回避するべき事象である。

 それでも人は病み、人は死ぬ。つまりは満員電車はストレスの一因でしかなかったわけだ。にもかかわらず、ストレス発散する行為は自粛しなければならない。

 僕はこんな時代でも、そうでなくても夜の海にいく。海はどこまでも続いているし、波の音はいつまでも響いている。これほどまでに自由で気楽なストレスを和らげる方法があるだろうか。そう考えだすと、僕の生活にはいつだって近くに海があった。海は僕という人格を作り上げているのだ。

君と見たどこまでも続いていく海

 海と僕との関係性は非常にプラトニックなものである。お互いに適切な距離をとり、どちらかが求める時に会いにいく。そんな感じだ。

 海としっかり出会ったのは中学生の時だ。当時、中学二年生の僕は都内の私立に通っていて、学校にいくことを辞めた。いく必要がないと自分で判断しから、行かなくなった。シンプルな理由だ。それから、僕は家にこもり本を読んで生活していたが、ある日どうせ本を読むなら東京の暗い家の中ではなく、南の島の蒼い綺麗な海が広がるビーチでもいいのではないかと思った。それから僕は、まるでお腹に溜め込んでいたかのような行動力で検索をかけ、そして両親を説得し、沖縄の離島に移住した。

 その島はとても小さかった分、周りの海はとても広く感じられた。同じ暗いの年頃の仲間たちと16人で共同生活していた僕は、よくみんなと海に行っていた。とても豊かな日々だった。

 そんないい時代について、僕が思い出すのはある女の子と二人で夜明け前の海を見たことだ。東に向いた砂浜に二人で座って、風にあたっていた。その頃なにを話したのかは覚えていないが、あの時の海はすごくよかった。まるで僕ら二人を包み込んでくれるようだった。夜なんてあけずに、このまま闇夜が続けばいいのにと思っていた。

 その時の海は僕にはなにも語りかけず、ただただ優しく僕らを見守っていた。

突き放すような北の海

 高校時代にはカナダで北の海をよく眺めに行った。当時の僕にはあまり友達が多くなかった。一人の時間は苦痛ではなかったし、常に英語を喋ることに対して疲れも感じていた。そんな時は、大体散歩をしながら海を眺めに行った。

 僕の印象では、北の海はとても冷たかった。水温のことではない、ただただ冷たい印象をこちらに与えてくるのだ。僕が悩みを打ち明けようとしても、なにも答えてくれそうにない。ただ自分で考えて、そして行動しろ。そういうことを言ってくるタイプの海だった。

 それでもなお、僕はよく海を訪ねた。そんなことを言われても、僕は彼女に会いたくなったし、僕には彼女しかいなかったのだ。幾度となく彼女を訪ねたが、結局最後まで彼女と言葉を交わすことはなかった。

 しかし僕は彼女に救われたと思う。突き放されたが、今から思えばあれは優しさだったのかもしれない。もしも優しく迎えてくれていたら、僕は暗い海に吸い込まれていたかもしれない。

良き友達という海

 大学時代から現在までも、僕はよく東京の海を見に行っている。車を手にしてからは、真夜中に海まで走らせ煙を吐き出しながら遠くを眺めている。

 東京の海はとてもフレンドリーな印象だ。僕が友達を連れて行けば、友達を歓迎してくれ、いい雰囲気の女の子を連れて行けば、黙ってムードを演出してくれる。とても気の合う友達のようだ。

 この海に僕はよく助けれられている。日々の生活で感性が削られた時に、彼女に会いにいって感性を回復させる。ちょっとした息抜きだが、僕はこれで生活を整える。そうして日々を生き抜くのだ。息抜かないと、生き抜けませんねと誰かが言っていた。

まとめ

 このように人生を通じて、僕は海との関係を築いてきた。いつだって彼女は僕と真摯に向き合ってくれているし、僕はその安心感を持って彼女に会いにいくことができる。

 僕のこの人格を作り上げている要素でもあるが、同時に崩れないようにしてくれているという要素でもある。世界のネジを巻くために海に会いにいく。どこまでも続く闇夜の海よ、ああなんて君は優美なんだろうか。こんなことを書いていると、また君に会いたくなってきてしまった。

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