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1月の読書の日記

2024年の隠し抱負として、本をたくさん読むということを掲げているこの頃である。折角なら読んだものを記録すると同時に、感想まで書いてしまおうじゃないというのが読書の日記である。なおしっかりと読み込んでいるつもりではあるものの、僕も人間であるが故に記憶が薄らいでいってしまうため、あまり多くは期待しないで欲しい。というか内容には全く期待しないで欲しい。これはあくまで僕個人の日記なのだから。
それでは1月いってみよう〜。

1.荒地の家族 / 佐藤厚志

この小説は去年の暮れに芥川賞歴代受賞作品を最新から読んでいってみようと思い購入した単行本である。ストーリーは東日本大震災から数年経った東北の街で、災害にもたらされた環境や人間関係の変化に悩み続ける男が今を生きていくというものである。信じ難いことだが、この本を元日に読んでいる最中に母の家であるマンションの一室がわずかだが揺れた。その直後からテレビでは正月特番が全て地震速報へと変わり、津波が来るから逃げろとアナウンサーが叫んでいた。地震発生から2週間が経った今では、その被害がより顕になってきている。この小説の主人公のような苦悩を持つ人が今回の災害で多く生まれてしまったことに心が痛む。能登半島地震の被害に遭われた全ての方に、心からお見舞いを申し上げます。

2.聖なる怠け者の冒険 / 森見登美彦

今年の正月はほぼ10連休を取ってしまった。例年はここまでゆっくりできないのだが、去年は夏休みもあまりなかったし、正月くらい休もうぜという方針が全社会議でゆるりと決まったのだ。そんな長い休みは怠けてなんぼであり、それを肯定する本が読みたくなっため、本作に手を伸ばしてみた。
森見登美彦の作品はいくつか読了しているのだが、今回もそのユニークな文体と京都の街を目まぐるしく走り回る登場人物に大変楽しませてもらった。ぽんぽこ仮面を中心に物語は展開していくのだが、このぽんぽこ仮面という響きが大変良い。僕は本を読むときに文章を脳内再生するタイプなのだが、ぽんぽこ仮面という単語が出てくるたびに、口に出してしまいたくなるのを必死に抑えるのだった。三が日の電車で、成人男性がふと「ぽんぽこ仮面…」と呟くのを聞いてしまったりしたら、新年の行く末が不安になってしまうだろうから。

3.人生を面白くする本物の教養 / 出口治明

これまでは基本的に小説しか読んでこなかったのだが、今年はそろそろ教養をつけないと人としてやばいのでは?と思い、ブックオフで真っ先に目に入った本作を購入。新書は大学受験の時に数冊読んだことがあるが、薄くて持ち運びやすいし、内容が凝縮されている感じがあるので好きなのだ。
著者である出口さんはライフネット生命の社長なのだが、以前は日本生命に勤めており、海外勤務をこなしてきたり、旅をしてきたりと様々な面白そうな経験を積んでいる方である。前半はそもそも教養ってなんだっけ?という定義の話から始まり、後半は実生活に応用できる知識の話も含んでおり、学ぶことってどこまで行っても内容も方法論もおもしれ〜と思った。中でも印象的だったのは、時間をX軸、空間をY軸として捉えるという話。出口さんは本と旅が好きなのだが、本は過去の情報を吸収できるためX軸は幅広い。しかし様々な土地の話を読み取れはするものの、それは肌で触れてはいないためにY軸の情報はやや狭い。一方旅では現時点のことしか分からないことが多いが、世界各地の生きた今が感じられるので、本とは対局にある。ちょっと細かい点が曖昧になっており正確ではないかもしれないが、こんなことをいっており2024年は本をよく読み、旅に出たいなと思った。

4.読書会という幸福 / 向井和美

本を読み終わった際に、その感想を誰かと語り合いたい!と思うことがある。そこで今年は恥ずかしがらずに読書会にでも参加してみようかしらと思い、またもやブックオフで目に止まった本作を購入。
著者の向井さんはめちゃくちゃ読書会が好きで、同じ会に30年以上参加し続けているそう。そもそも読書会にはいくつかパターンがあるのだが、向井さんが参加している会は参加者が同じ本を当日までに読み終え、その感想を互いに発表しディスカッションしていくという形式。多分この形式が一番盛り上がるし、初対面でも相手の考え方などが分かりやすいのだそう。確かにSNSで募集しているようなお洒落読書会は一見良さそうだけど、その場で好きな本を選んで内容を5分程度でプレゼンするみたいな形式が多く、それだとあらすじ喋るだけになってしまいそうなので、あんまり人間性の深みまでは分からないかもと思った。本を語ることは人生を語ることとあるので、僕も人生を語れるように、たくさんの本を読んで感性を磨いていきたい。

5.ある閉ざされた雪の山荘で / 東野圭吾

映画化されるということで、テレビでは出演俳優が宣伝しまくっている本作。イケメン俳優が15秒程度で語るあらすじがちょっと面白そうだったので文庫を購入した。映画は公開日から3日たった今日現在で、filmarks 3.4なので察することにした。しかし原作はとても面白かったと声を大にして言いたい。東野圭吾は中学生の時に一時狂ったように読んでいたが、それ以来に手に取ったかもしれない。東野圭吾は様々な分野をテーマに物語を構成してしまう能力がとにかく凄い。しかしもっと凄いのは、そのテーマをクラシックな叙述トリックに乗せてしまうため、斬新さを感じさせつつミステリーとしての深みをしっかりと持たせるという点だろう。本作はラストまでトリックを見破ることができなかった。ミステリーって読んでいる途中に、多分こうなんじゃね?と思い始めて、本当にそれ通りに向かっていくと急に読む気を失ってしまう。だからこそ裏切り続けてくれる東野圭吾に惹かれるんだろうな。また連続して読んでしまいそうな予感。

6.ゼロからの資本論 / 斎藤幸平

今年は人生で最も本を読む一年にしたいと予備校の先生に向けて宣言したら、本作をおすすめされた。マルクスや資本論という言葉は知っていたけれど、それがなにかと説明しろと言われるとたちまち俯いてしまうくらいの事前知識だったが、ゼロからある通りとてもわかりやすかった。おそらく他の解説書では資本主義に焦点が当てられているのだと思うのだが、この本は社会主義を肯定する形で論じられている。使用価値以上に価値が上回り、資本家の終わりなき欲望に利用される労働者たちが資本主義には不可欠である。この本を読みながら、自分が就活をしなかった理由を思い出した。コーヒー屋は儲からない職業だと捉えているが、実は同業者はここでいう社会主義者なのではないだろうか。美味しいコーヒーが野菜や肉と物々交換される世界で、飲み手が感動してくれたらそれで良いと考えている人がほとんどな気がする。そう考えると、後進国になりつつある資本主義国家で、そんな理想郷を思い描いている自分達はどうすれば良いのだろうか。

7.人間の大地 / サン=テグジュペリ

星の王子さまを一年に一度は読み返すようにしている。心が荒んだ時期に、感性を回復させるために読むのである。箱根にあった星の王子さまミュージアムはお気に入りの場所だったが、1年ほど前に惜しくも閉館してしまった。この施設では、星の王子さまの世界に入り込めるだけではなく、サン=テグジュペリの生涯を追うことができる。彼はもともと郵便機の操縦士であり、その体験からエッセイや小説を刊行している。しかし第二次世界大戦にて偵察飛行を任され、その飛行中に消息を絶ったのだった。後からわかったことだが、彼の飛行機を撃墜したのはドイツ軍の飛行士であり、彼はサン=テグジュペリのファンだったのである。本作はサン=テグジュペリが郵便機の飛行士時代のエピソードを細やかに描写している。当時の通信技術で砂漠や雪山の上空を飛ぶことが、どれだけ難しく勇気がいることだったかが良くわかる。解説の宮崎駿の文章もとても良いので、ぜひ最後まで読んでみてほしい。

8.最後の喫煙者 / 筒井康隆

年明けから禁煙を始めた。そんなこともあり、メルカリで本を眺めていたら本作が目に入ったのですかさず購入した。筒井康隆の作品はこれまで読んだことがなかったので、短編集は読みやすくて丁度よかった。タイトルになっている最後の喫煙者も面白かったし、問題外科もかなりグロいが好みだ。ブラックユーモアが結構好きなので、筒井康隆の作風は全体的にかなりハマった。SF小説に分類されるのだろうけど、世にも奇妙な物語のような、もしかしたら現実にも起きるかもしれないという不気味さが感じられて、とても面白かった。今後、積極的に他の作品も手に取ってみたい。

9.無敵の筋トレ食 / 岡田隆

去年から走り始めて体がかなり絞れてきたので、ムキムキになりたいわけではないけれど、人生で一度は腹筋を割ってみたいので食事制限を始めた。基本的な知識はネットで身につけたつもりだけど、やっぱりプロは食事をどんな枠組みで決めているのか気になったので読んでみた。ボディビル選手権に出場している人はやはり筋肉に対する熱量が格段に違う。それってもはや哲学なんじゃないかという筋肉思想が度々登場するので読んでいて飽きないし、実用的な内容も多く含まれている。結局のところ栄養素をバランスよく摂るのが最も効果的であり、それは母親の味的なものに収束するという主張には強く共感した。また筋トレを始めると、食事を気にかけ、睡眠にも影響が出てくる。睡眠が整い始めると、自然と早起きもできるので、結果的に精神状態が良くなる。つまりは健全な肉体にこそ、健全な精神は宿るというわけだ。心身ともに健康になれるって、筋トレはもはや幸福度を上げる最適解なのでは?と思った。

10.わかりやすさの罪 / 武田砂鉄

この本は読むのに苦労した。わかりそうなのに、掴めないというモヤモヤとした感覚が繰り返されるのである。しかし著者はその感覚こそが大切だと繰り返し主張する。わかりやすいものは楽だ。だからこそ人はわかりやすいものに飛びつくのである。そして多くの人に飛びついてほしいから、マスメディアはわかりやすいコンテンツのみを作成するようになる。しかし果たして本当にそれで良いのだろうか。映像コンテンツはもちろんのこと、書籍でも売れるタイトルには「すぐわかる!」や「人は〜が99%」などのとてもわかりやすい文言が入っている。コスパ、タイパという言葉が飛び交う時代には、なるべくわかりやすいコンテンツをいかに早く消化できるかということに重点が置かれているように思える。そうして誰かの言葉を借りることでしか会話ができない人が増えていくのである。最も好きな章は、映画「コーヒーが冷めないうちに」のポスターに4回泣けますと書いてあったのを斎藤工が批判しているというエピソードを紹介するシーン。確かに泣ける映画と宣伝されているものを、泣きたいから見に行っている人とはあまり友達になりたくない。わかりやすいものを、わかりやすく消費するだけの生活ってそんなに楽しいか?

まとめ

以上1月の読書の日記でした。個人的にはゼロからの資本論とわかりやすさの罪は考えながら読むという行為が出来たので楽しかったです。このペースを維持できるか分からないけど、2月もいっぱい読めたらいいな。
それではまた次の機会に。


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