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カオナシの時間

https://www.bunshun.co.jp/mag/bungakukai/bungakukai_prize.htm
文学界新人賞 締め切り9月30日
字数 400字詰め原稿用紙70枚以上(2万8千字)、150枚以下(6万字)


海辺のホテルに一泊して、真夏の少年時代に思いを馳せていた。近くに住む同級生といつも連れ立ち、何の変哲もない毎日を過ごしていた、、、のだけれど、、、のだけれども、、あの何の変哲もない日々より良い日々を送ることは生涯ない。そんなふうなことを考えていたのだった。

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引きこもりだった時にもそう思っていたし、会社を起こして何の不足もないような今になってもそう思う。かのスティーブ・ジョブスですらそうだったらしいから、どうやら大人が本当に夢見ているものは、王様とかこの世の支配者とかではなくって真夏の少年に戻ることなんだろう。

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恋だっていつしか、少年の頃のように燃えることはなくなってしまったし、香港で100万ドルの夜景を見た時だって、かつてカブトムシを見つけたあの時ほどには心が動かなかった。

時代はスターダムにのし上がった人間をもてはやしているけれども、本当は誰もが僕の夏休みに帰りたいのだ。それなのに巷には怪しい人間が溢れて、如何なる方法を使って貴女をモンローのようにしてあげましょうかとか、如何に貴方だけを稼げる男に変えて見せましょうか、とか、風俗スカウトのオンパレードだ。

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本物になりたいという僕たちの思いは、皮肉なことに世界を紛い物に作り替えてしまったのかもしれない。

そう言えば、僕らは子供の頃からこんな風に教えてもらってきた。

一流大学に入れば本物になれる。
大企業に入れば本物になれる。
お金を稼げば本物になれる。

有名な人物になれたら本物なのだ。
エライ肩書きを得られたら本物なのだ。

と。

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目指してきた全てのものが色あせてゆく。どれだけ夢中になろうが集めた服のスタイルがいつか古臭くなってしまうように、世界のステータスの全部が輝きを失った土塊(つちくれ)へと戻ってゆく。

僕らの生きている今は、そんなカオナシの時間だ。


・・・『小説家になろう』投稿作品です・・・


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