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ノーベル賞を受賞されたアメリカの詩人、ルイーズ・グリュックさんの詩を訳してみました。


原文はpoet.orgさまのサイトからです。
https://poets.org/poem/myth-devotion

ー 献身の神 ー

冥王が女性を愛そうと決めたとき、
彼は地球を丸ごともう一つ作ってあげるのだ。
全て同じに。牧草地に至るまで。
だけど、一つだけベットが多い世界だ。

全て同じ。太陽の光でさえ。
この麗しい女性が突然に
明るみから深い闇へと落ちてしまうのなら、
それは苦しいことだから。

少しづつ夜を作ってゆこう。彼はそんな風に思う。
まずははためく木葉の影を。
それから月を、そして星を。それから月を消し、星を消そう。
ペルセポネー(冥界の女王)には少しづつ慣れてもらおう。
最後にその暗がりが心地よくなるように。
冥王はそう思うのだ。

もう一つの地球には、この世界にある愛はない。
でも、なあ、全て愛さないか?

彼は悠久の時間、彼女を待ち焦がれて世界を作り、
牧草地にいる彼女を今、見ている。
ペルセポネー。香しく美味。
もし貴女が少しでも欲しいと思うのなら、全て召し上がればいい。彼はそう思う。

夜には誰だって、
最愛の躰を、コンパスを、北極星を欲しがるのだ。
静かな吐息を耳にしたいから。
私は生きている。だから、貴女も生きている。
貴女も私の吐息を聞く。貴女は私と共にいる。
一人が下になれば、一人は上になる。
そういう意味だ。

それが彼、冥王が感じていること。
ペルセポネーのために世界を作り、彼女のいる世界を見ている。彼は、
飢餓も争いも想像しない。

罪? 恐怖? 愛の渇望?
想像しはしない。
愛する者たちなら誰もそんなものを想わないように。

夢見るように彼はこの世界を何と呼ぼうかと、想う。
次なる冥界、という名にしようか?
楽園、という名にしようか?
そして最後に、彼はこの名を付けた。
あなたの少女時代、と。

牧草の地平線から柔らかな日が昇る。
そう、ベッドの背後から
彼は愛する者を抱き、
言いたいのだ。「私は貴女を愛しています。誰にも傷つけさせません」。

しかし彼は分かっている。
それが嘘なのだと。
最後にいう。
貴女は今、亡くなりました。もう誰も傷つけはしません。
彼にはそれが、
何よりも輝ける始まりであり、真実を超えた真実であると、思われるのだ。

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