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私の恋はかなわない Version2.0

登場人物
私(琴音):今作の主人公。いきなり江戸幕府将軍の信康の妻になるように告げられ困惑している。
徳川信康:江戸幕府の将軍になる予定の人物。強い精神力の持ち主。琴音の夫となる人物。
後陽成帝:後陽成天皇であり、国の最高権力者。

満月がきれいな今日、私はある坂を駆けていた。
「はぁ、はぁ」
「姫様!もう少しですよ!」
「えぇ、わかってるわよ」
後ろから私を追いかける女官たちの声に答えながらも足を動かす速度を上げる。
(あーもう!どうして私がこんな目に合わなきゃいけないのよ!!)
そう心の中で叫びながら、私はこの原因となった出来事を思い出した。
時は少し遡り…………。
「殿とご結婚ですか!?」
その言葉に私は思わず大きな声で聞き返してしまった。
ここは江戸城内にある奥の一室。そこには今現在私の目の前にいる女主人であるお祖母様――つまりは、この国の最高権力者でもある後陽成帝の側室の一人である藤原美智代さまとその子供たちがいた。そして私はその中の一人――長女で今は将軍職に就いている弟の妻として嫁いできたのだ。
そんな立場にある私がなぜ後宮ではなくここにいるのかと言うと、単純に実家の方に戻っていたからだ。というのも、先日お祖父様が崩御されてしまい、急遽私が呼び戻されることになったためだ。まあそれはいいのだが、問題はここからだった。実は今回こうして呼び出されたのはお父様に何かあったのではないか?と危惧したからなのだ。しかしどうやらそれは取り越し苦労に終わったようで安心すると共にホッとしたのだが、次に聞かされた内容に今度は頭を抱えたくなった。というより実際に抱えてしまった。
なぜなら……。
「そうです。あなたにはこれからあの子の正室として輿入れしてもらいます」
「ちょっ!ちょっと待ってください!!」
突然のことに私は慌てて口を挟む。するとお祖母様は不思議そうな顔をしながらも話を一旦止めてくれた。なので私は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると改めて話を切り出した。
「……一体どういうことなのか説明していただけませんでしょうか?」
「あら?言ってませんでしたかしら?」
「聞いていません!それにそもそもなぜ急にそのようなことになったのです!?」
「あら?おかしいですね。確か昨日伝えたはずですけど……」
そう言われて思い返してみると確かに伝えられた記憶があった。でもまさかあれがそうだとは思わないじゃない!!だから私はすぐに反論をした。
「あんなのは伝えていないも同然ではありませんか!」
「……それもそうね。ならもう一度言いますからよく覚えておくようになさい」
そう言うとお祖母様は再び同じことを口にし始めた。だが今回はしっかりと耳を傾けていたため何とか理解することができた。だけどそれでも納得できないことがあった。
「あの、一つ質問してもよろしいですか?」
「何でしょう?」
「その殿方のお名前は?」
「……あら?まだ言ってなかったかしら?」
「はい」
「それでは改めて自己紹介をしましょう。こちらの方が殿のお名前よ」
と言って一枚の写真を見せてきた。そこに写っていた人物を見て私は絶句した。何故ならばそこに写っている人物が私の知っている人物であったからだ。
「こ、これは一体どういうことです!?」
「見ての通りよ。あなたの夫となる方はこの国の最高権力者である征夷大将軍である徳川信康さまよ」
「そ、そんな……」
あまりの出来事に私は完全に固まってしまっていた。
(どうしてこうなったのよぉ~!!!)
そう心の中で絶叫しながら……。
というわけで今に至るわけなのだけれど……。
「姫様!もう少しですよ!」
「わかってるわよ!!」
女官の言葉に再び返事をしながら足を動かし続ける。そしてようやく見えて来た門を前にして最後の力を振り絞った。
「ふぅ~やっとついたぁ~」
「さすがは姫様。素晴らしい走りっぷりでした」
「まったく、あんたたちのせいで余計な体力を使わされたわよ」
「申し訳ありません」
本当に悪かったと思っているのか疑問になるほど軽い謝罪を聞き流しつつ、私は目の前に広がる光景を目に焼き付けた。
そこは一面真っ白に染まっており、まさに銀世界といった感じであった。そんな景色にしばらく見惚れていると、不意に声をかけられた。
「久しぶりだな、琴音」
「えぇ、そうね。ところであなた大丈夫?ずいぶんと顔色が悪いみたいだけれど……」
「……あぁ、気にしないでくれ。ただの二日酔いだから」
そう言って苦笑を浮かべながら頭を掻く姿に、思わずため息が出てしまう。
(全くこの人は相変わらずなんだから……)
「それで今日は何の用事で来たんだ?」
「もちろんあなたに会いに来たのよ」
「俺に?何かあったのか?」
「えぇ、実は……」
それから私はここへやって来た経緯を説明した。すると彼は困ったような表情になった。
「うーん、つまりは親父さんが亡くなったからその跡を継いだ弟の嫁になれということか?」
「簡単に言えばそういうことになるわね」
「しかしなんでまたそんなことに……」
「なんでも急に決まったらしいわよ」
「そうなのか。まあとにかく話はわかった。悪いが俺はこの通り動けないから代わりに誰か寄越してくれないか?」
「それができれば苦労はしないんだけど、生憎みんな忙しくて手が離せないみたいなのよね。だから私がこうして出向いてきたというわけ」
「なるほどね。でもそうなるとやっぱり無理だな」
「そう言わずにお願い!」
「いや、しかしだな……」
「……ダメ?」
上目遣いになりながらじっと見つめてみると、やがて根負けしたのか諦めのため息をつく。
「はぁ~、仕方がない。わかりました。引き受けましょう」
「本当!?ありがとう、あなた!大好きよ!!」
そう言って思わず抱き着くと、そのまま彼の胸元に頬擦りする。
「ちょっ!離れろって!!」
「嫌よ!だってあなたは私の旦那様なのよ?妻を抱きしめるのは夫の務めでしょう」
「それはまあその通りだが、それとこれとは話が別だろうが!それにほら!お前も恥ずかしいだろ!?」
そう言って視線を向ける先にいる女性の姿に私は慌てて彼から離れる。すると彼女は呆れた様子で口を開いた。
「仲睦まじいのは結構ですけど、場所を考えてください」
「ご、ごめんなさい……」
「いや、別に謝ることじゃないぞ?」
「いえ、こういうことはちゃんとしておかないと後々問題が起こりかねませんので……」
「そうなのですか?でも確かにおっしゃる通りにかもしれませんね」
「……うん。私もそう思う」
彼女の言葉に同意を示すと、私は改めて彼に向き直った。
「というわけだから気をつけてね」
「……わかったよ。それよりいつ頃来るつもりなんだ?それによって準備も変わってくるからな」
「そうね……。なるべく早い方がいいのだけれど、可能なら明日にして欲しいかな」
「明日か……。まあできないことはないが、一応理由を聞いてもいいか?」
「お祖父様の葬儀があるのよ」
「葬儀?そういえば確か先日亡くなったとか言ってたもんな」
「そうよ。だからその前に済ませてしまいたいのよ」
「なるほど。なら明日中に終わらせられるようにしておくよ」
「お願いするわ。それじゃあ私はこれで失礼させてもらうわね」
「ああ、わざわざ来てくれてありがとな」
「いいのよ。私が来たくて勝手にしたことなんだから」
「それでもだよ。それじゃあまた明日」
「ええ、またね」
そうして彼と別れると、私は急いで城へと戻った。

*このストーリーに出てくる人物はすべて仮想上の人物設定です。

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