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人手不足もここに極まれり

今日、12日ぶりに出勤した。事務所で課長にすぐ挨拶する。
「長い間、大変申し訳ございませんでした」
深々と腰を折ると、課長は
「病気はなりたくてなるわけではありませんから。元気で帰ってきてくれてありがとうございます。今日は久しぶりなので、無理はしないようにして下さいね」
とにこやかに返してくれた。
課長も大変だったはずなのに、本当にありがたい一言で救われた気がした。
いい職場だな、と思う。

久しぶりすぎて毎朝のルーティン業務を忘れかけている。幸い、商品の配置はあまり変わっていないようだ。新入荷の商品をチラチラ横目で見ながら、掃除用具を手にレジへと急ぐ。
レジを開局する。開局とは、レジ内の現金の残高が前日の残高と相違ないことを確認してその証拠をプリントアウトした後、開店と同時にお客様が来てもご精算頂けるよう、準備を済ませるという一連の作業である。
この作業をするときは嫌でもレジの画面を見ることになる。画面の下の方にはその日のシフト表が貼ってあり、誰が公休で、誰が何時から何時までレジに入るのか、が書いてある。
いつものようにそのシフト表に目をやって驚いた。
午前中いるのは課長、私の二人。その後の出勤予定者が午後1時からのYさんのみなのだ。ありえない人の少なさである。しかも今日はブラックフライデーセールの最終日。給料日後初の日曜日でもある。これで本当に夜の10時まで回せるのだろうか。

「課長、今日めちゃ人少ないですね!ビックリしました」
そういうと課長は、
「在間さんのお休みされた翌日に、Fさんが発熱してね。で、その翌日にOさんが体調不良で早退して、さっき電話があったんだけど今日もまだ無理そうなんだよ。Mさんが出勤するって言ってくれたんだけど、彼女にも倒れられたら困るしね。今日は休んでもらったんです」
次々と体調不良者が出て、人繰りが大変だったと話してくれた。
「うわ、私が撒いたんですかね…すいません」
「いや、在間さんは最初ご主人の濃厚接触者ってだけで、発症はしていない段階で休みにはいってるから、違うと思うよ。今市中感染凄いみたい。他の売り場でも聞いてるよ」
「そうですか…」
心配してもFさんとOさんがよくなるわけではないので、自分に与えられている仕事を精一杯こなすことに注力することにする。

旅行支援の影響か、キャリーケースが飛ぶように売れる。朝から12時までの3時間に、6本くらいは売ったと思う。鍵やメーカー保証の説明が必要なので、時間を食う面倒くさい商品ではあるが、利ザヤが大きいのでおろそかにできない。一週間くらいの旅行用の大きいものから、新幹線の棚にも上げられそうな小さなものまで、本当によく売れる。ご夫婦で一本ずつご購入、というような方もあった。
ただ、この説明中にレジが混んでくると一人ではさばききれない。やむを得ず、課長とレジ二人体制でなんとか午前中を乗り切った。

両替は普段は11時ごろに行く決まりになっている。5千円札が手薄になってくるのがこの時間帯なのだ。が、今日はYさんの出勤を待とうか、と課長と話していると副店長のTさんが
「人薄くて大変でしょ?やることある?」
と顔を出してくれた。
私が両替表を記入して準備していると、
「あ、両替?僕行こうか?」
と言う。
「ええ!?副店長に両替行かせるとか、恐れ多すぎて無理です」
と私がビビっているとTさんは、
「課長!在間さんなんだか遠慮してくれてるんだけど、両替僕が行った方が良いよねえ?」
と課長に声をかけてくれる。
「はい、助かります!」
課長はブーツのレイアウト変更をしながら、Tさんに向かって片手を挙げた。げっ、行ってもらうんだ。課長の指示とあらばしょうがないので、Tさんにお願いした。
その後、同じく体調不良者続出の2階の衣料レジの応援に入られたようだった。Tさんも大変である。

1時になり、Yさんが出勤してきた。
「大丈夫だった?しんどくない?」
Yさんはどこまでも優しい。お詫びとお礼を言いながらペコペコする。
そこから30分、Yさんの手伝いをして売れまくってスカスカになったキャリーケースの商品出しをした。
「この大きいの、2本売れた?」
「あ、はい、ご夫婦で一つずつ買われました」
「凄い勢いだねえ。入荷、間に合うかなあ。需要が増えるのが急すぎて追いつかないよねえ」
そんな会話をしながら、空いたところを埋めていく。
商品を出し終えると定時になった。Yさんと課長に挨拶して退出しようとしていると、またTさんが衣料レジから戻ってきてくれた。
3人に挨拶をして、後ろ髪をひかれる思いで退出した。

人繰りはカツカツでも、売り場は取り敢えず『何とか』はなる。だが、本当にギリギリのところで『何とか』なっている。
一人ずつの力は小さいけれど、決して侮れない。誰かが無理して『何とか』するのではなく、小さな小さな歯車だけど自分にできることをちゃんと丁寧にすることが、「力を合わせる」ということなんだろう。

それにしても、人少ない。
健康管理は自分だけのために非ず、ということを痛感した日だった。
これからいよいよ師走。気を付けないと。