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カッコイイ『母親』

最近ドラマを観ていると、『え、この女優さんが母親役やってるんか!』と驚くことが良くある。自分の年齢が上がったことをつくづく実感する。
一番ショックだったのは、水川あさみさんが『ブギウギ!』で主人公の母親役をやっていたことだ。こんな綺麗なお母さんおらへんやろー!とツッコみたくなる気持ちを抑えて観ていたが、ちゃんとスズ子のお母さんらしい、素晴らしい演技だった。

私生活でその女優さんにお子さんがいらっしゃるかどうかは、『母親』役の演技の巧拙にはあまり関係がない気がする。
随分古い話になるが、泉ピン子さんなんて、本当に小林綾子ちゃんを産んだのではないか、と思うくらいしっかりと『おしん』のお母さんだったし、故・星由里子さんも、『科捜研の女』のマリコ(沢口靖子さん)との母娘の掛け合いは絶妙な塩梅である。『ビリギャル』のお母さん役の吉田羊さんも、実際にさやかちゃんのお母さんは羊さんみたいな人なんじゃないか、と思うくらいハマっていた。
独身の若い女優さんだと、『やっぱり無理があるな』と感じることもあるが、総じて『母親』という役作りをされる女優さんの苦労は、並大抵ではないのだろう、と思う。

中でも私が一番好きなのは大塚寧々さん演じる『母親』である。
実は大塚さん、私の見る限り、とても多くの母親役を演じておられる。
スレンダーでカッコよく、切れ長の大きな吊った目が麗しい。小さな顎は形よく、とても魅力的だ。女でもドキリとさせられる美しさを備えた彼女からは、一見すると『母親』のイメージは浮かんでこないから意外である。
しかし外見がそういった役を引き寄せるのか、彼女の演ずる母親は、『母親』以外の仮面を持っていることが多い。
『ドクター・コトー』では頼れる島の住民の心のよりどころであり、『医龍』では凄腕の麻酔科医である。『相棒』ではファンの間で伝説となっている神回『バベルの塔』にゲスト出演して、やはり母親でありながら敏腕のボディガードという役柄を演じている。
どれもカッコイイ。

カッコイイのだが、実はどの役にも『影』がある。
『ドクター・コトー』では、離婚後別居している息子(神木隆之介さん)に負い目を感じ、会いたい癖に会えない、なかなか素直になれない母親である。
『医龍』では、仕事に熱中するあまり、息子(本田奏多さん)を命の危険にさらしてしまい、それが理由で離婚されてしまう。しかもその息子は手術に入った麻酔科医のミスで、半身不随になってしまう。自暴自棄になりそうになりながら、医師としての誇りは辛うじて保ちつつ、母親として何かしてやりたいけど出来ないやるせなさを抱えている。
『相棒』の場合もやはり、仕事中に娘(佐々木麻緒さん)がはしかにかかり、処置が遅れたため後遺症で耳が聞こえなくなってしまう。夫を責め、これをきっかけに離婚するが、本当は自分のことを責め、夫にも申し訳なく思っている、といった複雑な設定である。

どのケースも、『母親』とは別の世界で素晴らしい役割を果たし、傍目にはとても強い女に見えている。しかし今更どうしようもない重い後悔を背負いつつ、実は絶えず子供のことを思っている『母親』でもある。
難しい役柄だと思うが、大塚さんが演ずるとそういった『影』の部分のエピソードも、華々しい面も、子供に対する『母親』としての深い愛情も、すんなりとこっちの心に入ってくるから不思議だ。
どの役を演じても、不自然さがないのが素晴らしい。彼女にピッタリハマっている。

『母親』を演ずるには、子供への強い思いを表現できなければならない。画面越しにこれが伝わってこないと、『母親』に見えないからである。
大塚さんの『母親』は、どれもこれが見事なくらい溢れている。
一人の母親である私が、感情移入してしまう訳である。
でも、そればっかりじゃない。彼女の演ずる『母親』は、『母親』であって『母親』ではない、強烈に個性的な顔を持っている。
そして半端なくカッコイイ。ああ在りたいものだと思う。
私と同い年の大塚さん。これから先どんな『母親』を演じて下さるのか。
一ファンとして今後の彼女の活躍を、とても楽しみにしている。