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【連載】西洋美術雑感

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西洋美術から作品を取り上げてエッセイ評論を書いています。13世紀の前期ルネサンスのジョットーから始まって、印象派、そして現代美術まで、気ままに選んでお届けします。
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2022年6月の記事一覧

西洋美術雑感 22:シモーネ・マルティーニ「受胎告知」

フィレンツェはいわずと知れたルネサンス美術の中心地である。誰でも知っているレオナルド・ダ・ビンチ、ミケランジェロ、ボッティチェリといった人たちはここで活躍したのである。前にも紹介した、ルネサンスの夜明けに相当するジョットもここフィレンツェである。 そんなルネサンスな街は、行ってみるとコンパクトで親しみやすい感じの街だった。そしてそこにかの有名なウフィツィ美術館がある。本拠地にある大美術館のコレクションは、まさにルネサンスの殿堂のようなところだ。 前にも書いたように僕は

西洋美術雑感 21:フランシスコ・ゴヤ「黒い絵/棍棒で戦う」

マドリッドのプラド美術館で見たゴヤの話をいくつか書いたが、その最後にあたるのがこの黒い絵と呼ばれる連作である。 プラドで初めて彼の絵を次々と見てショックを受けたわけだが、それは、ロココ調で描かれた風俗画の不気味さから始まって、その後の戦争の描写や、悪魔的な魔女の集会や、独特な色彩で描かれた肖像画、そして、ベラスケスの女官たちとも並ぶ大作のカルロス4世とその家族の集合肖像画など、全体に、その油彩の表現力のほとんど奇跡的ともいえるテクニックと、その主題の奇妙さのコントラストに

西洋美術雑感 20:エル・グレコ「聖ヨハネの幻視」

さて、それではエル・グレコ、行ってみましょう。エル・グレコのはなはだしい特徴は、絵をひとめ見ただけでエル・グレコと分かるところであろう。間違いようのない個性がある。ということは逆に、軽く見られる根拠にもなるんだよねえ。 いま現代に生活している僕らの大多数は、芸術作品というのは芸術家が自らを表現したものだ、という考えを当然だと思っている。もっとも、日本語ではそういう芸術を特別に「アート」と横文字で呼ぶ傾向があるのもおもしろい。で、「芸術」って漢字で書くと、個性というよりなん

西洋美術雑感 19:ドゥッチオ「十字架から下ろされるキリスト」

キリストの受難劇は、数限りなくある宗教画でもっともよく描かれたもので、その中でも、この、十字架から下ろされるキリストは、さんざんいろんな画家が描いている。 ここに上げたのは、ジョットと並ぶ、ルネサンス前期のイタリアのシエナの大画家ドゥッチオのもので、その受難劇は全部で26枚あって、これはその中の一枚である。実は、僕は、西洋に数ある受難劇の絵の中で、彼のものをもっとも愛しているのである。 母マリアをはじめとする女たちの純一な悲しみの表現と、はしごをかけてイエスを降ろした

西洋美術雑感 18:レンブラント「水浴する女」

これまで北方ルネサンスの画家の描いた絵の底に隠れる奇妙な悪徳と、それゆえの幻想的な魅力について、だいぶ強調してしまった。そして、その独特の暗さは北欧の寒さゆえであろう、などと想像したわけだが、そのルネサンスの時代も過ぎると、北方のその暗さと重さは、幻想に向かう代わりに、静けさと自然さ、充足感のようなものへと向かって行ったように思える。 そんな次世代の北方の絵画の、その頂点に位置する画家が、オランダの画家、レンブラントであろう。 自分の感覚を言えば、レンブラントの絵画を