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68の事例からみる日本のスマートシティの現在地 【モビリティ編】

hayashoと申します。コロナを機に長野県の小布施町という人口1.1万人の町に移住し、まちづくりの仕事に携わっています。

このnoteでは、未来の地方自治体がどうあるべきなのかを考えるにあたって、最近よく耳にする「スマートシティ」って何ぞや?という問いを調べながら、分かったことを備忘録的にまとめています。

概要説明 / 第0回はこちら

0. Smart Mobilityとは?

モビリティ(mobility)とは一般的には「移動性」「流動性」を意味する単語ですが、特に都市計画の文脈では街の中の移動のしやすさを向上するための各種施策を指します。

高齢化が進み、運転に不安のある住民の多い地域や、利用者減少による公共交通の収益性の低下、観光客にとっての利便性の欠如など、多くの自治体がモビリティに関して何らかの課題を抱えています。こうした課題を、IoTクラウドやビッグデータを駆使することによって解決する取り組みが、Smart Mobilityです。

国土交通省は、2019年6月に、MaaS等新たなモビリティサービスの推進を支援する「新モビリティサービス推進事業」として19事業を先行モデルとして選定しました。これらのモデル事業は、(1)大都市近郊型・地方都市型(2)地方郊外・過疎地型(3)観光地型の各地域類型ごとに分類されて、国土交通省によって支援されています。

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それ以外にも、広島県東広島市ではアプリを使って乗車するオンデマンドバスを整備しているなど、オンラインで検索すると、モビリティに関する多くの実証実験が出てきます。

日本では始まったばかりですが、海外の都市ではすでに社会実装されている技術も多く、例えばバルセロナでは、シェアサイクルオンデマンドバスは勿論、駐車の空き情報を遠隔で認識できるスマートパーキングなどの先進的な施策がとられています。バルセロナでは駐車スペースが限られています。そこで、車道の一部を利用したスマートパーキングシステムを導入し、アプリやウェブ上で状況把握が可能になります。

また、北京では自動運転の取組が大規模かつ高速で行われています。3年以内に自動運転をサポートできるスマート道路を300キロ敷設し、300平方km以上の自動運転模範区を建設する予定だそうです。

移動は、地方でも都市部でも欠かせません。なので、移動にイノベーションを起こすことが、その地域の課題解決や活性化につながるのです。

このまとめ記事では、これまでの調査で見つかった日本国内の50個の事例を総括し、「実現させるための目的」「実現する手段」「対応する具体例」という切り口で整理をしてみました。スマートシティの事例として調べた68個の事例のうち、なんと53個がSmart Mobilityの取組を行っていました。

これらを大まかに分類してみると、スマートモビリティ施策の目的には大きく6つのカテゴリがあることが見えてきました。

・移動手段のアクセシビリティ向上(いつでも/だれでも/どこでも)
・観光地の魅力向上
・安全面の強化
・運送業の人手不足の解消
・環境汚染の抑制
・コンパクトシティの実現

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それではこれ以降で、それぞれの「目的」について詳細を取り上げていければと思います。

①移動のアクセシビリティ向上

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自家用車の依存が強い地域では、自家用車だと、免許を持たない高齢者や子ども、運転が難しい障害者といった人々が「交通弱者」となり、移動格差が生まれてしまいます。買い物や通院といった、生活に不可欠な行動ができなくなってしまうのです。

そこで多くの自治体が、移動のアクセシビリティ向上のための施策、つまり「住民がいつでも、どこでも、誰でも移動しやすくなるような仕組みづくり」を行っています。

アクセシビリティを向上させる手段の例としては、オンデマンド車両自動運転車シェアリングLRTグリーンスローモビリティMaaSなどが挙げられます。

オンデマンド車両 電話予約など利用者のニーズに応じて柔軟な運行を行い、公共交通のない地域でも気軽に移動ができる

自動運転車 運転者がいない状態で走行が可能な車両。自動運転には5段階のレベルがあり、現段階ではレベル3(特定の条件の下で自動運転が可能)までが公道での走行が認められている。

シェアリング 自動車や自転車、スクーターなどを様々な人とシェアをして利用すること。
Uberのように乗車をシェアするライドシェアや、レンタサイクルのように、手段そのものをシェアすることが含まれる。交通手段を大勢で共有することで、1人あたりの利用コストを下げる。誰でも隙間時間で気軽に運転手になれるため移動手段の供給量を増やす

LRT 各種交通との連携や低床式車両(LRV)の活用、軌道・停留場の改良による乗降の容易性などの面で優れた特徴がある次世代の交通システム 

グリーンスローモビリティ 環境の負荷を少なくし、時速20km未満で公道を走る事が可能な4人乗り以上の電動パブリックモビリティ

パーソナルモビリティ 自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1人~2人乗り程度の車両のこと。 ※国土交通省では「超小型モビリティ」と名称を統一していますが、多くの自治体は「パーソナルモビリティ」の導入と掲げている現状を踏まえ、「パーソナルモビリティ」としています。

MaaS ICT を活用して交通をクラウド化し、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな『移動』の概念

以下、これらを実際に利用している自治体の事例についていくつかピックアップします。

広島県東広島市では、ソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資会社MONETと連携して、オンデマンドバスを導入しています。乗客者は、MONETが提供するアプリ「MONET利用して乗車予約を行い、目的地に移動する仕組みになっています。参考記事

秋田県仙北市では2017年9月から2018年3月まで自動運転車の実証実験を実施しました。仙北市は、近未来技術実証特区に指定されており、ドローンによる図書配送無人運転バスなど、実サービスに向けた実証実験の誘致を進めています。その一環として自動運転車の公道走行の実験が行われました。参考記事

京都府精華町・木津川市の「けいはんなプロジェクト」では2019年10月~11月に、シェアサイクルの実証実験をし、移動の利便性を上げる試みをしていました。交通網が発達していても、徒歩での移動だと不便になる場合もあります。公共交通を降りてから目的地までのラストワンマイルの移動を容易にするために、自転車などのシェアリングは重要な役割を果たすのです。参考記事

シェアリングの他の例として、広島県三次市が挙げられます。そこでは、「支え合い交通サービス」の実証実験を2018年12月からマツダと連携して実施しています。仕組みはUberと似ていますが、Uberとの相違点は「自治体が主導して実施していること」です。アプリ「支え合い交通サービス」でドライバーとユーザーを繋ぎ、ドライバーがマツダから提供された自動車でユーザーを乗せる仕組みです。参考記事

栃木県宇都宮市では、「交通未来都市うつのみや」として、モビリティの取組が盛んに行われています。2022年3月からLRTの走行を予定しています。より低コストでアクセスしやすい公共交通を整備することで、高齢者をはじめとする交通弱者への移動手段の提供を可能にします。参考資料 また、2019年8月に市内の観光地でグリーンスローモビリティの実証実験を行い、観光シーズンにおける交通円滑化と地域内の回遊促進効果を確認したようです。参考資料

パーソナルモビリティ(超小型モビリティ)がなくても困らないのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、今の社会で走っている自動車は遠くに行くにも、近所のスーパーに行くにも同じ車両を使っているのです。人間に例えると、小さなカバンでも外出できる場所も旅行用の大型リュックサックを使用するようなものです。移動の目的や距離に応じて移動手段も変えても良いのでは?ということで、地域社会での生活の利便性向上のためにパーソナルモビリティの必要性が出てきました。NNCコンセプトとして、普及していきそうです。

茨城県つくば市では、以前からセグウェイが公道で走行可能な地域と認定されていましたが、パーソナルモビリティのさらなる導入として、生体情報異常検知システム等を備えたり歩行者信号情報システムと連動したりと小型モビリティの実装を図ろうとしています。参考資料

昨今では、MaaSに取り組む自治体が増えています。MaaSを掲げる事業の多くは、前述の定義を基に、複数の交通手段の予約や検索、決済を一つのアプリを使えるような仕組みづくりを行っています。例えば静岡県静岡市は、国土交通省の「新モビリティサービス推進事業」の先行モデル事業に認定され、しずおかMaaSに取り組んでいます。2019年11月にリアルタイム型AIオンデマンドタクシーの実証実験を行いました。長期的には、市民の安全な暮らしやゆとりの実現のために複数の交通手段の連携を目指しています。参考記事

②観光地の魅力向上

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観光の活性化としても、移動の要素は重要です。複数の観光スポットに行くために複数の交通手段を乗り継いで行かなければならない公共交通がないから自動車でないと目的地にたどり着けないなどの問題が挙げられます。そこで、「観光施設間の移動効率化」を目的としてスマートシティ×観光の取組が行われています。

「観光施設間の移動効率化」は、観光地の回遊性向上を目的としたグリーンスローモビリティなどの新たな移動手段の導入をしたり、アプリで交通手段を利用できるようにして、複数の交通手段を連携させたりすることで可能になります。

観光地によっては、駅やバス停から徒歩で行くには厳しい場所もあります。その場合、グリーンスローモビリティなどの新しい移動手段を導入することで移動がしやすくなります。前述の栃木県宇都宮市がその例です。

また、最近では茨城県大子町では「町民AI乗合タクシー」「観光AI乗合タクシー」「カーシェアリング」「夜間AI乗合タクシー」「臨時無料巡回バス」の5事業を同時に実証実験を2020年10月から予定しているそうです。5事業の実証実験は全国初だとか。 参考記事

①でもMaaSの取り組みについて挙げましたが、今回は例えば、滋賀県大津市では中心市街地から観光地へ行くための路線バスが廃止になったり、市内にある比叡山までのアクセスが複雑だったりと観光に関する移動で大きな課題を抱えています。それを、アプリ「ことことなび」を利用することで解決しようとしているのです。ことことなびは、観光スポット、近隣店舗等の立ち寄りスポット案内や乗換案内の提案をしてくれます。さらに、交通、乗換案内(無料)アプリ内で大津市内および比叡山の観光地にスムーズにアクセス可能な1日乗車券の販売近隣のお店で使えるクーポンの配布も行っています。

③安全面の強化

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移動には危険が伴います。交通事故を最小限にするためにも、Smart Mobilityは大きな役割を果たします。事故を防ぐためには、「道路状況の事故リスクの事前察知」「運転手の生体情報の取得による安全運転の確保」「高齢者の方が運転しなくても良くなるためのシェアリング」などの取り組みが見つかりました。

道路状況の事故リスクの事前察知には、移動手段のメンテナンスや運転者のサポートも重要ですが、道路のマネジメントも不可欠です。島根県益田市では、公用車に設置した道路モニタリングセンサーによりデータ収集を行い、IoTデータサーバーにおいて公開及びデータ集積をしています。集積したデータを用いて道路管理を行っています。参考資料 

前述のように、高齢者や障害者などは移動にハンディがありますが、地域によっては彼らも自力で移動することが必要になります。茨城県つくば市では、パーソナルモビリティを利用する障害者の健康管理ができるシステムを導入し、利用者のバイタル情報のリアルタイムモニタリングにより運転制御を行っています。事故が起きる前に、利用者の健康状態から事故の危険性を測るというものです。参考資料

オンデマンドバス相乗りタクシーなどの手段は、高齢者をはじめとする交通弱者の移動手段の確保が本質的な目的ですが、それと同時に無理をして自家用車を運転し事故を起こすリスクを回避できます。①移動のアクセシビリティ向上で言及した広島県三次市支え合い交通は、このような効果をもたらします。

④運送業の人手不足の解消

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モビリティに関わっている企業に目を向けると、昨今の人材不足の課題が見えてきます。そこにも、自動運転が大きな鍵を握ります。自動運転にすれば、運転手の必要がなくなる上、人件費削減につながります。また、自動運転ができない場合でも乗せる人やモノを効率的に運送することで物流と人件費の効率化が進みます。

愛知県春日井市では、路線バスを自動運転にする方針が取られています。さらに、自動運転バスが一般道ではなく、専用レーン上を走ることで、運行の高頻度化と低順延が実現できます。参考資料

愛知県豊田市では、ヤマト運輸と連携し、コミュニティバスを用いてモノと人を同時に運ぶ、貨客混載の取組を行っています。参考資料

⑤環境汚染の抑制

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地球温暖化が進み、環境に優しい生活が求められています。我々は、移動をすることで地球を汚染していますが、Smart Mobilityは環境問題の対策も可能にします。電気自動車の導入で、化石燃料からの脱却を図り、車以外の交通手段を充実させることで、二酸化炭素排出量そのものを減らすなど、環境汚染の抑制ができるのです。

福島県会津若松市では、市役所が利用する公用車を電気自動車にしたり、市民が電気自動車を購入する際に補助金を支給したりしています。参考資料

車以外の交通手段としては、パーソナルモビリティグリーンスローモビリティがあげられます。これらについては②でも取り上げましたが、電気で走るので化石燃料からの脱却が可能になり、低炭素型交通の確立が期待されています。

⑥コンパクトシティの実現

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コンパクトシティの実現のためにモビリティ施策に取り組んでいる自治体もあります。

コンパクトシティとは、公共交通機関などの都市機能が集約した都市と言われています。少子高齢化や人口減少によって従来の都市機能では都市として機能しづらくなった地域をコンパクトにすることで都市の空洞化を防ぎ、行政のサービスを質の高いものにできます。

移動に関してはコンパクトシティの構築によって、人々は大規模な移動をすることなくサービスを受けられ、通学・通勤が容易になります。

スマートシティの施策は、スマートシティを実現させると同時にコンパクトシティの実現にも寄与します。前述のように、コンパクトシティになるためには移動が容易になることが必要だからです。コンパクトシティでは「中心市街地の有効活用」「人が出会う結節点の創出」「歩ける街づくり」によって、移動の必要性を減らすことを目指しています。

コンパクトシティを実現するための都市計画の段階でデータを積極的に活用するスマート・プランニングというアプローチも存在します。スマート・プランニングは、個人単位の行動データをもとに、人の動きをシミュレーションし、施策実施の効果を予測した上で、施設配置や空間形成、交通施策を検討する計画手法です。ビッグデータを活用し、個人の行動特性を把握したうえで、施設配置や道路空間の配分をシミュレーションするので、他の計画手法と比べて、より最適な施設の立地を可能にします。移動の改善以外の目的も、スマート・プランニングは効果をもたらします。北海道札幌市では、スマート・プランニングを用いて市民が歩きやすいまちづくりを目指しています。それによって、中心市街地の賑わいを取り戻そうとしています。参考資料

京都府精華町・木津川市では、前述のように「けいはんなプロジェクト」というスマートシティの取組を行っています。この地域では、文化、学術、研究の中心都市として様々な企業や研究所が存在します。シェアサイクルをそのような施設間の移動手段として導入することで、研究機関・企業の垣根を越えた交流促進を目指しています。さらに目的地まであと一歩の「ラストワンマイル」に行くための移動手段に乗り換える、モビリティハブを整備して、移動する人々が集まりやすい空間を創出しようとしています。参考記事

また、国土交通省は、まちなかの居心地の良さを測る指標として「ウォーカビリティ」を挙げています。人々が歩ける空間づくりが、まちの良さにつながるのです。参考資料
そこで千葉県柏市の柏の葉では、ウォーカビリティの向上として歩きやすい空間構築をしたり、市民にランニングや散歩コースをウェブ上で提供したりしています。歩きやすい空間は、偶発的な出会いをもたらします。それが、交流の第一歩となります。参考資料

終わりに

以上、Smart Mobilityがもたらす効果と事例について述べてきました。Smart Mobilityに関して多くの自治体は、自動運転やMaaSの取組に注力を置いています。またSmart Mobilityの施策は、健康や交流機会など、移動とは関係のないように見えるものにも良い影響がもたらし、人々の生活を豊かにすることも分かりました。

次回は、Smart Environmentついて取り扱いたいと考えています。お楽しみに!




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