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68の事例からみる日本のスマートシティの現在地 【環境編】

hayashoと申します。コロナを機に長野県の小布施町という人口1.1万人の町に移住し、まちづくりの仕事に携わっています。

このnote連載では、未来の地方自治体がどうあるべきなのかを考えるにあたって、最近よく耳にする「スマートシティ」って何ぞや?という問いを調べながら、分かったことを備忘録的にまとめています。

前回のモビリティ編に続き、今回は環境編をお伝えします!

0. Smart Environmentとは?

地球温暖化や気候変動といった環境問題は私が幼かった数十年前から議論は活発にされていた印象がありますが、特に昨今では日本においても台風や豪雨による被害が顕著になってきており、この問題に対して取り組むことの重要性が改めて認識されるようになっていると感じます。

そんな中、Smart Environmentは、再生可能エネルギーの普及、IoTを活用したエネルギー消費の効率化、ごみの削減や資源活用による持続可能な社会の実現が理念とされています。つまりSmart Environmentは、技術を使って環境問題の解決を目指すアプローチです。

また、内閣府は持続可能な経済社会システムを持った都市・地域づくりを目指す環境未来都市」構想を進めており、柏市や横浜市などスマートシティの取組が盛んに行われている自治体が選定されています。

私自身も、小布施町の総合政策推進室としてゴミゼロ / CO2の排出削減次世代型インフラの構築に取り組むなど、環境政策に取り組んでいます。

このまとめ記事では、これまでの調査で見つかった日本国内の18個の事例を総括し、「実現させるための目的」「実現する手段」「対応する具体例」という切り口で整理をしてみました。環境への取組をしている自治体は他にもたくさんありますが、スマートシティの切り口で環境に取り組んでいる事例としてまとめています。

具体施策としては様々な例が存在するのですが、この記事では

①ごみの削減を目的とした「リサイクルの促進」「不法投棄への対応迅速化」
②環境負荷の低いエネルギーの活用を目的とした「電力使用量の最適化」「化石燃料の代替」「再生可能エネルギーの導入」

に分類してみました。以降で、これらの詳細を取り上げていきます。

1. ごみ削減

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私たちは日常生活に伴って多くのゴミを排出していますが、温室効果ガスや埋め立て処分場の問題など地球環境にとっても悪影響が懸念されます。また、自治体にとってもゴミ処理に膨大な費用がかかるという観点からも、ゴミの削減が求められています。(参考:「ごみを減らす3つの理由」

日本のリサイクル率は84%といわれていますが、その多くはゴミを燃やすことで熱エネルギーを回収する「サーマルリサイクル」が占めています。

熱を回収するため「リサイクル」と呼んでいるものの、ゴミを燃やすと結局温室効果ガスを排出するので、国際的にはリサイクルとは扱われていません。サーマルリサイクルを除いた状態での日本の実質リサイクル率は、なんと24%です。参考記事

したがって、サーマルリサイクル以外のリサイクルをさらに進めていくことが重要となりますが、そのためには市民側にも行政側にも手間を増やしすぎない形で、ゴミを適切に処理することが必要になってきます。

この点を技術によって解決しようとするのが、スマートシティにおけるごみ処理の取り組みです。

例えば神奈川県横浜市では、ITツールを活用したごみの分別ルールの周知として、NTTドコモと連携したチャットボットを開設しており、正しい分別が難しいゴミについて分別の相談ができます。このチャットボットは英語と中国語での対応もしており、日本語でのやりとりが難しい住民でも相談が可能です。

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また、LINEの横浜市公式アカウントでも分別の相談を行っており、そこでは粗大ごみの問い合わせも可能です。神奈川県鎌倉市でも、ゴミ分別の案内をLINEで行っていますが、直近の収集日や指定ゴミ袋の販売店の情報提供もしています。

神奈川県藤沢市では、慶応義塾大学と開発した「みなレポ」というアプリを利用して、ゴミ収集の業務改善を図っています。市の職員は、「みなレポ」を通してセンサーとドライブレコーダーを装着した収集車からゴミの実態を把握し、状況に応じた迅速な処理を目指しています。

2. 環境負荷の低いエネルギーの活用

菅首相は2020年10月の所信表明演説で、2050年までの温暖化ガス排出を実質ゼロとする方針を表明しました。このゴールを実現するためにも、現代の生活には欠かせない電力の作り方や使い方、化石燃料からの脱却などが急務となっています。

この記事では、これまで収集した事例を元に、再生可能エネルギーの導入、電力使用量の最適化化石燃料の代替、という3つのトピックで説明します。

2.1. 再生可能エネルギーの導入・普及

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私たちの日常生活に電力は必要不可欠ですが、日本で使用される電力の大部分は化石燃料に依存しています。地球温暖化の原因である二酸化炭素の排出を削減するためにも、環境負荷の低い形エネルギーの活用に取り組む自治体は少なくありません。

特にカギとなるのは、電力の地産地消です。東日本大震災や昨今の自然災害を経験した日本では、有事の際にも地元だけでエネルギーを自給自足できる仕組みへの転換が重要とされています。(参考:経済産業省

大手電力事業者が提供する火力発電などに頼らない、地域だけで自給自足できるエネルギー源とは必然的に、自然の力を利用した再生可能エネルギーが中心となってきます。再生可能エネルギーの導入を進めることで、温暖化ガスの排出を抑えつつ、災害にも強いまちづくりを実現することができます。

バイオマスエネルギー 生物から生まれた資源のこと。森林の間伐材、家畜の排泄物、食品廃棄物など、さまざまものが資源として活用されている。
太陽光 太陽の光エネルギーを太陽電池(半導体素子)により直接電気に変換する発電方法 
水力 水が高い所から低い所へ流れる時の位置エネルギーを利用して、発電を行う
風力 風の運動エネルギーで風車を回し、その動力を発電機に伝達して電気を発生させる
水素 水素そのものを燃焼させて空気中の酸素と激しく化学反応させ、そのエネルギーでタービンを回して電気エネルギーを取り出す
地熱 地下のマグマの熱エネルギーを利用して発電を行う

以下、それぞれのエネルギーの利用事例を見ていきます。

福島県会津若松市では、スマートシティの一環としてバイオマスエネルギーの地産地消の推進をしています。会津地域の山林未利用間伐材を主燃料として利用し、地域資源を活用した新たなビジネスを展開しています。林業の衰退で、間伐ができずに森林が放置され、新たに植林ができないという現状を間伐材の利用増加で解決しようとしています。(参考資料

また、電力だけではなくバイオマス燃料の燃焼時に発生するを有効活用することで、さらにエネルギー効率を高めることができます。例えば、岩手県紫波町では2014年に木質を利用したエネルギーステーションを建設し、町の公共施設や店舗に熱供給を行っています。参考資料

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画像出典:オガール紫波のエネルギーステーション

太陽光に関しては、民家の屋根にパネルをつけたりメガソーラーの設置など日本全国で普及が進んでおり、おなじみかと思います。また、地域全体のレベルで更に一歩踏み込んだ取り組みの例としては、千葉県柏市(柏の葉)が、太陽光パネルと蓄電池を活用した分散電源のシステムを実現しています。参考資料

水力発電と聞くとダムなどの大規模なものをイメージしがちですが、農業用水上下水道を利用する小規模なものもあります。東京都江東区では、マイクロ水力発電施設を河川に設置し、水力発電を行っています。参考資料
私のいる長野県小布施町でも、行政と民間事業者の協業のもと、地元を流れる松川の用水路を活用した小布施松川小水力発電所の運用が開始されました。

風力発電と聞くと、山や丘の上に風車が並ぶ光景を想像する方も多いかもしれません。しかし、海に囲まれた日本にとっては洋上風力発電も大きなポテンシャルを秘めています。福岡県北九州市は、経産省と環境省からエコタウンに認定されており、環境に配慮した取組が盛んです。響灘風力発電施設は日本初の港湾地域に位置し、大手電力会社ではなく響灘太陽光発電合同会社によって運営されています。

水素には、燃料電池以外の仕組みがありますがまだ実用化はされていません。しかし、兵庫県神戸市では水素スマートシティ神戸構想として水素エネルギーの利活用拡大に取り組んでいます。そこで、水素発電所の実用のための実証実験を2020年5月から行い、世界で初めて水素専焼ガスタービンの技術実証試験に成功しました。参考記事

最後に、火山大国日本には地熱資源が豊富ですが、調査に時間がかかったり、資源を発電目的で利用しにくい温泉地や国立公園での普及には至っていません。そんな中、長崎県雲仙市では温泉地の中に地熱発電を導入しています。参考資料

2.2. 電力使用の最適化

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また、再生可能エネルギーを使って電力を作ったとしても、消費者側がエネルギーを無尽蔵に使ってしまえば供給が追い付きません。そのため、スマートグリッドHEMSBEMSなどによる電力使用の最適化も重要な取り組み

千葉県柏市(柏の葉)は、家単位や地区単位ではなく街全体でエネルギーの最適化が先進的に行われています。日本で初めてスマートグリッドを導入し、地域で電力を融通しあう仕組みを構築しています。そのほか、HEMSによって家庭内の電力使用量を可視化し、住民の電力使用削減のインセンティブに繋げています。「特定供給」によって既存の住宅街区に電力供給を行う仕組みも整えており、災害時の電力確保にも利用できます。参考資料

東京都江東区(豊洲エリア)では、電力だけでなく熱の分散システムを整備しています。コージェネレーションシステムの利用で二酸化炭素の排出を約20%削減できます。さらに、過去の使用状況や気象情報などのデータを基にして次の日の電力供給の最適化を行うことを可能にしています。

2.3. 化石燃料を使わない選択肢への転換

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また環境負荷を下げるという意味では、日々の電力使用を減らすだけでなく、CO2排出の原因となる化石燃料を他のエネルギー源に代替ことも重要です。例えば、従来ガソリンを使っていた自動車の代わりに、電気自動車燃料電池自動車を導入するといった取り組みが該当します。

例えば、福島県会津若松市では、電気自動車の普及を推進しています。市の公用車を電気自動車にしたり、市民が電気自動車などのクリーンエネルギー自動車を購入する際に補助金を支給したりしているようです。さらに、災害時に安定した電力確保のために、電気自動車から電力を供給できる体制を構築しています。参考資料

燃料電池自動車(FCV)は、一般的に水素を燃料にして走行する車両のことです。保有台数は、2018年時で3009台、燃料を補充するスタンドは全国に133か所(2020年8月時)とまだまだ普及はしていません。しかし、大気汚染の原因となる物質を排出せず、ガソリン車よりもエネルギー変換効率が高い点で、今後の普及が見込まれます。東京都江東区では、燃料電池車への補助金制度を設けているほか、一般車だけでなくバスにも水素を供給できる水素ステーションを設置しています。

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画像出典:日経新聞「東京ガス、豊洲に水素ステーション バスにも供給」

おわりに

以上、Smart Environmentに含まれる様々な事例について述べてきました。スマホアプリ上でのUXの改善から、比較的大規模な再エネ施設の開発まで、様々な施策がありましたが、いくら投資をしたとしても最終的には私たち市民の行動が変わらなければ、結果に繋がらないことは明白です。

小布施でも環境分野は特に重点領域として取り組んでいますが、まずは足元自分たちに出来ることを着実に進めていくことが大切だなと感じました。

次回は、Smart Economyついて取り扱いたいと考えています。お楽しみに!

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