「静かな夜のマーレ」第12話
その夜のことはいやに鮮明に覚えている。客入りの多い時間帯になっても馴染みの客以外は来店が無く、いつもはひっぱり回される嬢たちものんびりと談笑していた。カウンターに居座っているディーは相変わらずだらだらとウィスキーを飲んではチェンに絡んでいるが、当のチェンは怪訝そうな顔でグラスを拭く時間が多くあった。雨が降っているわけでも、海風がびゅうびゅう吹いているわけでも無い。そんな穏やかな夜なのに、リコは胸騒ぎがして仕方がなかった。それは、このあと来店する予定の客に身構えているせいでも