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大正スピカ-仁周の第六感-|第2話|神格化

「本当によかったのですか? 彼を置いてきて」

「周は元々、自分の意思でここへ来たわけではありませんので」

「確かにそうですが、彼には、私もたくさんお世話になりましたし、彼にとっても、鈴子さんの側に居た方が良い気もしますが……」

「私も同じ考えです。ですが、周本人に決断してもらうのが一番だと考えています。若さゆえの葛藤もあるでしょう。その辺もかんがみて、周にはもう少し時間を与えないと」

そこに駿河も加わり、3人で話し始めた。

「今、彼は、自分と周りにいる子どもたちを比べながら、必死に戦っています。能力があるからといって、誰もが特別な人間ではありません。大人になる前の彼が、国を背負うという大役をすぐに受け入れられないのは当然のことです」

「私もそう思います。安心してください。周は必ずここへ戻ってきます。能力のある人間が普通の生活を送る大変さも、周は分かっているはずです」

「そうだといいのですが……。私が周をここへ連れてきた責任は大きい。しかし、もし周がいなかったら、我々はどうなっていたのでしょうか? こうして陛下が戻ってくることはなかったかもしれません。それだけ、すでに彼に助けてもらっています。鈴子さんから与えられたこの時間も、彼だけでなく、国にとっても必要な時間なのかもしれませんね」

「本音を言わせてもらうと、周には、以前のように全ての未来が見えていてほしかった……」

「それもまた運命なのかもしれません。周が今、私たちのところにいないということは、逆に今、私たちと関わりを持ってはいけないということです」

「なるほど。もしかして、それで周くんを?」

「はい。離れることで、八咫烏や天皇家、対立するもう一つの八咫烏の動向を周に見てもらいたいのです。もちろん、この事に周が気付けばの話ですが……」

鈴子は、周を心配しながらも、日本にとって最良な判断を下そうとしていた。

國弘はその時、鈴子が今までの八咫烏にはない思考の持ち主であることを再確認していた。

「ここから本当の戦いが始まります。鈴子さんのように、私たち八咫烏は、先読みをしていかなければなりません。各々の決断が後に活力となり、良い未来を繰り寄せることになるでしょう。一人一人が自分を信じて前に進みましょう」

「……であれば、私の能力をお使いください」

國弘に話しかけてきたのは、衣織だった。

「私は、貴方の兄のことを知っています。この計画の首謀者は、彼です」
 



その頃、鈴子や國弘以外の八咫烏のメンバーは、ある場所に集まっていた。

「予定通り天皇が復活し、父が逮捕された」

立場上、裏天皇の座を手にした正篤と國弘の兄。

この二人が中心に立っていた。

天皇家の血筋に変え、奪うこと。

この全貌をくわだてた國弘の父親は、名前を変え、自分が天皇となり、天皇家を裏へ追いやった。

衣織と國弘の兄を結ばせる計画も、正篤自ら率先して行い、彼の言う通り行った。

それも全て、自分たちの計画を遂行するため。

正篤は、最初から國弘の父親を騙す目的で動いていた。

あえて天皇を復活させ、國弘の父親にこれまでの全責任を負わせる。

これが二人の計画だった。

八咫烏のメンバーは、元々天皇家に近い血筋を持つ者たち。

彼らには、天皇家を守る役目がある。

とはいえ、心の中では、誰もがその座を奪いたいと強く願っていた。

その願いを、二人は新たな血筋をつくることで、彼らに分からせたかったのだ。

今の血筋の在り方に納得している者はいない。

彼らの不満を天皇にぶつけられるか否かは、全て正篤にかかっていた。

八咫烏のメンバーが注目する中、國弘の兄が立ち上がった。

「今日より、我々が陰を担う時代は終わりを告げる。八咫烏こそ、本来、天皇家となるべき血筋であり、ここにある十字架が、世界に真実を知らせることになる。そして、日本人最初の血筋であるサンカと八咫烏、両方の血を合わせ持つ者もすでに誕生している。これまでの古い考えはこれで終わりだ。このにせの国を終わらせ、彼らにこれまでの罪を償わせろ! ようやく我々が光を浴びられる日が来たのだ!」

この内容を上の立場の正篤ではなく、國弘の兄に言わせたのは理由があった。

「これより、第二の計画を実行する」

正篤の合図とともに、4人の黒服を着た男たちが現れた。

それは、かつて鈴子が京都で営んでいた店に現れた、あの4人組の男たちだった。

「満州を我が国とする」

最初の目的は、日本ではなく、中国の満州。

この場所は、正篤が若い頃、修行に訪れた場所。

実は、裏で密かに関係者と繋がりを持っていた。

「すでに、現地に関東軍を配置済みです」

「まずは狼煙のろしを上げることだ。天皇率いる日本軍が、いかに無能であるか、それを見届けようではないか。古き血筋の醜態しゅうたいを世にさらすときが来たようだ」
 



「これから緊急軍議を行う」

京都市の南にある宇治川大橋のヘリポートに、天皇から緊急指示要請を受け、集合した日本軍の兵士たち。

彼らに、軍議の決定をその場で待つよう、待機命令が出されていた。

そこに天皇率いる八咫烏が現れた。

「現在の国の状況を説明します。世界恐慌の影響で、日本経済は深刻な状況に見舞われています。国民の不安が募る中、その矛先が天皇に向けられようとしています。しかし、これも全て裏で操られていること。一刻も早く、国民の信頼を取り戻さなければなりません」

「それだけでなく、天皇への不信感は、政府や軍にまで及んでいる状況です。信頼を取り戻すのが先決。何か良い案がある者、挙手を願いたい」

澄子が手を挙げた。

「明治以降、日本は変わってしまった。神職が、霊格のある者ではなく、元政府の天下り先になったおかげでな。さらに、目に見えぬものを尊重する心も失われつつある。世界恐慌によって、武力や兵力といった形あるものを恐れ始めているのだ。今の我々では、国を取り戻すことなと不可能だろうな」

「澄子さんの言う通りです。今の国民は、あまりにも目に見えるものへの執着心が強い。今一度、その考えを改める教育が必要です」

「確かに教育の改革は必要だ。だが、もう遅い。何か、瞬時に国民に知らせる方法はないか?」

國弘が答える。

「かつて、日本は卑弥呼が先頭に立ち、あえて透視能力を表に出すことで政権を握ってきました。この彼女のノウハウを活かしてみてはいかがでしょうか?」

「それなら天皇が透視能力者であることにすれば問題はない。日本軍への司令は、我々が透視し、陛下に伝える。だが、もしそこに裏切り者がいれば、利用される危険性は高まる」

「確かに、卑弥呼政権は後に崩壊しています。ただ、リスクはありますが、今後起きる出来事を回避するためには必要かと。陛下、御意見を」

天皇が話し始めた。

「分かりました。透視能力というものが現実に存在することを国民に知らせ、今一度、本来持つべき日本人の心を国民に取り戻してもらいましょう。これより、私の指示は神の意思であることをここに伝令します。では、早速、予言をいただきたい」

澄子がいつものように神下ろしをしようとしたその時、國弘が、澄子の動きを止めた。

「衣織さん、ここからは貴方の番です。貴方の透視能力を使わせてください」

「はい」

衣織は目を閉じ、透視を始めた。

「日本はここから世界大戦に突入します。その最初の狼煙が中国で上がります。そして、日本軍が鉄道を爆発する動きを見せ、これを皮切りに、新たな国が誕生します。満州という国です。その国を放っておけば、いずれ日本は滅びるでしょう」

「満州は以前から私の予言にも出ていた。彼女の判断は正しいと見て良いだろう」

「分かりました。まずは、今一度、陛下より関東軍へ不拡大方針を伝令し、直属の日本軍も満州へ向かわせてください。そして、その旨が神の意思であること、さらには鉄道の爆破計画も見抜いていることもお伝えください。神の目を持つ天皇が誕生したと国民に知らせるのです」

八咫烏の緊急軍議により、天皇を神格化することが決定した。
 



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