大正スピカ-仁周の第六感-|第9話|岐路
「ついに、麒麟が現れました。我々の想定を遥かに上回る結果です。もう破滅を受け入れるしかありません」
記録的豪雨と発生した落雷は、一夜にして、各地に甚大な被害をもたらした。日付が変わっても、その勢いは止まるところを知らない。
今のところ、京都御所周辺だけは、強い結界が張られているおかげで、被害を魔逃れている。
そんな中、天皇を交えて、会議が開かれた。
「麒麟のエネルギーは、破滅をもたらします。現に、衣織さんの能力は、使えなくなっています。さらに、澄子さんの神降ろしも天と繋がらない状況です」
「現在、メンバーの中で能力を持つ者は、サンカと龍族、そして、周、君だけだ。ただし、君たちも麒麟のエネルギーを受ければ、全員能力を失うことになる」
満州の争いも、解決の糸口が見えていない。
この状況で自分たちは何が出来るのか。
ここにいる全員が模索していた。
「我ら龍族は、浮島をつくり、これまで麒麟のエネルギーを浄化する役目を担ってきた。その時、我々に協力してくれていたのが、四神である『黄竜』だ。黄竜が、麒麟のエネルギーを吸い取り、浄化してくれていた。日本は、龍のおかげで保たれていたと言っても過言ではない。その事に気付かず、人間は、欲に塗れた。彼らの罪は重い」
これから互いに手を取り、助け合うはずの両者。
しかし、距離は縮まるどころか離れていく一方だった。
それでも、國弘は、説得を続けた。
「我々は、この地を諦めてはいけません。日本以外に、これほど人間と神の繋がりが許されている国はありません。まずは、満州の争いを止めるべく、現地に張られた結界を取り除かなくてはなりません。サンカと龍族の皆さんの協力が必要です。我々に力を貸していただけないでしょうか?」
「無駄なことです。すでに見放されています」
「麒麟が暴れ回った今、この地にもう神々はいない。この状況をどう変えろと申すのだ?」
國弘は、返す言葉がなかった。
すると、周が話し始めた。
「失礼ですが、なぜ、黄竜に頼み、麒麟を抑えてもらうことができないのでしょうか?」
その発言に龍族たちは笑った。
「面白いことを言うな、君は。黄竜は、麒麟が復活させないために動いていた神だ。麒麟が復活した今、彼はもうその役目を終えている。そのエネルギーは、もう残っていない」
「そもそも、黄竜は、最初からその役目を担っていたのでしょうか? 他の龍たちと協力すれば、麒麟を止めることはできるはずです」
一瞬戸惑いを見せた長老。
しかし、すぐ冷静になると、周をなだめるように話し始めた。
「確かに龍はかつて何百体と存在していた。しかし、その龍たちも逃げるようにいなくなってしまった。それが今の現状だ」
「でしたら、その龍たちを呼べばいいのではないでしょうか? そのために、あなた方がいるはずです」
鈴子は、周の言葉を聞いて驚いた。
自分たちでは決して言えない、一点の曇りもない発言。
何のために生まれ、何のために存在しているのか。
今やるべきことを、なぜ、躊躇するのか。
鈴子は、それを、周が上の立場から問い正しているように見えた。
周の純粋な瞳に吸い込まれそうになる長老。
しかし、彼は、冷静に返した。
「龍を束ねるには、その龍を扱えるだけの器が必要だ。さらに、龍にも位がある。龍の中で最も位が高く、全員を束ねていたのが、黄竜だ。彼のエネルギーが感じられない今、龍族の血を引く我々でも、麒麟を抑えるのは、そう簡単なことでは……」
すると突然、長老の動きが止まった。
他の龍族たちがざわつき始める。
「……信じられない」
「長、どうなさいました?」
「黄竜様が、君の背後にいる。これは一体……?」
周は能力が戻っただけではなく、あの瞬間、黄竜と繋がっていた。
黄龍のエネルギーが、周の背後から出ていたのだ。
「通りで。先ほどから、彼が長に対して、全て上から話していらしたので、不思議に思っておりました」
龍族全員が納得した。
「彼の発言、いや、黄竜様が導いてくれたこの発言を我々が無駄にしてはならぬ。どうやら、我々は実行しなければならぬようだ。周、こちらへ来なさい!」
そう言って、長老は、ある場所へ向かった。
「周! 君ならあの暴れ回る麒麟に話しかけることができるはずだ。まずは、我々が、龍たちにここへ集まるよう指示する。もちろん、黄龍からの口伝としてな。そして、龍たちに君が黄竜であると認識させる。つまり、君は、百匹の龍の長となるのだ」
龍族たちと、鈴子、澄子が見守る中、長老は、鞍馬寺の最上部にある本殿の前に敷かれた金剛床に周を立たせた。
鞍馬寺は、かつて日本をつくるために、神々が、海底を隆起させた場所に建てられた寺院。
神々のエネルギーが残っている場所が、龍たちを呼び起こすのに最適であると、長老が判断し、この場所を選択した。
チャンスは一度きり。
暗闇に包まれた未来とほんの僅かでも光が灯る未来。
後者に進むためには、麒麟を止める以外、方法は残されていなかった。
「僕が未来を変えてみせます。そのために、黄竜の力があるのですから」
周は、目を閉じ、時を来るのを待った。
すると、黄竜の呼び掛けに応じ、次々と龍たちが集まり始めた。
百体の龍が揃うと、最後に、白龍と黒龍がそれぞれ反対方向から現れた。
この二体の龍が、戸愚呂を巻くようにして、周を押さえ付ける。
それでも全く動じない周。彼の放つ黄色の光は、遠くに見える麒麟の雷より、光を放っていた。
「あの麒麟を止めなければ、あなた方が守ってきたものは全て失われます。今、あなた方がどれだけ、私たち人間に失望しているかは分かりません。ですが、今、全員同じ場所にいます。一緒に最善を尽くし、全員で生き残りましょう。手を貸してください!」
しばらくすると、
「周、どうやら、黒龍と白龍は君を認めたようだ……」
長老がそう伝えると、周は、目を見開いた。
周の目に飛び込んできたのは、麒麟の姿。鱗や立髪が見え、同時に、彼の激しい怒りの感情が伝わってくる。
一斉に百体の龍が麒麟に飛び掛かると、さらに、怒りは激しさを増す。
麒麟は、京都の中心部を目掛けて、雷を落とした。
京都に張られていた結界に亀裂が入る。
「落ち着いてください! 貴方は破壊神ではない! 悪のエネルギーに振り回されているだけです! お願いです! もう止めてください!!」
全く聞く耳を持とうとしない麒麟。
その後も、彼は雷を落とし続けた。
龍たちが雷に巻き込まれ、傷付いていく。
「これはまずいな。麒麟が激情してしまっている。私からも神々に伝えているが、応答がない。どうしたものか……」
澄子は、冷静にその様子を見ていた。
「周、この先、何が起こるか見えているのか?」
「いいえ、何も見えていません。ただ、どこかで麒麟を操っている人物がいます。白龍と黒龍、その人物が誰か見てきてください」
周が指示をすると、黒龍は、麒麟と繋がっている黄色い光の間にある黒い鎖のようなものを見つけた。
それを辿りながら、進んでいく。
その間に、白龍は、他の龍たちに鎖を断つよう指示を出した。
黒龍が辿っていくと、そこにいたのは、裏の八咫烏たち。
彼らが、麒麟に何らかの術をかけ、混乱させているようだ。
すると、
「黒龍が来たぞ!」
八咫烏たちに気付かれた。
しかし、黒龍と目が合った瞬間、八咫烏たちは、黒龍のエネルギーを喰らい、その場で仰け反りながら倒れた。
そのまま黒い鎖は消え、黒い塊となった負のエネルギーも、どこかへ飛んでいってしまった。
黒い鎖ががなくなったのを確認した黒龍は、急いで周たちのもとへ戻った。
すると、さっきまで暴れ回っていた麒麟は、穏やかな表情で、その場に留まっていた。
破壊された街の状況を見て、麒麟は、我に返る。
傷ついた龍たちが麒麟に話しかけ、白龍が先導すると、そのまま龍の列に沿って、麒麟は静かに移動し始めた。
「どうやら麒麟を止めることが出来たようだな。周、龍たちはどこへ向かうと申しておる?」
「このまま満州の結界を解いてくれるそうです」
龍たちは、周の心を読み取り、満州へ向かった。
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