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大正スピカ-白昼夜の鏡像-|第15話|代償

散楽さんがくを演じながら、おうぎを使い、京都御所の中庭で舞を踊る天皇。

猿の面を被り、自分が舞う姿を宮女きゅうじょたちに披露している。

囃子はやしが鳴ると、天皇は、猿の格好に早替わりし、猿真似を披露し始めた。

その姿を見て、宮女たちは拍手をし、笑っている。

「のう、そんなしかめっ面をして見てないで、お主も踊らぬか?」

高笑いしながら話す天皇を険しい表情で見ていたのは、正篤だった。

そんな正篤のことを気にも留めず、天皇は、弓を手に取ると、猿の格好で十二の的目掛けて矢を放った。

「見よ! 我は、面を被っていても的に当てることができるのだぞ? 少しは見直したか、正篤よ」

宮女たちが拍手をする中、正篤は、天皇がこの遊びに飽きるのをひたすら待っていた。

矢が十二の的に半分当たったところで、天皇は、弓を捨て、正篤のもとへ駆け寄り、座った。

「見たか、正篤! 十二の的のうち、半分も当たっておる。まるで、昨夜の烏と同じようだ」

天皇家を守る役目である八咫烏を、天皇は、堂々とさげすみ、正篤の顔を覗き込んだ。

「陛下、そろそろ会議のお時間になります。遅れてはなりませんので、早めにお着替えをお願いいたします」

正篤は、眉一つ動かすことなく、静かに天皇を促した。
 



「お体は大丈夫ですか?」

鈴子は、二人を心配したが、周の記憶以外、特に問題はなかったようだ。

あの後、澄子も合流し、昨晩の出来事について4人で話し合っていた。

「駿河の消息は、未だ掴めていない。さらに、表の八咫烏のメンバーが6名消息を絶っている。たった一日で、何が起こっているのだ……そういえば、まだ安倍晴明が生きていると駿河から聞いたが、國弘、どういうことだ?」

國弘は、即位礼烏の儀で起きた出来事を全て、澄子に話した。

「そんな奴が八咫烏の祖先だと? なら、なぜ周の能力を恐れる? 八咫烏として、能力が高ければ恐れる必要などないはずだ」

「何か裏に問題があるのは間違いないかと。それに、あれから彼は消息をっております。彼の家の所在は、神岡神官と駿河しか知らないはずです」

「國弘の話からして、晴明と正篤には何か繋がりがありそうだな」

「神岡神官は現在、京都御所で天皇の指南にあたっております。どうも、それから、陛下と神岡神官の様子がおかしいのです」

「確かに。全てはあの一件からかもしれんな」

「あの一件?」

「あっ、鈴子さんはご存知ないかもしれませんね。大正天皇の時代、鈴子さんの夫、裕次郎と初めて八咫烏の会議に出席した時のことです。あの一件で、全てが変わってしまいました。裕次郎は、決して言ってはならない未来を言及してしまったのです。それで、彼は、透視能力を失いました」
 



それは、大正天皇出席のもと行われた、八咫烏の会議での出来事。

大正天皇に、裕次郎が、未来透視の観点から十字架の必要性について話をしている時だった。

裕次郎は、ある重要な未来を天皇に伝えてしまっていた。

「十字架は、次の天皇陛下が手にする運命にあられます。十字架が必要とされる理由は、次の天皇陛下の時代にあります。日本は今後、世界に攻撃される運命にあるのです」 

「ほう。それで、我が国は、どのように攻撃されるのですか?」

「日本中に核兵器が投下されます」

「馬鹿げたことを……」

「事前に交渉を行っていた日本は、21個の核兵器のうち、18個の核兵器を未然に防ぎます。しかし、日本は、残りの三つの核兵器が投下される運命にあるのです。この運命は、どう足掻あがいても変えられません」

「なるほど。では、その三つの核兵器はどこに投下されるのですか?」

「核兵器が投下されるのは、東京、長崎、そして、……」

決して話してはならない未来の話。

その代償に、裕次郎は能力を失い、記憶を消された。その瞬間、なぜか大正天皇は笑みを浮かべていた。

日本の運命を口にしてしまった裕次郎は、その場で八咫烏になるのを辞退した。
 



「正篤は、あの時、何らかの情報を知っていたと考えてよいだろう。会議の一部始終を見ていたのは、大正天皇、我、國弘、そして、正篤だけだ」

「澄子さんの仰る通りです。つまり、外国に加担している者が、八咫烏にいる可能性が高いということです。このままでは、本当に、日本は攻撃されてしまいます。何としてでも、国の未来を変えなければなりません」

「こんな一番大事なときに、安倍晴明と名乗る人物が現れ、八咫烏のメンバーの詳細まで分からなくなるとは……」

「裕次郎は、話していた未来を変えるために八咫烏になったはずです。それをあの時に……。今は、天皇家の人間も信用できません」

夫である裕次郎の過去を何も知らなかった鈴子は、肩を落としていた。

「裕次郎が、そのようにお話ししたのですね。私は、何も知らずにここまで……。なぜ、そこまでして十字架が必要なのでしょうか? そこの部分だけ、抜けている気がしてなりません」

「十字架は、キリストがかつて所持していた宝。その十字架が、日本へ渡っているのだ。失われた十支族の伝説は、知っているであろう? 彼らが、舟で日本へ渡り、その時に十字架をある場所へ隠した。それを世界中が探していたのだ」

「キリストの十字架が全ての始まりです。この十字架に隠された秘密は、世界の流れを大きく変えてしまうほどのものだと言われています」

「左様。十字架を昭和天皇が手に入れ、世界を変えるとき、十字架が初めて、人々の目に触れることになる。十字架は本来、平和な世界を目指すため使用されるもの。そう我は、神降ろしで聞かされている」

「一時期、十字架は、政府に掘り起こされそうになっていました。その事実に気が付き、危険を犯してまで移動させたのが、鈴子さんの前世、天草四郎です」

「天草四郎が生まれ変わり、裕次郎の夫となった。そして、こうして新たな血筋が誕生した。我々は、再び十字架を取り戻さなければならない。国の未来を守るために」

鈴子と周は、全ての繋がりを國弘と澄子から聞かされた。今日、4人は、運命をひらくために、今後について話し合いをしなければならなかった。

「周、お前だけが自分に関わる未来が見えていた。それを晴明に奪われた。これから我々がどうすべきか、何か分かることはないか?」

「……あります。ここまで話を聞いていて、何となく分かったことあります」

「何だ?」

「安倍晴明の正体です」

「本当か!?」

「はい。先ほどの大正天皇のお話を聞いて分かりました。安倍晴明の正体は……」

周の言葉を聞いて、三人は驚いた。

その内容は、三人の予想を遥かに超えるものだった。

「信じられない内容だが、これがもし事実なら、辻褄が合う。奴は、必ずあの場所へ現れるだろう。これから我々が目指す未来を実現するためには、まず最初に晴明を討たければならんかもしれんな」

「策を練りましょう。ここを越えられれば、真実が見えてくるはずです。最悪な未来を防ぐことができるかもしれません。ここからは、私がおとりになります」

國弘は、自分の身に危険が及ぶのを覚悟のうえで、ある決断をした。
 



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