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大正スピカ-仁周の第六感-|第7話|儀式

「また人間が、我々をおどしに来た。そのせいで、千年以上、雨の降っていないこの島に、雷が鳴り響いている。我々の手で、彼らをしずめるときが来たようだ。これからにえの儀式を始める!」

3人は、雷が鳴り響く中、木に縛りつけられていた。

「アカマタとクロマタの二手に分かれよ! 血をうばい、大地に、この汚れた魂を封じ込めるのだ!」

赤のお面と黒のお面をつけた住人が一列に並び、何かを唱えながら、少しずつ近づいてくる。

そして、3人を縛りつけている木を取り囲んだ。

長老は、松明たいまつに火をつけると、輪の中に入り、一人ずつ顔に松明を押し付け、睨みつけた。

「死の淵に立った人間の顔、しかと見届けよ! 我々龍族の声は、天と繋がっている。彼らは、憎しみを背負いながら死ぬことになるのだ。まずは、この若い血を天に捧げよ!」

周のまわりにアカマタたちが集まると、彼らは、隠していたひづめあらわにし、一斉にぎ始めた。

そして、順番に、その蹄を周の体に当てていく。

「やめろ!!」

「さあ、若き少年よ。背負ってきた運命が、今、絶たれようとしている。最後に言いたいことはあるか?」

周は、死を覚悟した。

そして、ゆっくり目を閉じた。

すると、龍族たちから流れ出るが、何か訴えてくるのを感じた。

なぜか、彼らから、恨みや憎しみを感じない。

むしろ傷つけたくないという強い意思を感じる。

さらに、彼らの足元や木に巻き付いている根から聞こえてくる声が、周に訴えかけてきていた。

今目の前で起きている儀式よりも、強く慌ただしい氣の流れ。

根を通して伝わってくる浮島の危機。

それらが一体となり、雷に打たれたような感覚が全身を駆け巡る。

「どうした? 最後に話すことはないのか?」

周は、勢いよく目を開け、長老の目の奥を見つめた。

そして、彼は、意外な言葉を口にした。

「……麒麟が来る」

「え? 今、何を……」

「麒麟が来ます! 全員、早く逃げて!!」
 



「澄子さん、現在のところ、我々がこの局面を乗り越えられる確率はどれくらいありますか?」

「……それは、私にも分からぬ。だが、我々の身に起きることは全て、神の意思によるもの。それらの試練を乗り越え、生き延びた先にあるのは、また次の時代。とにかく今は、我々が手を取り合い、協力することが大事だ」

澄子は、天照大神の意思を神下ろしで聞いているが、具体的な解決策に関しては、神も詠めない状況だった。

「サンカへの説得はまだですか? 何か予言はないのですか? こうしている間にも、命は絶たれているのですよ!」

天皇自身も、この先の運命を懸念していた。

國弘は、鈴子を見て、こう訴えた。

「今は、まだ世界大戦になっていないだけです。すでに各国のトップは、我々の勢力が衰え、天皇に対する忠誠心が欠ける日を待っているのです。我々をいつ攻撃してくるかは分かりません。まずは、一刻も早く、関東軍の暴走を止めなければ。何か、結界を解く方法はありませんか?」

「周なら、この結界を解くことができるかもしれません。ですが、今はそれができない。……でも、周は、必ず私たちのもとへ戻ってきます。彼は、全てを見通す力を身につけ、ここへ戻ってくるはずです。時代は、周の意思を待つことになります。周は、夫、裕次郎の孫ですから」

澄子の能力をもってしても解決策を見出せないこの状況。

それでも、鈴子は、周を信じて待っていた。
 



「どういうことだ、周!」

「分かったのです! ここにいる住人たちは、最初からこの儀式を計画していました。彼らは、僕たちを殺したりはしません。これは、見せかけの儀式です!」

駿河と駿河の父親は、周が何を言っているのか分からなかった。

そのまま二人は長老の目を見た。

長老が松明を静かに置くと、まわりにいた住人も蹄をしまった。

「正解だ、周。ここにいる全員、最初から君たちを傷つけようとは思っていない。君が言う通り、これはただの見せかけだ」

「何がどうなっているんだ?」

周と長老が不思議なやり取りをした後、3人は、縄を解かれた。

「そんなことより、大変です!!」

「あぁ、分かっている。私たちは、龍族だからな」

再び、未来透視できる者同士、会話を始める。

そこでようやく、駿河は、周の変化に気が付いた。

「もしかして、周、自分のことが見えるようになったのか?」

「はい。彼らとこの浮島が繋いでくれたんです。ただ、今度は、浮島に危険が迫っています。この島は今、何者かに狙われています!」

周が訴えた瞬間、上空から数十台のヘリコプターがやってきた。

日本軍のヘリコプターだ。

浮島の一部が燃え盛っているのが見える。

「何なんだあれは! 黒い物体が近づいてくるぞ!!」

燃え盛る方向に、浮島とほぼ同じ大きさの真っ黒な浮島が現れた。

そこから二つの大砲がこちらに向けられている。そのうちの一つの大砲から白い煙が上がっているのが見える。

「あれは、浮島ではない! 戦艦じゃ! 何者かが、この浮島に似せて造らせた模造品に過ぎん」 

もう一つの大砲が、浮島のある方向へ向きを変え始めた。

すると、上空のヘリコプターが、一斉に戦艦へ向けて射撃を開始した。

そして、ヘリコプターから梯子はしごが降りてきた。

「誰だ! 我々の心に話しかけてくる者は!?」

住人たちが急に動き出し、話し合いを始めた。

そして、長老のもとへ駆け寄る。

「そういうことか。皆の者、梯子を根にくくれ!」

長老が指示すると、その様子を見て、周の表情は笑顔になった。

「おい、周! 今度は何なんだ!」

「衣織さんです! 衣織さんが、あのヘリコプターに乗っています。彼女は、ここに生まれた龍族の娘だったんです。それを知って、ここに駆けつけてくれました」

上空にいるヘリコプターと浮島を梯子で繋ぎ、固定すると、数十台のヘリコプターの力で浮島を戦艦から遠ざけることに成功した。

それによって、2回目の大砲の弾は届かず、海に落下した。

「大丈夫です。このまま、浮島も皆さんも無事です。今後、危機が訪れることはありません」

「そうか。大丈夫なんだな?」

「はい」

住人たちは、周の言葉を聞き、まだ追いかけてくる戦艦が見えているにも関わらず、安心していた。

「これが、君たち人間の能力か。こんな緊迫した状況で、心を乱しているのは我々だけだった。私たちでは、到底敵わぬ能力じゃな」

そのまま浮島を一気に移動させると、戦艦は、その場に留まった。

「彼らは、幻獣である麒麟を呼び起こし、麒麟の持つ能力を授かろうとしているのだろう。そんなことより、手分けして島を修復するぞ」

浮島にいる全員が、正篤たちの欲深さに気付いていた。

あの戦艦は、正篤がつくらせたものだった。

正篤は、浮島を沈めるために、あらかじめ準備していたのだ。

しかし、誰一人干渉しようとせず、黙々と浮島の修復を始めた。

「これから、ここにいる方々が協力してくれます。衣織さんは、この日のために、浮島を離れ、暮らしていたんです。龍族と人間の橋渡しとなるために」

周はすでに、藻掻もがき苦しんだ、かつての自分ではなくなっていた。

自分に関わることも全て見えるようになり、今置かれている状況を先読みしながら、二人と話をしていた。

頼もしい周の姿を見て、駿河は誇らしかった。

と同時に、離れていく戦艦の上空に黒い雲が集まり始めていることに気付いた。

「何か悪いことが起きようとしている」

駿河は、その様子を見て、懸念していた。

「本当に麒麟は存在するのか?」

「そのようです。今まで感じたことのないエネルギーが、あの雲から感じます。それから、あの戦艦の中に一人、若い男の姿が見えます」

「若い男? もしかして……」

「はい。龍族と天皇家の血筋を持つ、あの男です」
 



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