犯人はヤス、-終焉-|第15話|閃き
「意味が繋がるように、文字起こし出来たな」
「それにしてもこの文章……どう読んでも、日本神話と変わらない気がしますが……」
「いや、何かあるはずなんだ、何かが……」
古谷警部と蓮による、古谷家から安が持ち出した巻物の解読が終わった。
「まぁ、ここからが本番だ。古谷家の巻物に書かれている神話と三輪家に伝わる古文書、この二つの内容と、現在までに起きた出来事を照らし合わせなければならない。文屋家の古事記は、ここにはないからな」
橋本が話し始めた。
「今までに起きた事件、さらには文屋長官の行動すべてを読み取り、真の目的を突き止める必要があります。彼にはきっと、先祖の逆恨みだけではない、何か他の理由があるはず。そうでなければ、ここまで一人の人間が凶悪化するはずがありませんからね」
三つの家系には、隠された秘密があり、それが、中島安とも深い繋がりがあると、橋本は推測した。
日本全体に隠された秘密がすでに、転換期を境に歪み始めていることに、5人は気付いていた。
サヤの能力が文屋長官に奪われた今、5人はそれぞれ、見てきた文屋長官の言動や仕草、行動を改めて思い出し、巻物と古文書との関係を探るしか方法はなかった。
5人には、あの『犯人はヤス、』事件からの流れ、さらには、不可解な行動で逃亡し続ける安の本性を探る必要があった。
「こんな神話、読んで何になるんだ?」
蓮が疑問視する中、
「ここに書かれている神話には、少し違和感があります」
悟が、日本神話との違いを話し始めた。
「例えば、伊邪那美。彼女は、天照大神と火之迦具土神、そして大国主命を生んだ人。日本神話では、彼女が、最終的に黄泉の国の神さまになるとされています。ですが、巻物に書かれている神話には、大国主命が出てこないんです」
「確かに、少し話がずれてるな」
「それだけではありません。天照大神の場面では、あの有名な岩戸隠れのシーンが登場するはずですが、常に火之迦具土神と敵対する様子しか描かれていません。この火之迦具土神が、不自然なんです」
「確か日本神話だと、火之迦具土神は、怒って体に火をつけ、伊弉諾を殺し、黄泉の国へ行ったんだったよな?」
「はい。その伊弉諾が殺されるシーンは同じなのですが、もう一人、一緒に焼かれている人物がいるんです。そこの部分が、所々空白になっています」
巻物に書かれている神話は、実際の日本神話とは、似て非なるものだった。
「もし、この巻物に書かれている神話の内容が、未来を予言して書かれているものなのであれば、神の生まれ変わりを意味する予言の可能性が高いんです」
「神の生まれ変わり? だとしたら、今生きてる人間の中に、この神がいるということか?」
「おそらく。神話の中の火之迦具土神が、文屋長官なのではないかと……」
古文書に書かれている予言が、文屋長官が考える思考に近いと、悟は推測していた。
「確かに……。それなら、何か紐解くことができそうだな」
「安の願いは、母親を探し出すことです。三輪家に伝わる古文書に書いてある予言と照らし合わせると、神々と人々をリンクさせて書かれているのが、この巻物に書かれている神話なんです」
「つまり、中島安の母親が伊邪那美という事か。だとしたら、その母親を隠し続けているのが文屋長官……。中島安を母親がいる場所まで誘導することで、世界を変える何かが生まれる。それが、文屋長官の目的か」
「確かに警察は、執着するように中島安を追い続けているにも関わらず、捕まえ切れていない。敢えてそうしているとも考えられるな。これには、何かの意図がありそうだ」
「はい。その誘導に、母親を使っているのであれば、すべて辻褄が合うかと。もちろん推測ですが……」
「未だに警察が、安を執拗に追い続ける理由はなんだ? 余りにも異常だぞ」
「それだけ重要な何かが、安に隠されているということではないでしょうか。国民全員をコントロールするより重要な何かが」
橋本が答える。
「きっと答えは、この平安京にあるのでしょう。中島安が、追われているにも関わらず、五芒星の封印を使った場所ですから。ここは敢えて、別角度で動いてみるのはいかがでしょう?」
古谷家と三輪家、二つの家の予言だけでは、未だに文屋長官の思惑までは辿り着かない。
ここで赤が、ある提案をする。
「いい方法があります。国民を目覚めさせるんです、先に」
「国民を目覚めさせる?」
「はい。そうすることで、文屋の計画の前段階である、5年前の記憶を呼び戻し、今一度すべてを振り出しに戻せます。そうなれば、文屋長官の目論みも、引き延ばせるのではないでしょうか?」
三輪警部補が、赤に言う。
「それが出来ていたら、ここまで苦労はしていない。むしろ、そっちの方が遠回りな気がするが」
サヤや安さえ守る事が出来ていないこの状況で、人々の記憶を呼び戻すなど、到底不可能な話だった。
三輪警部補と隣にいる蓮の姿を見て、悟は閃いた。
「あります……ありますよ! 一斉に国民を目覚めさせる方法が!」
満月の夜。
日本中で、音楽による思考のコントロールが始まっていた。
月の光に吸い寄せられるように、外へ飛び出してくる人々。
我を忘れ、街を破壊し始める。
それだけではない。
神社仏閣を壊す動きも見られた。
そんな中、警視庁から出てきたパトカー集団。
前後左右に並走しながら走る、数十台のパトカー集団の真ん中を走るのは、文屋長官が乗った真っ黒なリムジン。
警察官としての立場を忘れ、暴れまわる人々を横目に、隊列を組みながら平然と進んでいる。もちろん、そんな警察の動きを止める人間など、一人もいない。
未だに、人々の思考は停止しているようだ。
文屋長官率いるパトカー集団は、京都へ向かっていた。
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