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大正スピカ-仁周の第六感-|第10話|指揮

「ご報告させていただきます。麒麟の来襲によって、日本に甚大な被害がもたらされています。この影響で、関西・関東の領域圏には今、神が居ない状況です」

「狙い通りだな。よし、予定通り、計画を実行する! すでに我々が動かずとも、混乱は起きている。今後、満州国が誕生し、数年で100万の民が移住することになる。裏で手を引く有権者らに、我々の予知を伝達し、天皇よりも先に、我々が未来をひらくのだ」

正篤も、天皇と同様、予言を言い当てることで、経済界や政界の信頼を獲得する動きを見せていた。

その頃、麒麟と龍たちは、結界を解くために、満州で雷や嵐をもたらしていた。

この影響で、日本軍と関東軍の争いは中断。

両軍は、そのまま南を占領し、部隊を待機させた。

数百万の中国軍が北から一気に降りてきたタイミングで、交戦状態のまま、互いに相手の出方を伺っていた。

吹き荒れていた嵐が治まると、結界に無数の亀裂が入っているのが見えた。次第に、滞っていたエネルギーは消え、軍は、休戦を掲げた。

正篤は、思惑より拡大はできなかったものの、建築家たちを引き連れ、満州に巨大な城を建設し始めた。

関東軍は、

「現地で、満州の人々を中心に中国からの独立運動が起き、新国家が建設された」

こういった筋書きをつくり、事実上、満州を傀儡国家かいらいこっかとした。
 



「正篤は、陛下の指示を無視し、満州国を誕生させたようです。貧困の格差や新聞などの報道により、一連の満州事変は今、士気が低下しています」

「これが彼らの狙いですか。世界は、我が国を、我々天皇家の指示で領土拡大をした支配国家とみなすでしょう。彼らは、感情を逆撫さかなでし、我々を潰すつもりです。ですが、中国軍とソ連軍が北で張っているため、これ以上、拡大は出来ません。今のうちに、日本軍に退却命令を出してください。各国の動きが分かるまで、全軍を護衛に回します!」

「陛下、ご報告にあがりました! 我々天皇家の派閥に属す政界や経済界の重鎮たちが、民を引き連れ、移動を開始しています。全員、満州国へ向かっているようです。すでに、この国を見捨てる動きが見られます」

「多少の裏切りは仕方ありません。他に、動きはありますか?」

「過去に正篤と繋がりを持っていた政治家たちが派閥を結成し、序列が変わり始めています。さらに、赤坂御所にいるはずの陛下がおられないため、満州国へ逃げたのではないかという噂が国民の間で広まっています。至急、赤坂御所にお戻りください」

「分かりました。しばらく、京都御所は國弘に任せます。随時、状況を報告してください」

天皇は、國弘に京都御所を任せると、そのまま東京へ向かった。

「周、今後の動きについて、何か分かるか?」

「今より、天皇家の指示が通りにくくなる未来が見えます。3人のトップが入れ替わり、彼らが悪影響をもたらしています」

「龍族の長、何か見えますか?」

「……学生じゃ。大人ではなく、学生たちが武力行使に出ている。彼らが、なぜこのようなことをするのか……。政界のトップは、彼らによって抹殺まっさつされる。これによって、日本は一気に傾くことになる」

「駿河。陛下を護衛しながら、後を追え。我々は、その学生らの活動を阻止しなければならぬ。関西の日本軍を赤坂御所へ回せ」

「承知しました」

「僕も行きます!」

「こっちは長がいる。安心しろ。周、お前は陛下を守り、駿河の目となるのだ。何かあれば、連絡をよこせ。いいな?」

「はい」

駿河は、周を連れて、赤坂御所へ向かった。
 



「陛下がお戻りになられました」

駿河と周は、天皇に付き添い、無事、赤坂御所に到着した。

「内閣総理大臣の犬飼いぬかいです。満州国の設立をきっかけに、国中に不穏な空気が流れております。つきましては……」

総理を見るなり、周は目を閉じた。

総理の死相がはっきり出ていた。

自宅らしき屋敷の奥で学生たちに囲まれている。

「どうした、周?」

「……駿河さん、総理が危ない」

周は、駿河に自分が見えているものを全て話した。

駿河はすぐ、日本軍に対し、総理の護衛に回るよう、指令を出した。そして、総理の屋敷の張り込みもあわせて要請した。

「そもそも、その学生らは何者なんだ?」

「……軍隊に従事する方たちのようです。日々、拳銃を構え、訓練を行う光景が目に映ります」

「日本軍の学生たちか。彼らは、天皇を守るために、訓練を行っているはず。なぜ、彼らが反逆を起こすんだ?」

「分かりません。しかも、この事件に陛下も関わることになります」

周は、途切れている未来を繋げながら、透視した。

しかし、原因となるものが、何一つ見えてこない。

「もう護衛を張り巡らせるしか方法は……いや、待てよ。軍の学生となると、日本軍を要請したところで、その中に犯人が紛れている可能性がある。むしろ、可能性を増やすことになるな」

「……こうなったら、僕たちが事件に潜入するしかないかもしれません」
 



「澄子さん、神は戻られそうですか?」

「ダメだ。一柱も戻ってこない。これは、何か起きているな……」

鈴子と澄子は、神々がいない原因を探るため、京都の古墳を訪れていた。

日本有数の横穴式石室よこあなしきせきしつを持つ蛇塚へびづか古墳。

7世紀頃に築造された前方後円墳だ。

「これは一体……」

二人が目にしたのは、古墳から、不穏な悪しきエネルギーが風に乗って移動している光景だった。

「蓋が、何者かによって開けられています。古い怨念おんねんが長年放置され、外へ出ていってしまっています。このままですと、再び大きな災いが起きかねません」

「なるほど、これも奴らの仕業か。麒麟の流れに便乗して、古墳の封印を解くことで、大地に根付いた神々の神気しんきがなくなる。元々鎮座されていた場所へ戻れなくさせる仕組みか。やけに手が込んでるな」

「浄化させるしか方法はないようですね。京都にある神社だけでも、私たちで神気を取り戻しましょう」

「やるしかなさそうだな」

そこへ龍族たちを連れた長老が合流した。

「いくら術とはいえ、いずれは解けてなくなる。古墳は、王として君臨した者たちが埋められている場所。王を倒した者は、その証として、倒した場所に王を埋め、権威が二度と及ばぬよう、術で封印を施している。それが古墳だ」

「その王というのは、巫女のことだ。かつて巫女の神降ろしで先読みをし合う透視戦争が横行していた。巫女のエネルギーを自分たちのために使い、国を統治していたのだ。それが解かれた今、怨念が国中に蔓延してもおかしくない。より日本が悪い方向へ向かうぞ」

澄子は、自分が巫女の末裔まつえいであるため、いかに人間の欲望によって残された古墳が危険であるかを認識していた。

「我々もお手伝いさせてください。彼らも一緒です」

龍族たちの後ろには、サンカたちの姿もあった。

「貴方たちの熱意に負けました。微力ではありますが、我々も協力させてください」

長年、天皇家と離れていた、サンカたち。

彼らは、麒麟に対する一連の対策や、鈴子や周の未来を変えていく姿を見て、天皇家と表の八咫烏のメンバーを少しずつ信頼し始めていた。

「ようやく動いてくれたか、サンカたち。感謝する。一緒に、京都にある寺や神社を復活させてくれ」

古墳から流れ出る古い怨念。

取り返しのつかない状況になる前に、皆で協力して、怨念を取り除くことになった。

地図を取り出し、各々、神社仏閣と波長を合わせ、遠隔で土地の波動を上げていく。

元々高い波動を持つサンカたち。

彼らも、ようやく国のために動き始めた。
 



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