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犯人はヤス、-終焉-|第13話|攻防
(安を助けるためには、サヤを信じて飛び移るしかない)
二人の警察官に拳銃を突きつけたまま、悟は意を決して、隣のアパートへ飛び移った。
着地してすぐ、警察官に近寄る。
すると、煙幕が投下され、悟は煙に包まれた。
視界を奪われた悟は、しゃがみ込みながら、煙の外に逃げる。
足音が聞こえる方向へ走る悟。
一人は、すでに屋上から降りていた。
もう一人は、ちょうど降りようとしているところだった。悟が拳銃を鳴らし、その警察官の動きを止めた。
両手を挙げる警察官。
ここで赤から無線が入る。
「川に隠されていた機械が突如動作しなくなっています。理由は分かりませんが、周囲の周波数が変わり始めています」
すると、警察官の表情がみるみる変わっていくのが分かった。
そして、膝から崩れるようにしゃがみ込み、ひざまづくと、その警察官は、空一点を見つめたまま動かなくなった。
驚く悟。
屋上から下を見下ろすと、安がアパートから飛び出し、走っていくのが見えた。
安堵する悟。
「安がアパートから出ていきました。南へ向かってます。行方を追ってください」
「分かりました」
屋上から降りる前に、悟は、安の目的が何だったのかを探る。
すると、隅に不自然に置かれている小石を発見した。その石には、青文字で五芒星が刻まれている。
「赤さん、なぜか、青文字で五芒星が彫られた石が、屋上の隅に置いてありました。おそらく、安が置いたものと思われます。すぐ古谷警部に伝えてください。何か分かるかもしれません」
「分かりました。すぐに伝えて、折り返します」
何かの意味があるのではと、悟は、石を元の場所に戻した。
もう一度、安を見ると、警察の数台のパトカーに囲まれていた。
「サヤさん! 安が危ない!」
サヤは、すぐに安の周りにいるパトカーの動きを止めた。
電車を横転させることができるほど強力なサヤの能力。複数のパトカーを止めるなど朝飯前だ。
急に、エンジンが掛からなくなったパトカーから、数人の警察官が飛び出し、安を追いかける。
「悟さん、警察官までコントロールはできません。そこから飛び降りてください!」
すると、一台の青いビニールシートが被せられた軽トラックが悟のいるアパートに向かって走ってくる。運転席には、誰も乗っていない。
「大丈夫です! 早く飛び降りてください!!」
悟は、意を決して、屋上から青いビニールシート目掛けて、飛び降りた。
青いビニールシートが悟を大きな手のひらで包むように受け止めた。実は、荷台には海水が入っており、それがクッションの役目をしたようだ。
悟を乗せた軽トラックは、安に向かって、走り出した。
安は、十字路の真ん中に立っていた。逃げている割には、あまりにも無防備な場所。
警察官が、一斉に安を取り押さえようと、襲い掛かる。捕まるのを覚悟していたかのように、抵抗をしない安。
すると、安目掛けて走っていた警察官が、次々とひざまづいていく。思考が停止したかのように、口を開けたまま天を仰いでいる。
屋上の時と同じ現象が、再び起きたのだ。
そこへ悟が乗る軽トラックが現れた。何もせず、ただ立ちすくむ安。
遠くから、他の警察官たちが一斉に安目掛けて走ってきた。
「安! 飛び乗れ!!」
手を差し伸べる悟の目を、安は見ていた。5年ぶりの再会。安は、5年前と変わらない、全く濁りのない澄んだ瞳をしていた。
すると、悟が乗る軽トラックが、暴走するように、安の周りをまわり始める。そのせいで、安から遠ざかってしまった。
警察官たちも、安に近づくことができない。それどころか、警察官たちも、軽トラックを追うように、暴走し始めた。
そのまま逃げるように去っていく警察官たち。
軽トラックの荷台から振り落とされないように必死でしがみ付く悟。
そして、警察官はパトカーへと戻っていった。
安心したのも束の間、今度はそのパトカーが暴走を始めた。
十字路の真ん中を目掛けて、4台のパトカーが猛スピードで走り出し、4台のパトカーは、そのまま激しく衝突。炎上した。
モクモクと上がる黒い煙。悟にはその煙が、安から警察に対する狼煙のように見えた。
軽トラックの暴走が終わり、十字路から一つ入った曲がり角で、静かに停車した。
急いで、軽トラックを降りると、道路に何かが落ちているのを発見した。
それは、血が混じったような赤い何かだった。
それが、細い曲がり角まで続いていた。
辿りながら進むと、日の当たらない暗い路地裏に落ちている物を見つけ、手に取った。
巻物だ。
それも、古谷家から安が持ち出した『日本神話』と書かれた巻物だった。
握り締めたまま、パトカーが炎上する十字路の真ん中まで戻ってきた。
悟の心は穏やかだった。
なぜなら、パトカーが衝突した瞬間、十字路の真ん中にいたはずの安の姿がなかったのを、悟は見ていたからだ。
「サヤさん、安はどこへ行ったか分かりますか?」
返事がない。
急いで、サヤを置いてきた場所へ向かう。
激しくなる鼓動を抑えきれない悟。サヤに声をかけながら進んだ。
サヤがいる方向にパトカーが数台見える。すでに警察に捕まっている可能性もある。
そこへ無線が入った。
「悟か? 俺だ、古谷だ。五芒星の意味なんだが」
「古谷警部! サヤが警察に囲まれています! 今すぐ指示をください!」
「分かった。待ってくれ」
タバコに火をつけ、透視をする古谷警部。
「『歩道橋』って出たな。近くにないか?」
「右手にあります!」
「『安全』と出たぞ、まだ大丈夫だ! すぐに助けに行け!」
「分かりました!」
悟はパトカーから見えない方向へ回り、歩道橋を目指す。
未だにサヤからの返事はない。
「悟! 大変だ! 近くに文屋がいる。気をつけろ」
一瞬で背筋が凍る。
壁際でしゃがみ込み、隠れながら様子を疑う。
「文屋長官。周辺に深瀬サヤがいた痕跡が残っています。まだ、そんなに遠くに行っていないはずです」
一人の警察官が、パソコン片手にデータを報告している。
辺りを見渡す文屋長官。
5年ぶりに文屋長官の姿を見た悟。震えるほどの怒りが込み上げてきた。
しかし、怒りに任せて、飛び出したりはしない。
それは、もちろんサヤを助けるため。怒りを押さえるように、両手を握り締める。
警察官が周囲を捜査し始めた。
この状況で、サヤや古谷警部と話すのは危険だと判断し、悟は無線を切った。そして歩道橋が見える場所まで、静かに移動する。
少しずつ、サヤのいる歩道橋近くまで捜査の手が広がりつつあった。その距離、およそ100メートル。
(このままだと歩道橋にいるサヤに危害が及ぶ)
サヤと接触するのは危険と判断した悟は、一人の警察官に近づいていった。
緊張が走る。
その時だった。
歩道橋から一台の車が猛スピードで現れた。警察官たちが一斉に振り返る。
その隙に一人の警察官を取り押える悟。拳銃を奪い、首を絞めた。
気絶した警察官を引きずりながら、伸び切ったままの街路樹の脇に横たわらせ、悟も身を隠した。
「誰だ! 車を止めろ!」
一台の車が暴走しながら、パトカーへと向かっていく。すると、パトカー目掛けて一斉に銃声が鳴り響いた。
歩道橋にいるサヤがやったようだ。
しかし、すぐに車は撃たれ、炎上した。
動かなくなったその車から、フードを被った男が現れた。
すぐに追いかける警察官たち。
すぐに、その男は、包囲されてしまった。
急いで救出に向かう悟。
そして、事件は起きた。
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