短編小説 『イエロートラム』 〈第3回〉
ジュリオとゴードンは五〇四号室内のすべての部屋を確認した。どこにもグレイ夫人の姿はなかった。バルコニーに通じる扉も開けられた形跡はなかった。もしかすると足りない食材に気づいて買いに出かけたのかもしれない。そうなるとソファに座ったふたりの脇を抜けて、部屋の入り口まで行く必要があるわけだが、もしかすると会話に気を取られていて気づかなかったのかもしれない。その結論でたがいを納得させたふたりは、シャンパンのグラスをキッチンに片づけてから五〇四号室をあとにした。夫人が鍵を持って出たか