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独り言多めの映画感想文『夜明けのすべて』



♯男女間の友情
♯パニック障害
♯月経前症候群
♯松村北斗
♯距離感
♯自死を選ぶ時
♯夜明けのすべて


1、 男女間の友情は成立するか

 これは作中にセリフとして出てくる。松村北斗さん演じる山添くんは、自分で発信した問いに自分で答える。

〈──けど、3回に1回くらいなら助けられると思う〉

 この距離感お見事!
 適度適切絶妙なソーシャルディスタンスパーソナルスペースの確保。
 3回に1回って、アレだよガチャとかと同じで、本人にとって一番ワクワクする割合じゃない? 当たり出た! って。違うか。

 言うなれば「最低保証」に近い。
 セーフティーネット。例えば映画冒頭の、雨の中バス停のベンチで横になるしかなかった辛さから救われる。「いつものやつ?」と傘をかざして避難させてくれる。
 友達という言葉の周りにはいつだって曖昧な線引きが存在して、
 他人、友達、恋人未満、恋人。何だっていいよ。辛い時、助けてくれる人は神だ。

 けれど一方的に恩恵を受けるのは居心地が悪い。
 お互い様で初めて腰を落ち着けられる。
 お互い3回に1回くらいなら助けることができる。そんな心地よい存在。
 自立した大人同士だから成立する男女間の友情、あると思います。



2、 パニック障害

 とはなんぞや。もう少しポピュラーな類義語として鬱があげられると思っている。私自身、友人が自死を選んだ経験を持つ。パニック障害だったことは知っていた。

 電車に乗れない。知り合いに会うのが怖くて街を歩けない。結果、家から出られない。当時リモートワークなんて言葉自体なかった頃、家から出られないというのは稼ぎを失うことだった。じゃあ彼女は生活困窮を理由に自死を選んだかと言えばその限りではない。

 人はたぶん、一方的に与えられ続けることに耐えられるようにできていない。

 作中「パニック障害は治療に10年かかることもある」というセリフと、遺族が集う場面があった。自立できないことに追い詰められた人たちが同じ道を選ぶ。パニック障害と自死、ひいては自立できないことと死は非常に親和性が高いのだろう。

 本人も自分を追い詰めていたが、遺族もまた自分に問いかけ続ける。
 自分に何かできることはなかったのか。あの時声をかけていれば。どうして気づけなかったんだろう。どうすれば良かったんだろう。
 答えのない問いの中を延々彷徨い続ける。それは「自分が殺した」とまでいかなくとも、自分にもできることがあったんじゃないかという、先の見えない後悔。

 けれど仮に「一方的に与えられることに耐えられず自死を選んだ」として、結果それでもこうして与え続けようとする人がいるというのは、その行為自体、全く意味のないことだったという証明になりはしないか。
 あなたがいなくなったところで、むしろ後悔に思い出す機会ばかり増えて、その度に手が止まります。私個人にとっては全くもって不利益です。といった具合に。

 なりはしないか。もういないんだから。話もできないよ。
 だからダメなんだよ。死んじゃ。



3、 月経前症候群

 少量のピルや漢方の内服で症状を和らげることができるとか、ABEMAのCMで見かけた時、旦那が「上手いな」と言っていたのを思い出す。

「だってこういうの見てる人達がターゲットでしょ」

 画面で男女がキャッキャしていた。確かにターゲットは10代〜上は知らないが、とにかく月経痛あるいは月経前症候群に悩まされている層に違いない。連日内服で月約3000円。条件としても本当に悩んでいる人なら悪くない。

 かく言う私も、不安感が強くなったり、いつもより感情的になりやすかったり、勝手に涙が出てくる時もある。自分で自分をコントロールできない状態、というのが分かりやすいか。
 常に軽度に暴走している。けれど気づくのは決まって後からで、だから事前に分かればリスク回避しやすいのだけれど、そんなのイチイチ覚えてない。

 だからと言って、山添くんみたいに〈3回に1回くらいなら〉なんて提案されても、続く藤沢さんのセリフ「え、それって私の生理くるタイミングずっと伺ってるってこと? 気持ち悪」そのままだし、コレはもう普段からおとなしく過ごすしかない。ベースおとなしく過ごしていれば、内側に起こるぐるぐるなら周りに危害を及ぼさない。これで行こう。あはは無理めー。






 おまけ、松村北斗さんについて

 彼の印象は「自然体で冷めてる」
 初見はバラエティ。恋について聞かれた時「恋って基本消去法じゃないですか。で、最後に残った人を好きになるっていうか」と答えて、会場全体をドン引きさせていたのを覚えている。
 実は彼、『キリエのうた』にも出演していて記憶に新しい。同じく熱を持たない役所で、もはや役というより本人がそのまましゃべっているように感じる。

 愛想がないというと語弊があるが、本人必要性を感じていないというか、
 その人と関わる必要性、それが自分である必要性、
 自信があるのかないのか、とにかく「自分の輪郭」を出ない。その様は極力人に影響するのを避けているようにも思える。

 この人、本気で人を好きになることあるのかな。

 余計なお世話だが、そんな風に感じる人だからこそ、男女間の友情云々がしっくりきた気がしてならない。この作品の調律、絶妙な温度は、間違いなく彼によるものだった。





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