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是非知って欲しい作品群。やさしくて面白くてジンと来るもの。いいなと思ったイラストも。
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2022年2月の記事一覧

谷崎潤一郎『春琴抄』読書感想。

盲目の美女と奉公人との純愛モノということで、 健気で儚げな女性を勝手にイメージしていたけれど 全然違っていて面を食らった。 小柄で色白、儚げな見た目なのに、 我儘で傲慢、おまけに嗜虐性まである女性。 けれど、読み進めるにつれ、徐々にこの人格形成の一因を“盲目“という身体的欠陥が担っているということが詳らかにされていく。 “盲目“を自分の中で負い目として感じており、元来のプライドの高さもあり、虚勢を張らずには世間と対峙することさえままならなかったのではないだろうか。 大地

【番外編】野生の食パンとたたかうピカチュウ

焦る絵描きや漫画描きは下手なプライドを早く捨てたほうがいい

初めに言っておきたいが、これは要するに「しくじり先生」的な話だ。 私は下手なプライドを抱えていたために、“若い内にひとかどの者になる”ができず、のたうち回って苦しみ続けていた。 もしもあなたが今、かつての私のように「早く何とかしなきゃ」とか「うまくいきたい」と焦っているのなら、下手なプライドを早く投げ捨てたほうがいい。 * * * 19歳の頃、私は「もう20歳になるのに、まだ何者にも成れていない」と焦っていた。そして29歳の頃も、「もう30歳になるのに、まだ何者にも成れ

ただ、才能が欲しかった

 例えば、深夜の一時を回って、現実的な一日の終わりからも諦めに似た眠りからも逃避するように、ベランダに出てみる。アパートの一階のベランダには潮風が舞い込むこともなければ、柔らかな月あかりが差すこともない。疎らな生垣のツバキが唯一、私に寄り添ってくれているような気がする。ハイライトを一本、咥える。ライターの中で透明な液体がゆらゆらと揺れる。おもむろに付けた灯。吸い込んだ息に、夜の香りが混じる。そういう一日の終わりに私はただ、才能が欲しかったなと思う。    本物に触れたこと