新幹線の搭乗方法の代案
新幹線の乗車時の混雑、人の交錯をどうやって最小にするか。飛行機の混雑緩和搭乗方法は航空会社も検討しているが、新幹線での改善というのは私は実感したことはない。思考訓練のひとつとして取り上げたい。
新幹線乗車時の混雑を分類すると次のようにパターン化できるだろう。
新幹線の混雑の分類
出入口が車両の前方と後方の両方にあるため、同じ車両の中ですれ違いが発生する。(飛行機にはない特徴)
同じ車両内だけでなく、別の車両に移動したい通過交通も発生する。(飛行機にはない特徴)
窓側座席と通路側座席での交錯が生じ、およびその際に通路にはみ出た人が通路を阻害する。(飛行機でもある特徴)
大きいトランクなど大型荷物が存在するため、身動きが取りにくい場合がある。(飛行機では荷物は小さいが通路が狭いので似たような状況)
新幹線の典型的な座席番号とドア配置について説明する。細かい数字等はわかりやすいように簡略化している。図1を見ながら読み進めて欲しい。
新幹線の特徴
1つの車両の前方と後方に出入り口がある。
東京方面が1号車、1つの車両内で東京側の座席番号が1番。
東京行きは1号車が先頭、博多行きは16号車が先頭となるなど、前と後が異なり、位置を表すのに前・後という名称が使いづらい。
駅に降り立ってみると、ひとつの車両が長いなどにより、隣の号車が何号車なのか、新幹線が右から来るのか左から来るのか、がわかりづらい。すなわち、鉄道に詳しくない人には、詳細を理解して合理的な方法を選択するのは困難である。
新幹線混雑の事例
不具合の事例を2つ挙げる。図2の不具合①の例では、1号車の東京側入口から乗車した8番座席に向かう人と、1号車の博多側入口から乗車した4番座席に向かう人が交錯する状況である。不具合②では、3号車に乗りたい人が駆け込み乗車等で1号車から乗った場合に通過中に交錯してしまう状況である。
不具合②の通過交通については、時間ぎりぎりに乗り込む際には比較的あり得るし、それができるのが飛行機とは異なる新幹線の利点でもあるので仕方がない。ただ、乗り込みが一段落する5分ぐらいはデッキ(車内のドア付近)で待ってから移動してもらいたいが、モラルのみに依存するのはシステムとしては不完全である。まずは本稿では、不具合②の通過交通以外の、不具合①に示した車両内の混雑について考えてみたい。
改善方法には、注意喚起等の「人間の判断に依存する」という対応策の「対策レベル」が低いものから、機能的対応または本質的対応で人間の判断を必要としない対策レベルが高いものまである。以下、順に整理してみた。
改善案(1)
座席番号が、1番から5番は東京側入口(前寄り/後寄り入口)から乗る、6番から10番は博多側入口から乗る、というアナウンスや掲示を行う。
欠点を上げるとすれば、乗客に座席番号を確認させてアナウンスに従わせるのは面倒。特に、前寄り/後寄りというのは大きい駅の島式プラットフォームの場合どちらが前からは瞬時にわからない困難さや、乗り慣れない人(外国人を含む)には、大阪行きの切符を持っている人が「博多寄り」のアナウンスでわかるのかは難しいところがある。
改善策(1)の欠点は、次のように改善できる。
改善案(2)
切符自体に号車と座席番号の表示の他、乗車ドアの名前も表記する。その際、乗車ドアの名称を固有の番号にする。仮に2号車の前後の出入口を、それぞれ、2A入口、2B入口、等と書いておく。
利点:指定されたドアを探せば良いので明確である。
欠点:人は慣れてくると2Aと言われても、2Bでも乗れるのは感覚的にわかっているので、根絶はできないかもしれない。ただし、指定されていないドアからだと逆走になり迷惑だというキャンペーン等である程度は防げるのではないか。
改善策(2)の方法は、ルールで縛る日本的対応であり、まだまだ工夫の余地があるように思う。私は、注意喚起せずとも人間が合理的に判断して、結果として自然にそうなるというシステム作りが好きである。もう少し思考を深めていこう。
現状の制約条件(装置、お金の制約)をなくすと、車両の出入り口を1つにすればよいのでは?という考えも出てくる。ただし、2つの扉を1つに減らすと、時間当りの乗り降り人数が低下することで問題が出てくる。
改善策(3)
前乗り、後ろ降りというルールを導入する。(正確には、東京寄り乗り、博多寄り降り)
欠点:運送容量が低下するので、厳しいという指摘はあろう。ただし、始発駅を除いては、実際には人が降りるのを待ってから乗っている現状なので、降りるのを待つというロスがないので、平均的には時間は増えないかもしれない。始発駅では混雑するので、始発駅と、それ以外の駅で対応を分けても良い。
改善策(4)
ハードウェアをいじって良いという条件であれば、車両の両端の扉を廃止して、1車両の中央に1つの扉を設置するように改造する。
乗り込んだら座席番号に応じて左右(前後)に分れて進むので、通路では必ず一方向の移動となり混雑は緩和されるだろう。ただし、改善策(3)と同様に、運送容量が低下するため厳しい。
運送容量を考えると、1車両に2つの扉が必要、というルールは外せないように思える。しかし、それでも一方向の移動を実現したい。細かいルールは煩雑になるので、単純明快なルールや番号付が必要である。そこで、発想の転換である。
改善策(5)
1車両を前後2つに分け、それを大胆に「独立した車両」と呼ぶことにする。仮想の車両を作って呼ぶのである。少し難しい言い方だと、「論理的車両」であろうか。すなわち、東海道山陽新幹線は通常16両編成であるが、物理的な1両目に、1号車、2号車と仮に名前をつけて、2両目に、3号車、4号車と名前をつけて、最終の16両目は31号車、32号車と名前をつけるのである。すると、大抵の場合には、自分の切符に書かれた号車の入口に並ぶので、その後人間が特別な判断をせずに、無理なく改善策(2)のように誘導されるのである。物理的な1つの車両を論理的な2両として管理するのである。
さらに、それの考えを推し進めると、もうひとつバリエーションがある。
改善策(6)
実際の2両目の後半と3両目の前半を、仮想的な新3号車として名前をつけて、座席番号も定めるのである。車両の中央の方は、2号車の最後尾と3号車の1列目が隣り合うが、それは全く問題ない。乗り込んだときに、右側に行くか、左側に進むかは、座席番号で判断する必要が出てくる。
地方に行くと、特急の1車両の中に指定席と自由席が混在することがあるのと感覚は似ている。
改善策(6)が話題的に面白いけれども、利用者にとってみると入口での座席番号の判別をして右に曲がるか左に曲がるかの判断が必要となるのが欠点となり、比較すると改善策(5)の方がスムーズであろう。
ただし、改善策(6)で外壁に塗装で、あたかも物理的な車両の中間に、連結部があるように見せると面白い。これは是非見てみたい。
改善策(7)
改善策(5)の場合、1つの物理的な車両の中に、1番座席が2つ存在するので、間違えて座ってしまうリスクが新たに発生する。これを防ぐには、1号車は1~5番、2号車は11~15番、という風に、使う座席番号を重複しないように敢えて違う番号にしても良い。
欠点としては、複雑化すると、グループで座席を前後でとりたいという時に混乱することであろうか。シートマップを表示しながらの予約であれば、その座席が何番なのかは余り問題にはならないので許容だろうか。
「仮想車両」または「論理的車両」。面白い概念ではないだろうか。
本記事は、私自身が前身のブログで2018年5月3日に書いた「新しい発想による新幹線の搭乗方法」を加筆・再編したものである。
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