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本とその不確かな表紙5.

今日もまた巻頭のコールリッジの川の文章だけを読んで本を閉じた。それだけで十分な懐かしい葡萄の芳しい果汁が胸腺に湧き出たからだ。いつになったらこの本の世界に入ってゆけるのか。日に日に緑が煮えはじめるなか、今週はまた東京に出てゆく。(投稿時には帰ってきている。)このように未読のままで本そのものを凝視する日々が終わるのはおそらく最初の読者集団が物語の主旋律に気づき、少しペースをゆるめる余裕が出たころだろうか。感想文もたくさん出始めているだろう。もちろん重いので、持っては行けないが、帰ってきてまるでテレビの前に座るように、本を取り出して、もはやいかなる旅にも壁を感じるようになったことに気づいた時、私はおもむろに1ページ目に歩みだしてゆくのだろう。実在の世界をさらに一度味わい尽くす為に、億を超える人々の魂が巡礼した道に導かれる為に。できれば秋深まり始めた頃の夜に、1ページ目に踏み込んでゆきたいものだが。

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