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フィールドに出れない時、現場のコーチの”専門性”を考えていた

新型コロナウイルスの影響によりクラブとしての活動自粛期間を越え、6月から徐々に活動を再開してから2か月が経った。

フィールドで集まってサッカーができるのは、本当にありがたい。端的に言うと、サッカーコーチという自分の専門性を活かした仕事がしやすい。そんな当たり前のことに気づけたのは、「当たり前じゃない」時期が2か月近くあったからだ。

フィールドに出れなかった2か月ほどの活動自粛期間。その期間に自分の中で言語化できた、現場のコーチの”専門性”について書いておきたい。



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あれ?あの人のYouTubeみてもらえばよくない??


活動自粛期間に入って、僕のチームではZoomを使ったオンライントレーニングや、家庭でできる練習を紹介する宿題動画をYouTubeにアップして提供することを継続的に行った。

宿題動画を作る時、まずは「これなら子供たちが自分でできるな」というオーソドックスなボールタッチやリフティング、コーディネーションのトレーニングを紹介していった。

しかし、わりとすぐにネタは切れてくる。ひとりで、しかも家庭でもやれることという条件があるとなかなか難しい。

毎週なにかしらの宿題動画を出して、それもひとつの動画にワンテーマ(ドリブルやコントロールなど)でそれなりに詰め込んでいたから、すぐに「次どうしようか」という悩みが出てきた。(※そのボリュームの動画を毎週出す必要があったかは、諸々の事情も絡んでくるのでまた別の話だったりもする。)


「他にどういう練習ができるかなあ」という時に参考にしたのが、サッカー系YouTuberの方たちの動画。ドリブルテクニックをはじめ、いろいろなテーマで練習メニューや理論の紹介をしている動画がたくさんある。自分の勉強も兼ねて、参考にできるものを探していろいろと観させていただいた。


「子どもたちの参考になるようなプレーを集めたり、一般的な戦術を解説する動画も作りたいなあ」と思い、ただJリーグ含め各国のリーグが止まっている状態だったので、これもYouTubeをうろうろしながらそれこそたくさんあるスーパープレー集をいろいろと観ていた。

「よし、これを教えてあげよう!」と、それらと”同じような動画”を作って選手に提供しようとしたその時、気づいてしまった。


「あれ、これ、俺が動画作る必要ある??」

「すでにYouTubeにあるもの、紹介してみてもらえれば良いのでは??


YouTubeやSNSで自分の理論やそれをもとにした練習を紹介している人は、それぞれの分野で高い専門性があり、多くの人が社会的な状況に対応して「家トレ」の動画を出していた。その上、そういった方々が作る動画はそもそも動画としてのクオリティがとても高いのだ。とってもわかりやすい。


僕自身、動画の制作については不自由しないスキルは持っているが、そこに全力をかけている「専門家」が、先に自分と近い内容のコンテンツを高いクオリティで世に出しているなら、自分が二番煎じをすることに意味は何だろう?


4つ目くらいの宿題動画を夜中に編集しているとき、ふと思ったのだ。

この動画をつくることは、現場のコーチとしての自分の、一番の”専門”ではないな。動画を作るにしても、いまとは違う、重要な軸があるはず…。



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現場のコーチは、何の専門家なのだろうか


じゃあ僕らのような、フィールドで選手やチームを直接、継続して指導する現場のコーチは何に対して一番の”専門性”を発揮するのだろうか。ぼくらは何の”専門家”でいるべきなのか。

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サッカーのプレーだったらプロ選手の方が当然上手に見せられるし、戦術だって、指導者ではないけどすごく詳しい人は自分の周りにもネット上にもたくさんいる。ドリブルやキックにしても、フィジカルトレーニングにしてもYouTubeやSNSをみると(実際にその理論が正しいかどうかは置いておいて)「専門家」として活動している人はそれなりに多くいる。


この時に思い出したのは、大学時代に受けた「スポーツ健康心理学」という授業の講義で、お世話になった教授が学生に問いかけたこと。

「健康の専門家って、誰だと思いますか?」

医者、栄養士、トレーナー、精神的な健康だったら心理カウンセラーも?人の心身の健康に関する研究者は当然専門家と呼んでいいようにも思う。


そんなことを考えているうちに、教授が続けた。

「私は、”健康の専門家は自分自身だ”と思ってるんです。究極的には。」

ハッとさせられた。

自分の体の調子や繊細な変化は結局、自分自身が一番よくわかるのが望ましいのだ。(ただ本当に「わかる」ようになるためには、自分の身体や心の様子をモニタリングできるようになる訓練は必要ではある。)

自分自身の健康についてよくわかって、問題が起きれば治療の専門家や栄養管理の専門家を頼ればいい。



この印象的だった話を踏まえて現場のコーチの専門性について考えると、ひとつ見えてきたことがある。

僕ら現場のコーチは、「目の前の選手・チームの専門家」であるべきだ。

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僕らは、いま目の前にいる子どもたちや選手や率いているチームがどうすればうまくなるのか、成長するのか、強くなるのかに心を砕くのだ。

この選手はここを伸ばしてあげたいから、こういう練習を教えよう。

僕らのチームはこれが課題だから、こういう映像を見せて戦術を理解できるようにしよう。

選手やチームにとって必要なものを提供するのが現場のコーチとして一番必要なもので、そのためには世の中にある膨大な情報から、情報の収集と編集をして個別最適化したアプローチを目指すのだ。


つまり現場のコーチは、

サッカーのスペシャリストというある意味でのジェネラリストではなく、クラブやチームの色を踏まえたうえで、目の前の選手・チームのスペシャリストであることを求めていきたい。


これが”現場のコーチ”の専門性”ではないだろうか。というのが僕の結論だ。

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4~5月の自粛期間、僕はその専門性を発揮できているとは言いづらかった。今年から受け持つ選手やチームのことをよく知ることもできないままに自粛期間に入ってしまい。6月に入るまで一度も一緒にボールを蹴れていなかった選手もいた。


みんなで集まってサッカーができるようになって2か月が経った今、僕はこのチームの専門家に近づけているだろうか。一生懸命ボールを追いかける彼らに、いま何が必要なのかを見極められる専門家になっているだろうか。


そういうことを問いながら、今日も”彼らの”コーチとして、僕はフィールドに立つのだ。


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夏が来たぞお!





▼こういう日々の思考を売ろうかなって思いました。


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