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自ら仕掛けた激戦と勝ち点3を得るために

真夏の京都で狂ったように熱い展開に

真夏の5連戦の最終戦。相手は前節主力を休ませている上位・京都で気候面も厳しいアウェイ戦ということで「耐えて耐えて1差しを狙うような展開になる」ことが大方の予想だったが、蓋を開けてみるといい意味での裏切りを見せた戦いを展開して激戦を繰り広げる。

ここまで失点後や後半途中からギアをあげて得点を取り合うような試合はあったがこの試合は序盤から試合を動かしにかかり、2-2というスコアにふさわしいような試合展開だった。比較対象となる前節が悪すぎたことや勝ち点2を取りこぼしたことは見逃せないが、アグレッシブな姿勢にポジティブな印象を受けた人も多いのではないか。

「前からアグレッシブに行くのが良い」、「後ろでブロックを敷くのが良い」と一概に言える問題でもないが、『きっと引いて一刺しを狙ってくる』とやや舐められつつあった状況でまた違う顔を見せることができたことが最低限の内容・最低限の結果につながったと思う。

J2のトレンドの変化やコロナ禍の影響か、ハードワークを基盤にがっちり守って速攻一辺倒では勝てないリーグになっているというのが現実なのかもしれない。

■両チームのメンバー

フォメ

(普段は省くが整理のために……。)

〜素人採点〜

<松本>

圍 6.0
足元・セットプレー対応は安定。ロングキックも今日の前線なら生きる。個人的にはチームが苦しい時間帯にはもう少し繋ぐ意識があっても良いのではと感じる。

橋内 6.5
2CBでも3CBでも同じようなレベルでこなせる山雅では稀有な選手。ゴール前ではJ1級のウタカに対してよく渡り合っていたと思う。

常田 5.5
空中戦の単純な高さを見ると使われている意図も分かる。毎度だが弾かなくてもいいところで無理に蹴ったりと途中で雑になってしまうところは要改善。

大野 5.5
実戦では慣れてないポジションで奮闘。4バック時のSBは適正を感じる部分もあったが、保持時やポジトラ時のスピード感に早く適応したい。

高木利 5.5
そこまでの動きは悪くなかっただけに…無念の負傷退場。大野や前線を交代させるプランだったはずなので痛いアクシデントであった。

米原 5.0
ビルドアップ、縦パスはもちろん、球際もだいぶ良くなってきたが、1失点目は完全にスライドミス。他にも怪しい場面はいくつかあった。チャレンジ&カバーの意識はもう少し欲しい。

塚川 6.5
ボール奪取や最終ライン付近に下りてのビルドアップなど中央の攻守を支えた。相方の影響かシステムの影響か前線への顔出しは自重気味になってしまうのがやや気になる点。

久保田 6.0
守備でのタスクが多い中で前と後ろのつなぎ役としても貢献。欲を言えばアタッキングサードでもう少し怖さを見せられれば。

杉本 7.0
足元で貰えてドリブルでもはがせる貴重な選手、地上戦の起点として機能していた。後ろに重い戦い方よりも今日のような戦い方の方が個人としては生きそう。

高木彰 6.0
序盤の攻勢は高木彰のダイアゴナルの動き出しがあったからこそと言っても過言ではない。なかなか出し手との意図が合わない、繋がってもそこからの判断がなかなか効果的にならないのが問題点か。

阪野 7.0
まずはストライカーとして得点できたのは価値がある。クロスや前線の動き出しの被りは約束事などの前に試合中や練習での選手間のコミュニケーションで何とかしてほしいところ。

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(途中出場)
前 5.5
左サイドによるやりづらさは少し見受けられる。左でもできるのはチームとしてはありがたいが、右で使ってあげたさは感じる。

鈴木 6.5
前線の選手でありながら守備でも安定感があるのはさすが。 セルジ久保田との関係性は面白い。

セルジ 8.0
わずか30分の出場時間と考えると十分すぎる働き。これだけ結果を残しても守備を怠らないところは他の選手も見習ってほしい。

吉田 5.5
見せ場は作れず。ジュニーニョを中心に攻めてくる相手に対して守備での運動量の担保のみになってしまった。

ジャエル 5.0
時間を作るというタスク自体は理解してピッチに入っていた印象だったが、それを果たせていたかで言うとノー。固めて何とかなる展開でもなかったのでバイスが上がっている相手の守備にもう少しストレスを与えられればスコアは違ったかもしれない。

布監督
「ポジトラで繋げない」「ラインがあまりに低すぎた」など前節の反省点に対してかなり強引に改善策を打ち出す。守備スライドの負担はいくらか多くなったのが前後半終盤での失点に繋がったが「攻撃の時間を増やすことで得点も狙いつつ守備の時間を減らす」狙いは今後も続けていきたい。また、ロングボールも選択肢にいれることで、後ろからの繋ぎもだいぶ風通しは良くなっていた。

選手起用に関してはセルジの勝負所での起用、前線のやりくりなどうまくやれていた印象が、逃げ切りには力を入れられなかった。超結果論だが左に浦田を入れて前を米原のところに持ってきたほうが後ろの強度は高かったかもしれない(フレッシュなジュニーニョを気にして久保田→吉田にした采配は理解はできる)。とはいえ同じ終盤のガス欠でもリードで迎えるかビハインドで迎えるかでは全然違う。

<京都>

アンカー脇をシステム変更によって消した影響で前線の圧力は減ってしまうという中3日での修正の難しさに守備面では救われた。バイスとウタカはやはりJ2反則級の称号にふさわしく、金久保・庄司あたりも非常にいやらしい動き出しをするため、1人に人数をかけると他が空いてしまうというジレンマはどこのチームも感じることだろう。攻守ともにもう少し整備されてくると巻き返して昇格も狙えそうな予感。

~戦評~

■京都の大きな想定外と山雅の小さな想定外が出た序盤

連戦を戦ってきたシステム、4バックの右SBが誰もいなかったことからも高木彰を右WBにする3421で来ると予想されていた山雅のスタメン。WBがいるシステムに対してこちらも5バックで対応、自陣に引いて構える形はこれまでも行ってきており、恐らく京都もその形が有力だと思って準備してきたはず。

しかし、蓋を開けてみると山雅のシステムは442、かなりライン設定も高めのハイプレス型。恐らく大野・高木利は裏のスペースを埋めるためのスピードを買われて起用されたのではないかと思う(スカウティング崩しのためもあったかも)。

序盤の戦いから見られた大まかな狙いはこう↓

狙い

後ろは困ったときの抜け道としてSBやGKを使いながらもこれまでよりボランチにあてることを意識しているように見えた。これまであまり使ってこなかったGKを使った展開を見せていたことからも前線の準備の時間を作る狙いはあったと思う。

前線は阪野は安藤と高さ勝負、髙木彰は麻田とスピード勝負をする構図になっていたが、真の狙いはそれにより「バイスを引き付けること」「(空くと分析していた最終ラインとDH間の)中盤の選手が使うスペースを確保し、アンカー脇を両SHに狙わせること」だったと予想する。

さらにアンカー脇を狙うことに関してはボランチが逆SHにボールをいれることも狙いとしてあったはず。プレビューでも述べたがWBは中に入っていく選手には付いていかず、序盤は特にDHも背後から来るSHの選手になかなかつくことができなかった。

ただし、山雅側にも誤算はあった。京都は3322の1アンカーシステムをここまでは多用してきたが、アンカーの両脇という弱点を消すためか2ボランチに。「予想された攻める京都、守る山雅の構図」「東京V戦でポジトラ時のプレスに苦戦していた」ことを考えると京都側の後ろに重きを置いた修正は少々意外に感じたのが正直なところだ。

試合を通して良い修正だったか否か微妙だが、この守備面での修正が少なからず序盤猛攻を仕掛けにいった山雅の狙いを阻害した。そうでなくても、本来であれば山雅は序盤にもっと得点に近づかなければならなかったと思う。

■持ち直すには十分すぎたバイスの存在

プレス

↑序盤はアンカー気味になる庄司を常に消しながら、2トップをスイッチにしてプレスをかけ、ウタカにシンプルに当てるしかないという状況もいくつか作れていた。

プレス2

↑しかし、山雅の普段と違うシステムや自分たちの戦い方を整理した京都は戦い方を変えてくる。ハイプレスをかけてくると見るや否やIHの金久保や中野が最終ラインあたりまで下りてくる。

給水明けあたりになると主に高木彰が2度追いでバイスに寄せ、何度かミスを誘ったがやはりJ2最強と言われるだけある選手、逆サイドのWBへの凶悪なボールを何度も通してくる。

"一番通る可能性の薄いコースだった"のと"ある程度はSHの運動量と大野・高木利で抑える"算段があったかもしれないがそれにしてもかなりスレスレであったと思う。

プレス3

↑そこから京都はIHがCBを引き付け、中央のウタカへのマークを分散させることに成功していたが、橋内のスペースを埋めた塚川や大野がCBの経験もある選手だったこともあり、最後のところではやらせず。この攻撃に対しては一応無失点で抑える。

システム上ここにズレが生じるのは仕方がない点ではあるが、こちら側が一番疲弊する攻撃でもある。中盤は特にスライドをもう少しスムーズに行いたいところではあった。

■防がなければいけなかった失点

試合が動いたのは前半終了間際。リスクを取ったシステム的なギャップではなく、3バックでも4バックでも起こりうる形だったのは残念であった。

また、失点した時間帯も悪い。前半40分以降は敵陣でボールを回し、セカンドボールも回収、波状攻撃を仕掛けるというこれまでにはなかなかなかった好循環ができていたが、そこで攻撃をやりきって前半を終わることができず。差し切ることができない、攻撃をやりきって終われないという課題がでたのも引き続き課題だろう。

失点シーンに話を戻すと……

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サイド展開された後なので仕方のない部分もあるが、この時点で米原、塚川ともにだいぶ遠いことに危機感を持つべきであった。

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欲を言えばどちらかがここでウタカの前に立っている、もしくはターンさせないくらいの立ち位置でいたかった。

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そして決定的だったのがここのシーン。塚川が荒木にチャレンジにいったにも関わらず、ウタカが触るまで米原は持ち場を動いていない。塚川もだいぶ早めにカバーに飛び出していった気はするが、一番は米原が連動してスペースを消すことができていなかった。

犯人捜し的な結論になってしまい、申し訳ないが米原自身も自覚しているようなので今後の改善を楽しみにしたい。全体的な流れを見ると個人のせいだけとは言えないが、システム的な欠陥でもなく、身体を張れていないわけでもなく、単純に個人のスライドで防げた失点ではあった。

守備に奮闘しているシーンも見られたが、大事なところでシュートコースを開けてしまっては意味がない。藤田がいなくてもバイタルケアをできるようにならなければ後々厳しい。

■収穫となる勝負所での得点

HTを挟み、再びプレスの位置を修正した監督。それだけでなく、繋ぎに関しても地上で丁寧につなぎにいくシーンが増える。

しかし、ボールを保持して進めようとするのは京都も同じ。しかも相手はGKまでも使ってFWをおびき出してきていたのでややこちらが分が悪い展開に。そんな中、お互い行った2枚替えにより試合は動く。

この時間までに前線で動き回る山雅の2トップに対して対応出来てきていた京都であったが、セルジが全く違うムーブをすることによってマークを完全にリセットされる。そこでセルジに効果的なボールを配球できていたかでいうと否だが、他の選手へのマークも中途半端になることになり、地上戦で押し返すことに成功。

そして、ゴールシーン。セルジのダイアゴナルな動きによって2トップの一角でバイスを釣り出すことに成功。手薄になった中央で阪野が仕留めるという対京都の狙いがようやく形になった。杉本→セルジというフィーリングの合う2人によってわずか数分でこの狙いに成功したのはいかにもらしい。結局、再現性のある攻撃をするには"質"と"意思疎通"がなければできないよと示したかのような得点だった。

相手にも疲れが出ている時間帯でもあるが"勝負どころに"、"チームの狙った形で"、"局面を跳ね返す"ゴールができたのは1つの収穫だろう。

■スーパーゴラッソで逆転

これに関しては言うまでもない。布監督も驚きの表情だったが(こんな形で現れるのは予見できないにしても)セルジをこの局面で出す狙いとしてはこういうことだったはず。あえて10番を温存し、勝負どころでぶつけるのは今後の戦いでも十分見える。

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ギアをあげたい時間帯でなかなか得点をあげられない、逆に失点してしまう試合も多かった中、こうしたゴールを奪うことはできるのは勇気を与えてくれる。

■詰めの甘さが詰め込まれた残り数分

終盤は連戦の最終戦とあってなかなか疲弊していたであろう。
しかし、山雅は攻勢を緩めない姿勢を貫く。残り10分ほどのところでジャエル・吉田を投入。先程も述べたように結果論から言うとこの交代が少しだけ足を引っ張ることに。

少なくとも……ジャエルは守備で走らないのであれば攻撃で時間を作らなければならない。ベンチメンバーは守り切ることを重視していなかった(強いて言えば前だった)ため、残りの時間に関してはどれだけ守れるかよりもどれだけ自陣ゴールから遠ざけられるかが重要だった。

そして、最後の失点について。
まず1つは満身創痍の橋内のところを的確に狙った相手の狙いを褒めたい。ここに関しては競り合った橋内を責めるサポはいないだろう。

しかし、そこに至るまでのうちのDFが非常に曖昧でこうした積み重ねが今の順位に出ていると分かる。

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↑最初にボールホルダーに行くのか行かないのか。この場合ジャエルが完全に迷子になってるのもあり、行けないのであれば残りの44はアップかダウンかを"全体で"選ばなければならないが"各々の判断で"動いている。

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その結果、最終ラインと2列目の間が開きすぎていてCBの近辺には相手が4人。しかもこちらは橋内が万全ではないのに……だ。

どう考えてもウタカとバイスのいる相手の前線への放り込みは最優先の選択肢であり、最も注意しなければならないのにそれが共有できていない。今シーズンの詰めの甘さが出た失点である。

ハイテンションな戦いを続けた上での疲れによる失点であればある程度許容できるようなものだが、この手の失点に関してはずっとである。正直約束事がどうこうの話ではない。橋内が負傷しているという事態からどうすべきかを感じ取り、周りと意思統一するしかない。

■この試合をどう捉えるか

ということで色々と動きの多い試合であった。東京V戦の完敗をうけてどのようにメンバーを組んでくるか、どう戦うかが注目されたが、戦い方や姿勢としては素直に好感は持っている。

3421が悪いという訳では無いが、前節を受けてこのままではいけないと京都相手にアグレッシブな戦い方を選んだことは1サポーターとしてはワクワクしたし、戦う姿勢を感じた。その結果がここ数節なかった2得点にもプレスの怖さにも繋がったと思う。

ただ、これまでの守備的な戦いがあったからこその"奇襲的な戦略"がうまくハマってしまった面もある。次同じことをしてもやられるかもしれない。自分たちからゲームをコントロールしにいったようで実際はそれほどできていないのは現実としてはあった。

さらに確かなワクワク感の反面、個人的には拙い戦い方で勝ち点2を落とした試合であるとも捉えている。昇格を目指すにはこうした幼稚な失点・引き分け方は無くしていかなければならない。

幸いこの後は1週間の時間がある。休息とともにチームとして戦い方や意識の統一などを深めていけることを期待したい。

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レビューは以上です。

どうしても戦術的な分析をしているとピッチ上の出来事も無機質的な捉え方をしてしまいがちですが、今日のゴールの感覚やチームとして一時逆転できた喜びは間違いなく今後に向けてプラスになるとは思います。1週間のチームのテンションも全然変わってくるはずです。

"アグレッシブなチャレンジを見れた楽しさ"とともに相変わらず"(ヴェルディ戦とは違う)戦い方の難しさ"を強く感じた試合ではありましたが、このチャレンジと選手の充実感が今後に向けてプラスになってくれることをただただ願っています。

次は必ず勝ちましょう!

END





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