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天皇杯・長野戦振り返り~勇気と策略が生んだ先勝~

11年ぶりの「信州ダービー」

その歴史や個々の思いについては他の方もたくさんnoteや他媒体であげているので、この場では割愛しますが(そもそも当時はサポという立場でもなく、内情にも特別詳しくないですし)、県内のただならぬ”ダービー熱”に関してはサポという立場から改めて存分に感じることができ、スタジアムでその熱を体感できたのは本当に良い経験ができたと思います

ここでは普段通り、今週行われた試合についてを振り返っていきつつ、2戦目についての展望も述べていきたいと思います。ただし、普段と違って試合の見返しもできない、スタンドから見ただけ(俯瞰で見れていない)の感想になるのでレビューより観戦記に近くなるかもしれません(笑)そこらへんは一応普段との差別化をつけていきます。

■試合前から戦いはすでに始まっていた

試合の前に……今回遠征してみてまずは県内外での熱量のギャップを感じました。決して県外からの関心がないというわけではなく、前日行われていた特番や特集、街の盛り立て方などJ3同士、カップ戦でも想像以上に県内での注目度は高いんだなと改めて感じました。

・両チームのメンバー選考

さて、そんなこんなでスタメン発表。ここからすでに両指揮官の戦いやこれまでのチーム作りが見えました。

山雅は前節北九州戦から8人を変更。榎本・安東・橋内・野々村・安田・村山は今季初スタメン。ベンチも神田・三ツ田・田中(パ)・表原・田中(想)は初のメンバー入り。特に田中(想)のことは周りのサポーターもほとんどが知らないという様子……(県内の新聞では報じられていたのでここも少し意外でした)。

報道で事前に主力が数名のコンディションが難しいというのは報じられていましたが、それでもかなり思い切って変えてきたという印象です。ターンオーバーでも保険としてベンチに主力を入れておくケースが多いですし……(※いちいち注釈を入れると長くなるのでこの記事では「主力」と表現します)。ここまでのリーグの出場時間(全720分)を見ても最長は住田の476分、次点で佐藤の382分、村越の137分(ちなみに途中出場も入れると菊井が585分で最多)。この3連戦で続けて先発出場をしているのは住田のみとなっています。

対して長野はリーグ戦から4人を変更。ただ中でも今季初スタメンは原田のみ。変更になった宮阪(先発6試合)、三田(先発5試合)、秋山(先発3試合)は前節出場していたメンバーよりも今季の出場時間は長いので、原田を除いてバリバリリーグ戦に絡んできているスタメン・ベンチメンバーを組んできました。
出場時間で比べてみても、山雅の最多は住田でしたが、なんと長野側は7選手が住田以上のリーグ出場時間!むしろリーグの沼津戦よりこちらに照準を合わせてきた感じすらありました。

・2戦目を見越したメリット・デメリット

結果が出たからこそ山雅側のメリット/長野側のデメリットが浮き彫りになったものの、前節のリーグ戦からは中3日あったのでどちらが妥当ということは特になく、次節のリーグ戦まで見越してそれぞれ異なるメリット・デメリットを戦略立ててきたなといった感じです

例えば、メンバーを大幅に変えて負けでもした場合、外部からの逆風が強くなっていたのは名波監督の方だったと思います。いくらTMをやってるとはいっても初先発の選手たちがどれだけやれるかは未知の部分が多いですし、リーグの方もあるといっても天皇杯予選を落とせば次の試合いくら頑張ってもその権利は返ってきません。勝って気持ちよく終われたからこそあまり表面化していませんが、選手を信じて大胆な策を仕掛てきたことはけっこうな博打であり、結果的には先手を打った形になりました。

ただ、そんなハイリスクを冒した名波山雅だからこそ、この試合で勝った場合、ハイリターンがあるというのもスタメン発表の時点から明らかでした。さすがに明言はしないでしょうが両指揮官それは意識していたはずです。リーグ戦を見据えても、この試合で確実に勝っておかなければいけなかったのは"主力を起用し、より多くの手の内を見せていたシュタルフ長野"の方だったと思います。

■フットボールの奥深さ

・見応えのあったエアバトル

試合開始が近づくにつれてサポーター同士のボルテージも明らかに高まっていきましたが、試合も案の定激しいぶつかり合いに。序盤はお互いリスクは取らず、山雅は榎本、長野は宮本と長身のターゲットFWをめがけてロングボールを入れていきます。

長野はCBに喜岡・秋山、右SBに池ヶ谷と180台のCB型の選手を3人配置してきたので、このロングボールに対してはかなり意識してきたはず。最初こそ榎本が綺麗に勝てたものの、試合を通してみるとあまり勝率は良くなかったです(名波監督は2割5分から3割くらいと触れていました)。
ただ、長野の左SB・水谷と山雅の住田のマッチアップは空中戦では完全に勝てるポイントであり、セカンド回収も村越の方が機動力はあるので最初の空中戦で勝てなくても拾えるシーンは意外とありました。
そこを繰り返し突ければ良かったのですが、残念ながらこの日の前半は向かい風+(進行方向に対して)左向きに強風が吹いており、村山からのボールも榎本の頭に狙い通りいくことが少なかったです。途中には榎本が仕方なく左に移動することもありました。

対して、山雅の橋内・野々村と長野のCF宮本のエアバトルも見応えがありました。野々村と宮本のバトルはお互いそこを得意としてるだけあってバチバチでしたが、この試合の野々村は空中戦をほぼ制していた気がします
それを感じてか、宮本も橋内の方に時折ポジションを移すこともありましたがこのマッチアップはこれまでの実績もあって安心して見ていました。"飛ばせない守備"や"あえて自由にやらせてその先で奪い取るような守備"に関しては完全に橋内が上手だったので、かえってやりづらかったのではないでしょうか。

そうはいっても、試合を通してみると"空中戦"や"中央での競り合い"の部分は長野の方が強かったと思います。リーグではパウリーニョ・住田・米原らが入ることが多いボランチですが、この日は安東・稲福で組んでおり、枚数的にも相手は中盤に3枚いたのでそこの差はあるかもしれません。

そんな中でも後ろに重くならずにラインを強気にあげられていたのは野々村の空中戦と橋内のキャパの大きさは効いていたと思います

・前半の捉え方のギャップ

さて、ゲームが落ち着いてくると長野は最終ラインからボールを繋ぎ、山雅のズレを生み出そうとしてきます。これまでの442だと前線のポジショニングが定まらず、剥がされて前進されることの多かった山雅のブロックですが、個人的には「普段のリーグ戦よりも良かったのでは?」とすら感じました(もちろん相手あってのことですが……)。

特に良かったのは両SHの佐藤・住田で、常に背後をケアしながらスライドできてましたし、行くところ/行かないところもゴール裏から見てて明確でした。その後ろの安田・吉田がライン際の選手にしっかり寄せたり、インターセプトできていたのはそうした理由もありそうです。CB経由の外回りでサイドチェンジしてくることもありましたがこの日はSHのスライドの方が早かったのでそれほど問題はなかったと思います。佐藤・住田の2人はさすがリーグ戦でも使われているだけありました。

ただ宮阪のロングボールや水谷の不規則なポジショニングは変化を与える怖さがあったので、強風じゃなければ……というシーンも何度かはありました。リーグ戦は相手のホームゲームになる次節は注意したいです。

対して山雅もそれほど崩されたり、重くなったりはしていなかったのである程度カウンターの"香り"は見せます。具体的には"相手のSBが空けたスペースへのFWの裏抜け"、"相手の密集守備の裏を取るような逆サイドの攻め上がり"は狙いとして持ちながらそうした攻撃を随所に見せました。狙い自体は悪くなかったのですが、速攻を狙ってる分、動きの中での精度がイマイチだったのは少しもったいないところ……(阿吽の意思疎通はメンバー的に少し難しいのかもしれませんが)。

こうして風上の長野がやや優勢のまま、一進一退の前半が終わります。

前半の戦いについて両チームの指揮官は

名波監督
ゲーム自体はセカンドボールの拾い合いで、球際や対人のところで若干相手に分があって、こぼれ球を拾われて危険なエリアの周りまでボールを運ばれました。ただ、被シュートがいくつかと言えば、シュートシーンまでは行かれていなかったので、未然に防ぐ意識があったと思います。

https://yamaga-premium.com/archives/277192

シュタルフ監督
パルセイロらしくしっかりボールを握って、伝統でもある攻撃的なサッカーをもう一度ここで披露して、主導権を握りながらの攻守でしっかりと勝つプランでした。ゴールの部分だけ、残念ながら達成することが出来なかったと思います。前半を見てもほぼ我々のフットボールをしていたと思いますので、内容ではいい戦いが出来たのではと思います。

https://parceiro.co.jp/topteam/matches/detail/290

と話しており、けっこうなギャップがあるのが、すぐ訪れる次の試合へのパフォーマンスも込みなのか、単に互いの準備してきたプランの違いなのか……。真相は分かりませんが、読んでて面白み・奥深さがありました。

ただ、風向きもありましたし、起用しているメンバーたちの成熟度・疲労度を考えると「山雅にとってはそんなに悪い前半でなかったのは間違いない」と思いました。

加えて、名波監督からも

ゼロの時間を長くすればするほど、相手に隙とか穴が出てくると伝えて試合に入りました。

https://yamaga-premium.com/archives/277192

とコメントが出ていますが、後の交代を見ても「早めに先制点を取りたい長野」と「90分+延長で決めればいい松本」というベンチのスタンスははっきりしていたので、長野側が"前半を見てもほぼ我々のフットボールをしていた"という感想に落ち着いてくれたのは1つ幸運だったように思います。

■ダービーの歴史に刻まれる結末

・クラブの底上げを見せた後半

後半頭は押し込まれる時間が続きました。前半と比べて特別プレスがハマらなくなって……というわけではなかったと思いますが、"いち早く先制点を取りたい長野"と"ここを耐えて、60~70分以降に勝負をかけたい山雅"の入りの差は如実に出たと思います。

51分に村越、59分に安東と短い時間にカードが2回出たように悪い流れが続き、相手にボールが渡る、もしくは自分たちのチャンスに繋げられそうなところでクロスカウンターのような形を貰ったり……。あまり審判にアジャストできてなかったので、綺麗にボールを保持される形というよりはこういうトランジション勝負を続けられる方がもしかすると山雅側のボロは出やすかったかもしれません。

60分あたりには名波監督から声を掛けられたスタッフが選手を呼びに行きました。が、途中でそれを辞めています。攻め込まれて、流れ自体は悪かったですが、長野が後半頭から飛ばしてきたのもあってもう少し我慢したかったのかも……。

相手が70分に切り札のデュークカルロスを投入したこともあり、時間的にはこのあたりが一番危なかったように記憶しています。先ほども書きましたが、綺麗に崩しに来られるよりもフィジカルやトランジションでごり押しされる方が嫌でした。が、最終ラインを中心にここを何とか凌ぎ切ったことが後半は一番大きかったです(まあ、とは言っても村山のビックセーブもそんなになかったと思いますが)。

・ニューヒーローは突然に……

そして、73分には村越・稲福に代えて、田中(想)・菊井を投入し、山雅側も切り札を切りました。ボランチには肉弾戦にも対応できる住田を回し(ユーティリティ助かる……)、この交代が攻撃のメッセージになります。

そして、得点が生まれたのはそこから数分しか経っていない79分。名波監督のやりたいサッカーを体現し、要求に応えてきた菊井の攻撃センスはもちろん、あの時間に相手からボールを奪取し、さらに攻撃に出ていける安東のコンディションの復調と今後にむけての期待を感じました

さらに何といっても得点を決めた田中(想)。ボールを受けてからあらゆる選択肢がある中で"最低限"の選択を取ることは難しくなかったと思いますが、しっかりと自ら勝負を決めに行った思いっきりの良さと勝負強さがこの試合を決定づけました。ファーサイドに打てばこぼれ球を佐藤が押し込めるという"保険"もあった中でしっかりと狭いニアを打ち抜くあたりはさすがユースで得点を量産しているだけあります。

普段プレーを見る機会がなかったのでその後も自然と田中想来くんの動きを追ってしまっていましたが、去年から練習参加をしてきただけあって、シュートシーン以外もそれほど違和感なく、試合に入れていました。この溶け込みの早さはユースを充実させる利点ですね。

まるで漫画の主人公のような活躍を残した田中(想)。しかし、まだこれで「救世主」扱いをするのは早いように感じますし、今はただ暖かく見守っていきたいところですね。しかし、現在のFWの駒不足や"年齢は関係ない"と明言する監督の意向を考えるとリーグ戦で出番がある可能性は低くない気がします。

まあ、何はともあれ、これでユースや育成に対する見方が変わったり、注目度は上がってくるのは間違いないと思います。そういう自分も「ユースの選手ももう少し知っていかなければ」と思わされました。ここ2、3年は特にクラブ全体で”育成”というキーワードがあがる機会が増えてきましたが、"懐疑的な意見"や"肯定したいけどこれまでの成功体験もないのでなかなか難しいのではという意見"を持つ人も少なくない印象でした。ただこういう「論より証拠」といえる活躍は何より人の心には刺さるだろうなと、彼が20分ほどの時間で残した大きなインパクトから強く感じた1日でした。

田中(想)自身も、数年後には「J1・山雅のエース」として君臨するような選手になっていてくれれば嬉しく思います。スタジアムで見れたことを一生自慢したいですし。

■大きなアドバンテージをもって第2ラウンドへ

・無失点の流れは偶然ではない

話は試合に戻ります。最低でも1点は返さなければいけない長野は80分に3人替えで、パワープレー気味に1点を取りに来ました。さらに山本が入ってからはほぼ4トップのような形になっていました。

「前半のあれをフットボールしていないと言うならばこれは何なのだろうか」と言いたくなるような終盤だった気もしますが、これに対しても三ツ田を投入+3バックにシステム変更で対処。スタジアムのテンションも異常に高く、"何かが起こる"ようなシチュエーションの中で、左右の野々村・三ツ田を中央で橋内が操り、危なげなく試合を締めました。

個人的には山本(龍)や田中(パ)、表原ら出番を渇望している選手たちの出場機会があれば……と思う部分もありましたが、今度は明確に守備のメッセージを提示して腹を括って逃げ切っていたのは良かったです。このあたりには「3⇔4のシステム変更のチーム全体への浸透」と「勝負へのこだわりの強さ」を感じました。

このまま試合は終了。
「無失点」は沼津・北九州戦に続いて3戦連続。山雅の守備が急にガチガチに固くなったかと言われるとそこまでは感じませんが、これが続いているのは偶然ではなく、成功体験を重ねていくうちに良いサイクルや守備のスタンダードが徐々に生まれてきたような感触はあります。リーグでもこのままずっと無失点というのは無理な話ですが、これを土台にして徐々にチームを固めていければいいなと切実に思います。

・連敗は避けたい長野

さて、ようやく本格的に次節の展望。

試合結果が試合結果なので何か変化を加える必要性が高いのは長野の方かと思いますが、選手起用も戦術も基本的にはここまでやってきたことはこの試合に出し切っているので、「ガラッと戦い方やメンバーを変えてはこないのでは?」と予想しています

実際にシュタルフ監督も

難しい部分は、勝ちゲームをしたのに勝てなかった為に明確な修正点が無いところだと思います。今日のゲームをもう一度やること。しかし失点をせず、そして自分たちはゴールネットを揺らすこと。その為には、練習を通して、最後のアタッキングサードの部分で一番ノっている選手やクオリティをピッチ上で出せる選手を。次はホームなので、点が取れるように練習をするだけだと思います」

https://parceiro.co.jp/topteam/matches/detail/290

と述べており、「得点面で調子の良い選手を使う」ということを修正ポイントとしてあげています(宮本を下げると違う問題も生まれそうですが……)

これが駆け引きの可能性も捨てきれない……とはいえ、この試合で出ていない選手で、主力として試合に絡んできそうなのは現在負傷離脱中の船橋くらい。奇策や抜擢があるのか?は微妙なところです。

もしも本当に「今日のゲームをもう一度やる」というスタンスであれば対策も立てやすく、山雅としても好都合のように感じます(……同じメンバーでも、ボール保持へのこだわりを捨てカウンター一本狙いに切り替えられるのが一番厄介かも)。

・「King of 信州」であり続けるために

対して、優位に立っている山雅にとっても簡単な戦いではなく、天皇杯前とは違った難しさがあるのも事実です。

1つは「メンバー選考の面」。先週の試合を受けて、明確な変更は必要がないという長野ですが、客観的に見ると同じ展開を狙って得があるのは恐らく山雅側。前回の結果に加えて、良いイメージ/悪いイメージがそれぞれのチームに染み付いた状態で戦えるのはけっこう大きいと思います。極論、山雅側は"スタメンは変えずに、ベンチにそのまま主力を入れる"という戦い方でも前回の戦いよりも確実にグレードアップされるはず。

が、リーグ戦も決して結果が出ていないというわけではないので、天皇杯の1戦だけで序列がまるっと入れ替わるというのは考えにくく、最低でも半分、もしかすると同じくらい豪快にメンバーを入れ替えてくるではないでしょうか。

山雅は「誰が出ても同じ戦いができる」というよりは明らかに「出るメンバーによって戦い方が変わる」スカッドになっているので、天皇杯の再現を狙うとかえって歯車が狂うということも考えられます。なので、しっかりとそこは割り切って、各選手やユニットの持ち味を見失わない心がけ・マネジメントが大事になってきそうです。

もう一つは「メンタル面」。これはそう長くは説明不要だと思いますが、悔しさやギラギラ感をそのまま持ち帰っている長野と違い、天皇杯でひとつ山を越えたことで山雅は確実に"ひと段落"はついています。

試合が終わった直後に「『俺らは常に挑戦者』ということを忘れずに、上から目線にならずに謙虚さを持っていこう」と声掛けをしたのは名波監督らしいですが、「それを試合で出せるか?」はまた別の話になってきます。

まだまだ若いチームなので、引き締めるところはしっかりと引き締めつつ、リベンジに燃える長野の選手たちに負けない、強い気持ちをぶつけて、再び「King of 信州」は我々だということを示していきましょう。

END

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