松本山雅全選手個人総括やってみる<MF編>
続き
<個人総括>
※登録ポジション別、出場時間順
■MF
・下川 陽太
出場試合:32試合(32)、出場時間:2781分
成績:1G2A、警告・退場:0枚・0枚
FPの出場時間堂々の1位。右に左にCBに様々なポジションで起用され、安定したプレーを披露し続ける。特に単純な1対1の対人性能や球際の争いではほぼ負けなし。完全にやられた相手は恐らくA岐阜戦での窪田くらい。あとは強さ・速さ・うまさなどで隙を見つけるのは難しく、逆に保持時も簡単に取られないキープ力も圧倒的。前半戦では3バック⇔4バックの可変でも前とともに欠かせないキーマンだった。
そして、何と言っても特筆すべきは反則ポイントが信じられないほど多かったチームにおいてFP最多出場でありながらカードを1枚も貰うことなくシーズンを終えた点。どうしても去年の一発退場のフラッシュバックも残っている人も多いかと思うが、今年非常に冷静にクリーンに戦い続けたのはサポとしても好感が持てるのではないか。
一方、1G2Aと攻撃面での数字を残せなかったのはチームとしても個人としても誤算だった。その点は右での起用、そしてどちらかというと外山とのバランスを取って自重していたのは数字に響いたかもしれない(本来は右に前・左に下川の想定だったはずだし)。なかなか表には出てこないところだがJ3レベルの選手ではないので、起用法を含めて本人がどう考えるか。
・外山 凌
出場試合:30試合(28)、出場時間:2415分
成績:6G5A、警告・退場:4枚・0枚
契約更新が発表されたのは始動日の2日前の1月22日。その意味を改めて言うまでもないとは思うが、様々な思いを持ってスタートしたことが想像された今シーズン。しかし、開幕戦で交代から4分で決勝点を決め、勝利に貢献すると2節でも先制点、4節でもダメ押し点を決めるなどアピールに成功。さらに大一番・いわき戦では2得点。今年のスタートダッシュ&前半首位は彼抜きには語れないというような活躍を見せた。
プレー内容からも監督が求めてきたものに真摯に応えてきたというのが伝わるようなものがあり、これまでの外に張ってドリブルを仕掛けていく代名詞的なプレーとは違う「ボックス内への侵入」「ハーフスペースに入っての間受け」などにも積極的にトライ。去年苦労した守備面でもブラインドサイドの対応、攻め残りしてしまうような姿も(カテゴリー関係なく)改善が見られたシーズンだった。
後半戦で可変を使わなくなり、5バック気味になりがちだったことで明らかに数字は落ちてしまったが、そうはいっても6G5Aでゴール数2位、アシスト数1位。チームで2番目に得点に関与しており、期待値以上のものを見せた選手と言っていい。怪我が少なく、走力も去年よりもさらにアップしたので、選手としての価値も上がっているだろう。常田との左サイド2人は他チームからも需要が高そう。
・パウリーニョ
出場試合:27試合(25)、出場時間:2088分
成績:0G0A、警告・退場:6枚・0枚
山雅を救うためにJ2岡山から完全移籍。J3に落ちたタイミングだとあまりに贅沢な移籍で、気が落ちていたサポーターを大いに元気付けた加入だったと思う。監督からのリクエストというよりはクラブ主導や本人の意思で獲得に至ったようで、加入当初からクラブ愛や今年に懸ける思いが全面に伝わってきた。監督からもその持ち前のリーダーシップは期待されていたようで、ゲームキャプテンに指名されることも多かった。
今シーズンはアンカーの位置、もしくはWボランチの一角での起用。若いチームという事情もあって、これまでのように積極的に動いてボールを狩りに行くというよりは基本的には中盤の底でしっかりと構え、バイタルの管理をするようなタスクがメイン。リーグ全体の特色としてもマッチアップする相手はどちらかというと若くて機動力のあるプレイヤーが多く、パワフルさや球際の強さでパウリーニョに対抗できるような選手はかなり限られたので中盤のボールの奪い相手では強さが目立ち、そのフィールドに持ち込めばかなり安心して見ていられた。
その一方、カウンターなどの際に小回りの利く相手に簡単に交わされてしまうシーンも少なくなく、ビルドアップの際もパウロよりも前の選手が下りてきて組み立てるシーンが見られるなどアンカーとしては課題も。ゴール・アシストも記録できなかった。(だれが就任するにしろ)新監督のスタイルにどのように当てはめていくかは1つのテーマになりそう。
・佐藤 和弘
出場試合:27試合(25)、出場時間:2088分
成績:0G0A、警告・退場:6枚・0枚
キャプテンという重役から解放され、気持ちを新たにして迎えた今シーズン。序盤戦はSHとして出場機会を掴むも、菊井・住田の台頭によって徐々に出場機会は減少。ベンチから流れを変えるスイッチ役になっていく。だが、前移籍&3バック固定となった後半戦はIHやボランチとして欠かせない存在として定着。
その出場機会が示しているように、保持/非保持問わず気を遣ったプレーができ、バランスを取るだけではなく、意図的にバランスを壊して違いを作れるという点では移籍した前に次ぐ高い能力を示していたように思う。中盤の三角形⇔逆三角形のスイッチ役も彼が担っていた。
さらにキッカーも彼が務めるなどとにかく多くの役割を背負っていた感があるが、0G2Aで数字がなかなかついてこなかった。彼だけのせいではないが、セットプレーがあまり得点に直結しなかったというのはチームとして誤算だったように感じる。
半年で山雅に移籍したJ1大分時代を除き、13年のルーキーイヤーから常に試合に出続けていたので出場時間的には最小。今のチームの中では高いインテリジェンスと経験を持っているので、どういう方向性になるにしても貴重なプレイヤーではあるが……。
・住田 将
出場試合:20試合(16)、出場時間:1261分
成績:3G1A、警告・退場:5枚・0枚
東京2部の東京学芸大から加入し、ルーキーイヤーとなった今年。大学時代は長短のパスでゲームを作り、チーム全体のバランスを取るのも得意なプレイヤーという印象だったため、第2節山雅でSHとしてプロデビューしたのは大きな驚きだった。その後もIHやWBなどでも出場機会を積んでいき、ゴール前のターゲットとしても機能するなどルーキーながら高校・大学時代とは違う、新たな一面を開花させていく。1年目から試合に絡んでいく選手は多くいても、これだけ色んな試され方をした選手はJ1からJ3まで見回しても他にいなかったのではないか。
プレー内容的には納得いく試合よりいかない試合の方が多かったのではないかとも思うが、考えながらプレーできる選手だからなのか課題の受け止め方がうまいのか、派手なプレーは多くなくとも"地味に効いてるプレー"はどのポジションでも随所に見られたのは好印象。後半戦では試合に絡めない期間が長く、尻すぼみのシーズンになってしまったが、そういう紆余曲折も含めて今後の糧にしていってほしい。
セットプレーのキッカーとしてもなかなかチャンスを得られず、決定的なスルーパスももっと出せる選手だと思っているのでその数は増やしていきたいところ。監督次第では最終ラインでの起用もありえそうなのでそういう意味でも今後の伸びしろに期待したい。
・安東 輝
出場試合:13試合(9)、出場時間:768分
成績:0G1A、警告・退場:4枚・1枚
去年は怪我に苦しみながらも終盤は主力に定着。今年はパウリーニョや前、佐藤などライバルは多くいながらもそこに匹敵する戦力としての活躍が期待されていたが、今年も怪我に苦しんだシーズンだった。プレースタイル的にはどうしても仕方ないことだが、チームとしてはそれだけ痛手だったのは間違いない。
ただ試合に出た時には素早い寄せや奪い取る力はチームでも屈指。同じようなプレーを得意とするパウリーニョと比べるとパワーこそ劣るものの、機動力では安東に分があり、ボール扱いも長けていたので十分ポジション争いで勝てるだけの実力はあった。終盤ではTPJとルカオとともに切り札としての起用。今治戦のアシストもまさに安東ならではの動き・クロスだった。
主力まであと一歩のところで離脱に苦しんでいるが、J3では間違いなく大きな戦力。在籍歴やキャラクターを考えても山雅というクラブの中心になっていける素質はある。そういう意味では(こちらもプレースタイル的な問題もあるが)時間当たりのカード枚数が多すぎる。欠かせないプレイヤーとなっていくためにはカードトラブルも減らしていきたいところ。
・田中 パウロ 淳一
出場試合:8試合(2)、出場時間:329分
成績:3G2A、警告・退場:0枚・1枚
昨年は23試合出場も、スタイル変更の影響などで先発は0。さらに0G0Aで本人としてもなかなか難しいシーズンとなってしまったが、今年はFWに配置転換。TMなどで結果を残すと天皇杯の北陸大学戦で2G、磐田相手にも先制点をあげるなどアピールに成功。大一番の藤枝戦ではいきなり先発に起用されるなどチャンスが回ってきた。ただ次節の愛媛戦ではその勢いを見せられず不発、再び横山にポジションを奪われる形になった。
しかし、今年の彼はそれでは終わらなかった。再び後半戦の藤枝戦でチャンスを貰うとそこから切り札として立ち位置を掴み取り、岐阜戦からの5試合では3G2A。後半頭からIHとしても起用されるなど監督からも攻撃カードとして信頼されていたのは明らかで、月間MVPも獲得するなど完全に「救世主」としてチームを勢いづけた。
ただ、それだけに宮崎戦の1発退場は彼のプロキャリアを考えても許されない行為だった。今後のチームの方向性(特に規律面)を考えていく時期だったのもあって、契約面でマイナスに働いたかもしれない。また、出場時間こそ少なかったが、名波体制で起用自体はそこそこ多かった。アクセルがかかればあれだけの力を発揮できるだけにもう少し早く1点目が来ていれば違った未来が待っていたかもしれない。
・中山 陸
出場試合:8試合(2)、出場時間:268分
成績:1G0A、警告・退場:0枚・0枚
甲府では今シーズン全て途中からで5試合19分のみの出場。ほぼ出番を得られず、チームも苦しんでいる中で山雅への育成型期限付き移籍を決断。山雅にとっては唯一のシーズン途中での加入選手となった。
8月末に移籍が発表され、その週にはベンチ入り&山雅初出場。トップ下・IHとして徐々に出場機会を積んでいくと主力の出場停止もあった鳥取戦でWBで先発デビュー。好プレーを見せて満を持してYS横浜戦でIHでの先発を掴み取るもそこからは下降線。最終節の相模原戦では決勝点を決め、爪痕を残すも昇格の上では時すでに遅し。
プロでの出場時間はそれほど多くなく、去年も同じようにJ3富山に夏加入した際に1試合の出場に留まっているので「即戦力」を求めすぎるのも酷だったかもしれないが、菊井の負担を減らすための補強だったことを考えると適応に時間がかかり、思うように力を発揮することができなかった。ポテンシャルは感じたのでもう少し見てみたい選手ではあったが……山雅&甲府共に監督も変わったのでそのまま山雅に残る可能性は薄い。
・米原 秀亮
出場試合:5試合(3)、出場時間:257分
成績:0G0A、警告・退場:1枚・0枚
コロナ休止の影響もあったが激戦区のボランチで開幕スタメンを掴み、良い滑り出しを見せた今シーズン。第8節までで5試合出場と序盤から出番を得ていたが、トレーニング中に負傷して6週間の離脱に。その間にあった天皇杯にも絡めず、8月に甲府に期限付き移籍となった。
甲府でも再びコンディション不良などがあったようで、結局出場したのはターンオーバーをした第41節町田戦のWB起用のみ。実戦でのアピールは全くと言っていいほどできなかった。
左利きで組み立ても得意とするプレースタイルとあって、山雅はもちろん他チームからも重宝されるタイプだとは思うが、今年に関しては正直評価が難しく、新たなトピックスも乏しかった。来年は25歳で、若手とも言えない年齢になってきているのでそろそろ試合に絡んでいきたい。
・稲福 卓
出場試合:12試合(1)、出場時間:191分
成績:0G0A、警告・退場:0枚・0枚
ユースから昇格して2年目のシーズン。去年が最終節の途中出場のみだったということを考えると出場機会を得られたシーズンともいえるが「順調」と言い切れるかは評価が分かれそう。年間通して常に良い準備をして奮闘したとも言えるし、本職アンカーが不足気味のチームでブレイクしたかったとも言える…。個人的には後者だが、パウリーニョや安東、浜崎と競って上回るのは容易ではないのもまた事実としてある。
ボールを引き出す積極性や守備で身体を張れる献身性など光るものは見せており、何でも卒なくこなせる部分は魅力となっている反面、なかなか目に見えた結果を残すのが難しいスタイルでもある。このまま着実に経験を積んでいければ使い勝手の良い存在になれそうだが、今年に関してはキャンプでの高評価ほど出場機会が伸びなかったのに繋がっているかもしれない。
来年で3年目。長い目で見て大切に育てていく選手なので残るのはほぼ確実。そろそろ主力の1人として組み込まれるのか、外の環境で試合環境を積ませていくか、全く試合に絡めていないわけではなく、冒頭にも書いたように「順調」とも取れる成長を見せているのでクラブの評価・判断が気になる。
・村越 凱光
出場試合:5試合(2)、出場時間:145分
成績:0G0A、警告・退場:2枚・0枚
高卒3年目でようやくFW勝負となった今年。横山が先発に定着したこともあって第4節の相模原戦でいきなり先発のチャンスが。自身のゴール・アシストはなかったものの、ハイプレス・ロングカウンターで横山と共に相手を錯乱。4-1の大勝に貢献した。その後も春先はリーグ・天皇杯と定期的に出番はあったが……ルカオ・TPJも調子をあげてきていたのもあって出場機会は減っていき、6月末に柴田前監督が指揮を執るJFL・青森への移籍が発表された。
攻守で気持ちを全面に出すことができ、ボール・ゴールへの執着も強いプレイヤーなので、メンタル面も含めてなにかアクセントが欲しい時にもってこいの選手で、横山に匹敵する爆発的なスピードは見ていてもかなり可能性を感じられたが、2人を組ませるには自由すぎて収まりがつかず、横山と競うには得点・アシストの部分で結果を残せなかったのが実情だった。
移籍先の青森ではSHでレギュラーを掴み、攻撃時はそのままSH、守備時は最終ラインまで戻って5バックになる可変システムで、サイドの上下動で豊富な運動量を生かしていた。青森にとっては欠かせない戦力となっている一方で、山雅在籍はこれで丸3年。キャリアの分岐点となっている。
・吉田 将也
出場試合:2試合(1)、出場時間:117分
成績:0G0A、警告・退場:0枚・0枚
去年の栃木レンタルを経て、松本に復帰。J3ではアシスト王の経験があり、チームも4バックを視野に入れていたこともあってチャンスのシーズンになっていた。そうはいっても前・下川・外山・安田とベンチ入りの壁も厚かったが、シーズン序盤の第7節でメンバー入り。第8節には初スタメン&フル出場を果たし、名波監督からも名指しで成長を称えられるなど今後にむけても明るい兆しが見えていた。
その後の天皇杯予選決勝・長野戦でも安田との両SBは高パフォーマンスを見せており、試合終盤には春先切り札として無双状態だったデュークカルロスを抑えるなど見違えるような活躍を残している。だが、この時に股関節?を負傷(公式発表はなし)。その間に宮部が信頼を掴んでいた点、5バックにシステムが固定になった点などが響いて最後まで出番がなかった。
今オフは早々に契約満了が発表され、山雅を離れることになった。大きな活躍はできなかったのは確かだが、3年通してモロに監督・方針転換の被害に遭ってしまって本来の持ち味を生かせなかった感は否めない。SBの位置から駆け上がってのクロスが錆びていなければ大きな戦力になりうるのでうまくハマるチームを見つけてほしい。
・山田 真夏斗
出場試合:3試合(0)、出場時間:52分
成績:0G0A、警告・退場:0枚・0枚
村越と同じく今年で3年目のシーズン。昨年は名波監督就任初戦で山雅での初先発を掴み、今年はようやく本領発揮というシーズンにしたかったが、結果としてはベンチに定着することもなかなか難しく、そのままシーズンを終えてしまった。
彼のスペシャリティは誰しもが理解しているところであり、ロマンを感じるような攻撃センスは持っていた。名波監督が期待するのも何かわかるような気がしていたが、同時に弱みとなる部分も明白。出場機会を得てもどちらかというと課題となる部分が目についてしまうというのが正直なところだった。それを打破するための成功体験がついてくればまた見え方も違ったのかもしれない。
結局、山雅からは満了が発表されてしまい、自チームで彼の輝く姿を見ることは叶わなかった。元々山雅の以前からのスタイルとマッチするタイプではなかったため、そこにうまくマッチしなければというところからだったが、彼の持ち味が生きるようなチームでどうなるかは個人的には見てみたい。どのカテゴリーであってもその才能を開花させ、一花咲かせてほしいと願っている。
・濱名 真央
出場試合:3試合(0)、出場時間:18分
成績:0G1A、警告・退場:0枚・0枚
3月に山雅への加入が内定され、4月初戦の相模原戦で早速ベンチ入り。まだ日が浅いからか守備面では周りから常に指示が飛び交っているような状態だったものの、ボールを持った時には早速その才能の片鱗を見せる。ミスっても思い切って自分を表現していった方が得のスタイルなのでそういう意味では初戦でアシストという結果を記録できたのは今シーズンの最大の収穫なのではないか。
その後も出場機会が得られそうなシチュエーションはあったが、負傷もあって山雅の試合だけではなく、大学のリーグ戦も秋頃まで復帰できずにいたので出場機会は限られた。監督も変わってまた1からのスタートになるが攻撃的なスタイルの方が持ち味は生かせそう。来季も思い切ってプレーすることを忘れず、ルーキーイヤーでのブレイクを目指したい。
・表原 玄太
出場無し
去年は19試合(11先発)で1ゴール。監督交代後は主にWBで起用されたが出番はさらに減っていた。今年のキャンプではシャドーやSHなどより前方のポジションで試されていたようだが菊井や住田、山本、村越など若手が台頭してきたことで出番は回ってこず。カップ戦では途中出場するもリーグ戦の出場はなかった。
7月に関東1部の栃木シティへの完全移籍が発表。移籍後は関東1部リーグで4ゴール、全国社会人サッカー選手権大会などで2ゴールと得点を量産。J2でもある程度実績のある選手なので期待通りともいえるが、思うように居場所が見つけられないシーズンが続いた中で定位置を掴み、結果を残しているのは本人にとっても良い転機になるのでは。26歳、まだまだやれる。
続く