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富山戦レビュー~掴みつつある"後出しの権利"~

前節、辛くも八戸から勝ち点3を持ち帰り、今シーズン初の3連勝を目指す大事な1戦。今治、藤枝、いわきと好調なチームとばかり当たっては打ち破ってきたホーム戦だが、今節の相手も7戦負けなし、無失点試合が今シーズン一度もない絶好調中の富山。

両者のスタイルを考えても、「個の力を持った選手たちによる鋭いカウンター合戦」、「ちょっとのミスも許されない1点を奪い合うヒリヒリとした展開」、「セットプレーが鍵を握るような試合」になることが予想されたが、試合を振り返ってもまさに戦前の予想に沿うような試合内容となった。

今シーズン積み上げてきたものをしっかりと発揮し、強敵相手に躍動した今節のチームの狙い・意図をじっくりと振り返っていこうと思う。

<両者のフォーメーション>

・松本山雅

前節からスタメンは1人変更(住田→浜崎)。
中盤の1枚以外は3戦連続同じメンバーとなっている。
ベンチにはルカオが復帰。稲福も愛媛戦以来のベンチ入り。前節は出場停止中の安東はメンバー入りしなかった。

・カターレ富山

前節からスタメンは1枚変更。
前節負傷した安藤の代わりに松本が久々のスタメン起用。
だが、交代カードは大幅入れ替え。ルイス エンリケ、マテウス レイリア、元山雅の椎名など序盤の主力組や今シーズンの目玉選手がベンチ入り。代わりにここまで全て途中出場ながら4ゴールをあげている大野が怪我でメンバー外となった。

<記録>

・ゴール数

7:横山
5:外山
4:小松
2:住田、榎本、常田
1:菊井、宮部、下川

・アシスト数

3:外山
2:常田、菊井
1:ルカオ、佐藤、住田、濱名、ビクトル、小松

・累積

3:パウリーニョ
2:村越、佐藤、前、菊井、榎本、常田
1:米原、住田、浜崎、宮部、外山、安東(退場1)、横山

<総評>

■支配率とスペースのせめぎ合い

・保持の富山、引き込みたい山雅

ボール保持率ワースト1位の富山と2位の山雅。
相手にボールを持たせておいて、素早いプレスや囲い込みでボールを奪い、相手の陣形が揃う前に縦に早い攻撃で刺すという大枠は同じような分類同士の対決とあって、お互いにどのようなスタンスで試合に入るかは大きな注目ポイントだった。

そんな試合の序盤は富山がボールを持つような展開に。
中盤5枚、三角形と逆三角形になるので選手が向かい合うような形になった両者。これまでの試合を考えると、システムの噛み合わせ的には山雅側がイニシアティブを取れたが、意図的に噛み合う形を作ったように思う。

富山側は最終ラインと常に駆け引きをする吉平、そのサポート役になるだけではなく、時には下りてきてフリーマンのような状態になる川西の2トップがそれぞれの特徴を出してくる。それに合わせて2列目は前線にも顔を出し、川西と入れ替わりになるような形を見せることも。

特にAシルバはあらゆるところに顔を出し、ゴール前ではターゲットになるようなプレーを行ってくるので厄介であった。

これを見越してか前節とは違い、中盤はWボランチに、そしてAシルバは意図的にパウリーニョが見るようにしていたのは対富山対策としては良かったと思う。

相手に保持され、自陣まで運ばれることになったが、基本的には大きなエラーは見られず。裏で起点になった時の吉平と常田、ゴール前に飛び込んできたAシルバとパウリーニョと「個対個」のところで打開されそうになる場面はあったが、受け渡しやライン設定など、しっかりと自分たちで管理した上で対応できていた。

さらにこの日は早々にハイプレスを諦めたところを見ても、「あえて引き込んで、それによってできた裏のスペースを活用してのロングカウンター」という攻撃の狙いも同時にあったはず。

・敵陣奪回を目指す富山、裏を突く山雅

富山もカウンターがあるのはもちろん把握済み。
保持のプランを持ってきたというよりも恐らく持たされていた側面も大きかったのではないか。保持率は高くてもそれ以上にネガトラの意識は強く持っており、山雅陣内で失った後もすぐに引くのではなく、2トップを中心に前からプレスをかけて得意のショートカウンターを常に狙っていた。

ただ山雅もそんな富山のプレスに対して、先ほど書いたようなロングカウンターのプラン、そして狙うべきスペースも共有できていたように思う。

具体的には、富山は相手のWBに対してはWBが素早く寄せに行くが、その分、WBの背後のスペースは空く傾向にある。加えて、

相手選手の裏への動きを充分に注意するようにとミーティングや練習で対策していました

カターレ富山公式 監督コメントより

と話している通り、3CBはFWの裏への動きはかなり警戒していたのでサイドに流れたり、下りてくる山雅の選手に対してついてくる選手はいなかった。

相手の裏抜けへの警戒を逆手に取り、「トップ下の菊井がサイドに流れるパターン(②)」や「横山ではなく、小松が裏を狙って横山が足元で貰うパターン(②')」など前線の連携でサイドで起点を作り、そのまま素早い攻撃を仕掛ける形は序盤からかなり効果的だった。

相手の最終ラインの手前で横山や菊井がいい形で前を向くと、他の前線も最終ラインの裏を狙いだすので奪いに行くのは至難の業
そのままシュートまで持ち込んだり、相手を引き付けて追い越してくる味方を使ったりすることで自分たちの得点チャンスを作れていたが、それと同時に間接的に相手の最大の武器である"即時奪回やショートカウンター"を防ぐことができていたのも大きかったように感じる。

こうして、「富山保持→山雅陣内まで運ぶ→裏のスペースができる→山雅ボールになったらロングカウンター→富山陣内まで運ぶ→奪われたらブロックを組んでミドルプレス→富山保持」という循環をこの試合では長く続けることができた。

もちろん富山の保持が山雅のブロックやロングカウンターを上回った場合、この循環は山雅にとっては不利に働く場合もあるが、得意とするスタイルや実際にシュートまで持ち込んだ数を考えても山雅にとっては十分収支が取れる流れだっただろう。支配率こそ負けていたがストレスはそれほどなかったのではないか。

また、決勝点になった常田の得点はセットプレーの流れからだったが、今週のトレーニングではセットプレーを重点的に行い、キッカーとしても信頼が置かれる浜崎を起用していたので、前半はかなり事前に思い描いていたプラン通りだったのではないかと思う。

■流れを掴んだ後出しのシステム変更

・"守備の4バック"という手札

ただ、細かいところを見ていくと、試合の流れの中でも相手を見ながら大きな修正を行ったこともこの試合では大きな分岐点だった。

"想定外"というと聞こえが悪いかもしれないが、試合の中で相手の出方を見て柔軟に対応できていたというのが正しいかもしれない

具体的には先制した後に行った4バックへのシステム変更。

18分くらいにパウリーニョが「4バックはどうか」と言いに来て、もう少し我慢しようという中で我々が先制しました。

松本山雅公式 監督コメントより

と話している通り、中の選手からの提案がきっかけとなり、システムを変えるチャンスは伺っていたよう。

なぜシステム変更に踏み切ったか。

それ以前の流れを見ると、ボールを保持していた富山はシンプルな縦に早い攻撃だけでは収支が合わないと見ると、川西やAシルバが下りてきて、山雅のプレスを無力化するような動きを見せていた

こうなると山雅の最終ライン3枚に対して、前線は吉平1枚に。それによって山雅の前線は数的不利になるので迂闊にプレスに出て行けず、少し後ろに重すぎる(余り過ぎる)形になっていた

実際にシステム変更に踏み切るのが遅れたのは、名波監督も述べているようにこれまで守備を重視しての3バックから4バックへの変更はほぼ(全く?)行ってきておらず、最終ラインの人数を削るリスクに対して少し慎重になっていたのかもしれない。

そんな中で常田の先制弾で思い切って変更に踏み切れた。

4バックにシステムを変更すると、それと同時に「下りてくる川西やAシルバにはついていかずに放置する」選択をする。

山雅も去年散々やられてきたことだが、前線が最終ラインまで下りてくるのは相手を惑わしたり、ボールの保持を安定化させたりするには適しているが、自分たちのポジションバランスも崩れてしまう諸刃の剣でもある

リードした山雅は、後ろの陣形を崩してまで川西に無理してついていく必要もなく、ボールが出たらプレッシャーに出ていくというスタンス⇩

川西が下りることによって、マークのズレが生まれたり、ブロックに余計なスペースが生まれるのを最低限に抑えるほうに舵を切った。

相手の攻撃でかなりの自由と決定権が与えられていた川西やAシルバはJ3では反則級のタレントで、この試合でも厄介な存在だったが、パウリーニョによる徹底マーク、そして川西への対応をシステム変更を交えながらスムーズに行えたことが先制後も試合を優位に進められた大きな要因だった。

・川西システムに舵を切る

HT明けには富山がIHの2枚を変更。
あまりにも川西が下がってきてしまい、前線が手薄になってしまっていたため、ポジションを1列下げて、代わりにFWの高橋を入れることで前線のパワーを落とさないような形(一応3-4-2-1?)にしてくる。

(山雅的には、"FWに入れたセルジが下がってくるのを想定して、最初から1列下げたポジションに入れ、代わりにFWを入れることで前線の枚数が足りなくなるのを防ぐ"という去年の流れを見ているようだった)

前半は球際の強さやゴール前の迫力で脅威になっていたAシルバを下げてくるのは想定外だったが、富山の攻撃の手綱を握る川西がより自由に動けるように形を組み替えたという意味では納得感のある変更だったように思う。

その後もマテウスレイリアを投入し、川西を1トップ気味に置いたかと思えば、ルイスエンリケを投入して、再び川西の位置を下げたりと彼を中心に前線の形を色々と変えてきており、DAZNで中継を見ていてもかなり基本形が掴みにくかったのが正直なところ……。

だが、"下りてくる川西は一貫して放置、SHが中を締めて中央には簡単に差し込ませないようにする"というのを相手や自分達の変化が起こっても、変わらずやれていたのはチームとして川西対策が事前にしっかりと落とし込まれていた証拠かもしれない。

・積み重ねが見えた第2手の練度

そして、後半の試合の流れに話を戻すと、後半開始から15分は山雅が約73%と高い保持率になっていた。この試合で唯一山雅の保持率が上回る時間帯となる。後半に向けて富山が自分たちの非保持の形に仕切り直してきた部分もあると思われるが、ここまではっきりとした数字になったのは山雅側にも保持する意図はあったかもしれない。

改めて山雅の保持/富山の非保持の形を整理すると……
山雅は前半途中から4-4-2にシステムを変更しており、守備は互いに噛み合わない状態になっていた。非保持時はブロックを組んで動かなかった山雅に対して、プレスに行きたい富山はシステムのズレが起きないようにスライドする必要がある。

山雅の2トップに対しては富山の3CBが監視し、逆に言うとほぼピン留め状態になっていたことで、主に吉平が2度追い、3度追いをして数的不利を埋め、山雅の保持を追い込もうとする⇩

ただ山雅のボール回しの中心だった左サイドは下川・外山がどちらもSB・SHで対応可能。流れの中でポジションを入れ替えて相手のサイドの守備を攪乱するシーンが多く見られた。

例えば、下川が高い位置を取るとシャドーはこれに付いていかず、WBにマークを任せていたので代わりに外山が下りてきて、下川と縦関係を作る形や

あえて下川が下がってWBを引き出して外山がハーフスペースを突く形など。

また、外山は元々SHが本職ではあったが、外で張って仕掛けるプレーが持ち味で、ハーフスペースを突く動きや相手のボランチ脇を突くようなプレーはそれほど多くはなかったので、中に侵入したり、相手に合わせてポジションを変えるこの日のプレーの幅はかなりこれまでとの違いを感じた。得点面だけではなく、このようなプレーの1つ1つからも彼が名波監督からの要求に愚直に応えてきた成果がこういうところにも表れていた。

こうして、ポゼッション7割を超えていたこの時間(後半開始15分)に許したシュートはパウリーニョが持ち運ぼうとしたところでプレスバックに遭い、ショートカウンターを喰らった1本のみ。

もちろん、こちらが1点リードしていて、横山と小松のところでピン留めできていたという点は考慮しなければいけないが、このシチュエーション下では70%を超える支配率でも致命的なエラーはほぼ見られず。サイドで縦関係を作りながら、相手のWBを惑わし、うまく前進できていたと思う。

逆に富山にとっては後半の頭、山雅に持たせていた時間に仕留めたかったはず。山雅が後出しで行った4-4-2に対して、後半から富山も後出しで3-4-2-1に変更したが、非保持で高い練度を誇っている元々の3-5-2に比べると(メンバーの影響もあって)若干急造感はあった。
また、外山・下川のマークで困っている様子もあったのでもしかすると後半の頭に山雅が保持を行いだしたのは想定外だったのもあるかもしれない。

■中盤の山を連勝で折り返せるか

60分以降は高橋に続いて、攻撃カードとしてMレイリアを投入。
山雅は小松が、富山は高橋がビックチャンスを迎えるも枠を捉えることはできず、1-0のまま試合が進んでいく。

そして、78分には菊井・浜崎に代えて佐藤・稲福を投入し、再び非保持に振り切る。佐藤は中締めの精度が高く、細かなポジション修正によって下りてくる川西へのパスコースもことごとく消して、オープンになりかけていた中盤のスペースを締め、稲福もMレイリアに対して粘り強い対応を見せるなど途中からの仕事を全う。

82分には橋内・宮部を入れていつもの逃げ切り態勢に突入。
パワーを持っていた富山の前線は強力で、あわやハンド、あわやディフレクションから失点というシーンも作られた。欲を言えばこうなる前に追加点を取って楽に進めておきたかったが、結局シュートはこの1本だけに抑え、去年から連続得点記録を積み上げていた富山の攻撃を完封。大きな勝ち点3を取った。

これで4位藤枝、5位富山との勝ち点差は5に。丸1試合分の差をつけることができた。まだまだ自動昇格圏は鹿児島・いわきと強力な2チームがキープし続けているが、そこに離されずに済んだのは悪くないだろう。

次節は前半戦のラスト、こちらも手堅い試合を得意とする福島ユナイテッドが相手となる。現在は7試合勝ち無しの11位。昇格争いから一気に転げ落ちる形になってしまったが、失点はわずか15でリーグ5位の少なさ。藤枝戦の6失点が響いていてこの失点数なので、トップ3と遜色ない守備を誇るといっても過言ではないかもしれない。

山雅としては現在初の3連勝中。いわき-八戸-富山-福島-いわき-八戸-鹿児島という中盤の山で、今のところ順調に勝ち点を積み重ねている。

とはいえ、これをスタンダードにしていかなければいけない状況にある。また、その次に控えるアウェイでのいわき戦を前にぴったりと勝ち点をつけておきたいのが正直なところ……。

ホーム連戦という日程の利も生かして、連勝を積み重ねていきたい。

END


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