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東京V戦レビュー~巻き起こった名波革命~

5連勝中の相手を打ち破り名波体制初勝利

「今季一番良い試合」「決して後ろを振り返る必要はない1勝」

7月3日、名波の日の1戦は、選手や監督からこうした声が聞かれるのも納得の充実の初勝利。恐らくこの初勝利は日付とともに長くサポの記憶にも残るだろう。いかにここから立て直すのが難しいかを実感させられた琉球戦とは打って変わって後半戦への希望を大きくさせてくれる、2カ月ぶりの勝ち点3となった。

この日のメンバーは特別前体制の主力と大きく変わったわけではない。強いて言えば最終ラインでは初先発となったルーキー・宮部くらい。しかし、確実にコミュニケーションは活発になり、パスには意図が生まれ、味方を追い越す動きが増えるなどチームは名波色に染まりつつある。

恐るべき名波浩というべきか、就任直後から話している「人心掌握術」「その気にさせる力」がここまでは完全に良い方に転んでいる、さらに結果が出たことでチームはさらに良くなっていくはず
チーム内競争も活発になり、好循環が生まれているチームが残り2戦どのように進化していくか。その過程を逃さずに追っていきたい。

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<勝手にチームMVP>

MVP:圍謙太朗
→みんなにあげたいくらい。ただここでは守護神に1票を投じる。ビックセーブだけではなく、ビルドアップ参加や味方への声掛けなど意識の面の変化もこれから期待できそう。

次点:阪野豊史、宮部大己
阪野→2点目はまさに真骨頂。いつも阪野が競る役になり、自身の得点面では犠牲になることが多かったがようやく勝負できるポジションでボールが回ってくる。ボックス内での得点感覚は健在だった。
宮部→(山雅の)右サイド狙いだった東京Vの攻撃を高い対人性能でことごとく潰す。攻撃でも高い位置を取ることが多かったので消耗も見えたが、最後の最後まで粘り強く右サイドを守り切った。

<戦評>

■左右で異なるタスクを与えた名波監督

中4日&長距離移動のあった琉球戦よりも長い準備期間が与えられた今節のホームゲーム。

スタメンは4人変更し、GKには村山に変わって圍が町田戦以来の先発。
CBには前貴之が務めた右HVには宮部がCBとしては初先発に。両方できるユーティリティ性は持っていてもSBの役割も遜色なくこなせるポリバレント性を発揮できる選手は意外に多くないのでなかなか面白い存在になるかもしれない
左には外山、右には下川に変わって表原が入り、ボランチは佐藤・前貴之がそれぞれこのポジションに復帰。一列前のトップ下気味に河合が入る。前節ボランチに入っていた浜崎と山田は何らかの理由でベンチ外になった。
そして、2トップには鈴木・阪野が起用された。

・東京Vを意識した疑似4バック

メンバー的には前体制で多くの出場機会を得ていた選手が多く起用されることになったがそのシステムは全く異なり、序盤から"対ヴェルディ"を意識したであろう全く違う陣形を見せる。

Twitterでは勝手に"疑似4バック"と呼んでいたが、右は表原が最終ラインに戻らず高い位置を取り続け、その裏は宮部がSB役もこなしてカバー。これにより「3バックか?4バックか?」サポの間でも混乱を生むことに。普段の陣形を見ているかつ中継で上から見ていてもかなりややこしかったので、東京V側もその実態を把握するのに苦労したと感じる。

具体的にはこのような守備陣形に。アンカー加藤は河合が見ているので鈴木・阪野はいつもより広めの位置を取り、サイドチェンジを防ぐ。

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①SBに出したら表原が縦に通す間もなくプレスを
②加藤がどこに行っても(基本は)河合がついていく
③逆サイドへの展開は極力阪野がやらせない
④遠回りしてでも逆に展開する時は時間がかかるので外山か河合のスライドで間に合わせる(加藤は残る2人のどちらかが見る)

河合がマンマークでアンカーの加藤を捕まえることでリズムが掴めない東京Vはパスコースで迷うシーンが多く、"いるはずのない場所にいる"表原や宮部のところにチャンスボールが転がってくる。それを防ぐべく、ロングボールを使うも高さのないFW端戸とCB星・常田ではこちらが優勢。セカンドボールの回収もこちらが優位に立つ。

・人もボールも縦に早い攻撃

そして、奪える場所、やられそうな場所が整理されていたことで奪った後の攻撃もそれぞれの役割、相手のプレスの交わし方も明確化される。

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奪った後はハーフスペースや大外レーンに必ず誰かが走り込むことで東京VWGも守備に奔走。端戸は前線から奪おうと献身的な守備を見せていたが、「WGが普段以上に低い位置まで守備に戻らなければならなかったこと」や「本来、前線まで上がってプレスに来るIHの担当ではない常田や河合が起点として機能となっていた」でプレスを無力化。序盤は守備がハマらないことで東京Vはどんどん後ろに、山雅は前に前に人数をかけることに。

これまでも縦に早いサッカー自体は志向していたが以前は

・ボールは縦に早いが、前に選択肢が少ない
・出し手のタイミングでボールを出していた

ことで欠陥が生じやすかった。それにより受け手と出し手のやりたいことにズレが生じ、相手も抑えどころがはっきりしていたが、追い越す動きが増えたことで選択肢は増え、相手は守備に戻らざるを得なくなり、押し込むことに成功。

そんな中でセットプレー絡みで先制点が生まれる。
結果はオウンゴールだが、前半17分、良い流れができていた中で取ったCKからゴール欠乏症の山雅にとっては待望の先制点をゲット。外山絡みだと岡山戦のそのままゴールに入ってしまったクロスが記憶に新しい。DF泣かせのクロッサーとなっている。

■勇気あるシステムの落とし穴と修正

・宮部の裏を狙いたい東京V

こうして第1Qまでは支配率で上回るなど予想を上回る展開を見せた。

しかし、好調の東京Vはただでは終わらない。こちらの右肩あがりの陣形を見て宮部の位置を狙っていたが、第2Qでは狙い方を変更。右をそのまま狙っていたところから一度(山雅の)左側に起点を作って攻撃を繰り出す。

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⇩左利きの福村がプレスの抜け道となり、逆サイドに展開

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最初の数本は「表原に高い位置を取らせるメリット」>「宮部の裏を狙われるデメリット」と見て表原は下げず、宮部に裏の対応をさせていた。これはサイドチェンジのボールがイマイチ繋がっていなかったこと、今の山雅の課題克服からも悪くない"継続"だったと思う。

あとは単純に宮部の対人性能が東京Vの想定を上回っていたのが大きい。
サイドに釣られると対応が危うくなったり、距離を取りたがるCBも多い中、宮部は奪いに行きながらも抜き去られるシーンは1度もなかった。疲労の色が見え始めた終盤までドリブル突破を食い止めて、ファールを貰う姿は対人職人と言われるのも納得。

ただ、前半終了あたり、締めの時間帯に『ひとまず無失点で乗り切ろう』と舵を切ったあたりから表原を下げたのか、はたまた守備の意識から自然と下がってしまったのか、5バック気味の陣形に戻している。

・失点シーン検証する

そして、後半は「0-0のつもりでやること」「サイドチェンジの対応をしっかり」という指示が出た。このあたりにも東京Vの狙いを感じつつも、あくまで表原は下げず、前に重心をかけていこうという監督の狙いは見えた。

ただ後半10分そのサイドチェンジから東京Vに得点が生まれる。それほど崩されたシーンではなかったが、重心が後ろに重くなりすぎたこと表原が最終ラインに吸収されてしまったことからも山雅としてはこの布陣を敷く上で作られたくはない形だった。

ではなぜその形を作られてしまったのか。

まず起点となったのは端戸。福村からのボールを受け、あえてゴールに向かうのではなく、角を取り、こちらの最終ラインを下げにかかる。このプレーが実はこの1シーンでは大きかった。星をサイドまで引き連れただけではなく、外山もフォローに行くことに。最終ラインの2枚がサイドに引っ張られたので表原も最終ラインまで下がってくる

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そして、端戸は無理をせずに高い位置を取る味方にパス。佐藤・河合もそのポジションのフォローに入るため、鈴木がそのスペースを埋めることに。こうした形を作られたことで若狭は空けてしまうことになるが致し方ない。強いて言えば佐藤に加藤を受け渡すという手もあったが、前半から徹底マークをしていた加藤と後方にいるCBであれば加藤の方をより消しておきたいという判断は間違ってはいない。必要以上に下がることになってしまった点は成熟度が上がってきてからになってくるはず⇩

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この失点、リアルタイムでに見ていた時は自分も「2トップが疲れでプレスに行けなかったことで若狭をフリーにしてしまった」と感じていた。しかし、時間を巻き戻してみるとだいぶ印象が変わっている。

(端戸に深い位置まで侵入されたことで少し人数をかけすぎてしまった感はあるが)今のチームの成熟度を考えると"サイドチェンジまで"は相手の積み上げが上手だったという側面が強いだろう。すこし"変な間ができてしまった"ことでディフレクションも生まれて結果ここで失点をしてしまったが、そこに至る過程を見ると、むしろ他のシーンの方が危険な形は多かった。それらを踏まえると逆サイドに展開された時のWB(表原)、CB(宮部)勝負はある程度は許容範囲だったと個人的には思う。そう仮定すると前線ではなく、表原→下川なのも納得は行く。

失点自体がネガティブなことには変わりない。
ただこの一連では失点後にも気持ちを落とさずにすぐに得点を奪い返したメンタル面、そしてすぐに下川を入れ、サイドチェンジの"後"で対処しようとした采配面。結果的にその後すぐに取り返したことも含めてプラスの部分の方を声を大にして言いたい。

(ちなみに阪野のゴールは細かくは触れない……というよりいい意味で触れるまでもない形だったので割愛するが、年間ベストゴール級の印象的なゴールだったと思う)

■エネルギーを失わなかった終盤戦

最後に(鈴木)国友がシュートを打ったシーンも、2-1で勝っている状況で、アディショナルタイムを含めれば残り時間があまりなく、サイドでキープで良いのではないかと思う方もいたと思います。とにかく選手たちに植え付けているのは前選択、ゴールに向かうということだったので、そういう意味では後ろを回った外山もそうですし、ゴール前で顔を出した小手川、後ろのサポートからボックスの近くまで狙いに来た前、大外で待っていた下川。5人がもう1点を取りに行ったのは、個人的には評価したいです

総括の最後に名波監督がこう触れたようにリードしてから終了までのおよそ30分はガス欠気味になりながらも攻撃の脅威は常に持ち続けた。

この日は下川・小手川・戸島の3枚のみしか交代枠は使わなかったが、トータルでの交代選手の存在感も山雅の方が上回っていたと感じる。

また終盤で押し込まれた時間帯の周りの前線へのフォローも早かった。解任時にも触れたが、監督が変わったからといってチームのコンディション(主に疲労面)は急激に変わる訳では無い。特にこの日のメンバーは継続して使われてきたメンバーなのでそれほどコンディション面は変わりないだろう。

それでもこの試合は思った以上に全体の走力が落ちなかったのは前半のゲーム支配、メンタル面の変化。またそれに伴う相手側の疲弊も加わる。

元々よく走るチーム(走らされると言っても良いかもしれない)だったのが効率性を得たことで、周りを動かすのが上手い小手川や戸島が入った時も周りの選手が連動することができていたと感じる。

名波監督のあげていたロスタイムの国友のシュートはまさにそれを示していた。小手川のカットから戸島に入れたところからカウンター開始⇩

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国友が裏に走り出したことで最終ラインは下がり、戸島もそのリーチを生かしてボールをキープ。外山の攻めあがる時間を作る。この時に前・下川もカウンターに走り出す⇩

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相手の戻りよりもこちらのカウンターの勢いが上回り、最終ラインは後退を余儀なくされる。特に若狭は常に外山をケアしながら国友に対応することになったので難しかったと思う。シュートは外れたがとどめを刺しても不思議ではなかった⇩

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まだまだ変わりきったと言えない点もあり、(相手のあることなので)試合によりけりだとは思うが、ゲーム支配力の高い東京Vを相手にして終盤にもパワーを見せ、このような攻め上がりを見せることができたのは結果が出ていた頃の山雅を彷彿とさせた。

良い守備から良い攻撃に。この成功体験を1つ1つ積み重ねていきたい。

■またしても連勝中のチームと

こうして5連勝中だった東京Vから何とか勝ち点3を奪えた。
しかし、あくまで勝ち点3。順位も16位。まだまだ危機が去った訳では無い。次節も勝ち点3を獲得して中断前に少しでも降格圏から離れておきたいところだ。

しかし、次節の相手も4連勝中、負け無しも8戦まで伸ばしている山形。
一時期は山雅とズッ友な位置にいたところが現在6位にまで浮上中。新監督となったクラモフスキーと元愛媛の川井コーチがうまくチームを立て直した。元々ボールを繋ぐ土台とメンバーは揃っていたので不思議でないといえば不思議ではないのだが、エース・ヴィニシウスのコンディションが整わない中で藤田や山田康らが躍動し、ここまで即効性を見せたのはやはり地力と積み上げを感じる。全く違うものになっているビルドアップをうまく捕まえてできるだけ高い位置、狙いを持った奪い方をしてチャンスを創出していきたい。

また次節からリーグ戦の後半戦がスタート。1度対戦したチームを相手に次はどう戦っていくか、どれだけうまく戦えていたかも注目ポイントにはなってくる(山形と前半戦を戦ったころにはまだ松本は柴田監督、山形は石丸監督だったため初顔合わせのような感覚にもなるが……)。

まずは後半戦初戦、好調の相手に打ち勝ち、前節得た自信をさらに確かなものにしたい。

END

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