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新潟戦レビュー~盾で矛を殴るのも立派な攻撃~

柴田体制最高の状態で首位に挑む

ここまで負け無しの首位との決戦。新潟が今年勝ち切ることができなかったのはいずれもアウェイ戦(琉球・栃木)。ホームでは5戦5勝14得点1失点と勝ち点84・得点84を超えるペースで爆走中、"今J2で一番ハードなスタジアム"と言っても過言ではない敵地での戦い。

対して、ここまで3連勝中の山雅。沈みに沈みきっていた序盤だけではなく、3連勝は一度もなかった昨季から見ても、柴田体制で一番勢いがある状態で首位に挑むことに。

ただし、山雅の3連勝はいずれも降格圏付近に沈む不調なチーム。超ハードモードのビックスワンスタジアムで新潟を相手にするのは全く別物になり、チームの真価が問われる試合になったが、そんな大一番で山雅は内容・スタッツともに新潟を上回る試合を披露。

勇気の持った戦い方で堂々たる勝ち点1を持ち帰ることに成功した。昇格への道がシビアになっていることで勝ち点1に留まったことには賛否あるが、こうした議論が活発になること自体がポジティブなことで、今後に向けても悲観する必要は全くないのではないかと感じている。

だが、試合を見ると"勝ちたい試合ではあった"のも選手のリアクションからも感じられる。これから勝ち点を縮めていかなければいけない立場としては満足ばかりはしていられない。この勢いを次につなげていくことが何よりも重要ということを共通認識にしつつ、さらなる高みを目指していきたい。

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~勝手にMVP~

MVP→大野佑哉
J2で今最も熱い男・本間至恩の監視役に抜擢され、封殺に成功。阪野・橋内とも迷ったが、想定以上の働きという意味ではこの男が抜けている。試合序盤の強気のタックルがその後の両チームのプレーにも影響したのではないか。

次点→阪野豊史、橋内優也
阪野→与えられたタスクをこなす献身性だけではなく、相手のビルドアップに対してピッチ内で柔軟に対応する判断力も光る。

橋内→危ないシーンは多かったとはいえ、強気のライン設定を敷けたのは橋内のおかげ。無失点という結果と離れないかヒヤヒヤだったハムを無事持ち帰れたことは一安心。

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~戦評~

(ここから引用する話もあるので気になる点は遡っていただけると)

山雅の先発は浜崎、小手川、鈴木から星、佐藤和、阪野に変更。怪我で欠場していた佐藤キャプテンが3試合ぶりに復帰。フォーメーションも2DHという選択肢も持てるようになり、3421に変更。少ない時間でアピールを続けていた戸島・常田がベンチ外(怪我?)になった。

前節の監督コメントでポイントとしてあげていたのは阪野の起用法と本間対策、ライン設定。このあたりが注目された。

対して、新潟は基本形は流動的になっている右サイド・右CBのみ変更し、ベンチ含めていつも通りのメンバーで臨む。

■用意してきた対新潟プラン

・新潟の良さを消す手段は主に3つ

"持って守備の穴を探す新潟"と"穴を空けないように守りつつ、一刺しを狙う山雅"という構図で試合が進むことは戦前の指揮官のコメントからも予想されていたが、その予想以上にがっつりと「対新潟シフト」を敷いてくる

3連戦の最終節かつアウェイ戦ということでリソース的に厳しい中で、まるでどこかから新潟専用に分析官を雇ったのかと思えるほど、分析→対策→落とし込みまでスムーズに行えており、これまでの「全面的に自分たちの良さを出す」ことが先行した戦い方ではなく、「相手の良さを消すことで自分たちの良さを出す」戦いを徹底する。

対策のために特にいじってきた点はα.阪野の露骨に左を消すポジショニング、β.大野の右WB、γ.圧縮のためのハイラインの3つ。

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(α)、右の阪野が左CB千葉を常にけん制しながら堀米のコースも限定。その分、左はプレスをかけないで中に絞っていたため、(山雅から見て)右はいつもの523プレス風(ただし河合は中にいるので実際は532)。左は3142のようなプレスのかけ方となっていた。
この時に左WB外山は右SB藤原に積極的にプレスに行けるのに対して、逆の右サイドでは常時本間に意識があったため、スライドも簡単ではなかった。しかし、その状況でも大野が堀米のところまでアタックできていたのは阪野が最短距離を常に消して、時間を作れていたのは大きかった(ここは後述)。

(β)大野、右は対人の強いタイプを置いてくるのは多くの予想で入っていたものの大野の右WB、そして右の星のCB起用というかなり大胆な策を取る。

我々の中で一番1対1に強く、身体能力の高い大野をマッチアップさせるようにしました。(星)キョーワァンとセットで、2人の身体能力で抑えてくれればと思っていました。

とCBとしての身体の強さだけではなく、逆を取られても無理が効く身体能力の高い2人を並べた。2人とも保持に課題は残しながらも守備面でそれぞれこの試合では欠かせないピースとして貢献した。

(γ)のハイラインはまさに橋内の真骨頂。村山はボックス外に積極的に出ていき、裏のスペースをケアするタイプのGKではないので、中央の橋内の守備範囲は際立った。もちろんこれだけリスクを取ると、ミスをしたら即失点ものの綱渡り状態。運や数秒の差異で勝負が分かれるような場面もあったが、結局1度もゴールを許すことなく、逆に裏一辺倒にさせるまで粘り切ったのは大きくプラスに働いた

・配置で左サイド3人を消した大野・阪野

しかし、新潟の組み立てが微妙だったか?と言われるとそういうわけでもなく、山雅の新潟シフトにも動じることなく、いつも通り出し入れをしながら守備ブロックを崩しにかかる。

まず新潟が狙ったのは組み立てで一番の障害になっていた(α)の阪野外し。先ほども書いたように千葉は阪野に消され、堀米への最短距離の展開も遮断されているのでそこを避けて逆サイドへの展開を狙う。

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まず理想は①DH経由の展開だが、序盤から前・佐藤・河合の3枚が中盤の3枚を徹底監視。特に前と佐藤はポジション変更も柔軟にできるのでうまく立ち位置を入れ替えながら潰し切ることができていた。本来であればここをもう少しうまく使えると攻撃にも幅ができて好ましいのだが、ここでDHが潰されると前線には阪野・横山が残っており、数的不利にもなりかねないので前節の大宮の反省もあったのかここにはリスクをかけなかった

次に狙うのは②のGK経由のルート。たまに横山がGK狙いでつられてしまうことがあったりと一定の効果はあったのだが、②のルートでは戻ってくる阪野に対応されて剥がし切れず。

それでは、と堀米が高い位置を取って②´のルートを狙うこともあったが、そこは本来WBの守備範囲内。大野が柔軟に対応してSBにも高い位置は取らせなかった。

・まずは山雅のラインを下げることに

山雅のハイプレスもあり、なかなか右サイドを攻略できない新潟は次第に(γ)のハイラインを下げるために裏へのボールを狙うようになっていく。これに対しては対策というよりも橋内を中心にした3バックと相手のアタッカー陣の駆け引き勝負で対応。

まず何より3人のラインコントロールが巧みだった。中継の関係で最終ラインを常に見ることは不可能だったが、ラインの上げ下げのミスはほぼなく、試合を通して6つのオフサイドを取った。強いて言うならば星・下川・橋内と爆速DFラインを揃えて、何とか追いつけるようにしたのがせめてもの対策だろう。久々の先発となった星には厳しい声も多いが、この中では一番経験の浅い選手。よくやってくれたと思う。

・形を変える新潟にも新たな問題が……

一発で裏を取れない新潟は、(γ)サイドの裏に起点を作れるようにする、(β)大野の本間マンマーク外しを兼ねて、CF谷口とSH本間のポジションを変更。本間はボールサイドに自由に顔を出すフリーマン、谷口はサイド裏での起点づくりを目指す。

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これによってあらかじめ本間にマークを突かれることは無くなったが違う問題が。左で谷口が起点になるのは良いが、普段は仕留め役となる谷口がサイドに流れることで、いつもの仕留め役・谷口の位置にいるのが本間や高木になってしまうという逆転現象が発生。チャンスを作れるようになってもシュートまでなかなか行けなかったり、フリーマンの本間と他の選手の使いたいスペースが被ってチャンスを潰してしまったりと不慣れ感は否めず。HTまでシュート1本と新潟としては難しい前半となった。

対して山雅は6本のシュートを記録。横山を先頭に置くことでここ数試合で継続してきた、”横山がDFラインを引っぱり、そのスペースを他の選手が使う攻撃”をこの試合でもそのままシフトしてこれた。無得点に終わっているのでそれほど楽観できるものではないが、最前線の選手の役割が整理され、攻撃のスタート位置が高くなる(=いい守備ができる)ことで手数をかけず、シュートまで持ち込めたのはいい傾向だったと思う。

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■後半に見えた誤算と刺し切れない課題

・予想とは違った国友ベンチスタートの意図

こうして山雅はHTで2枚を交代。
効果的な動きを多くできていた横山と保持時に問題を抱えていた星→鈴木と野々村へと選手変更。前者はあらかじめ決められていた交代とは思うが、後者は後ろからの繋ぎもしっかりとしていきたいという指揮官の意図は伝わった。CB同士の交代はリスクは付きものというのが一般的だが、前半の裏対応のスピードに優れた星から、周りが疲れてくる後半に足元もうまい野々村というリレーは効果的だった。

しかし、その配置は予想に反し、攻撃のためにベンチに置いていたと思われた鈴木は阪野のように左消しの配置から入ることに。前半の流れからも分かるように阪野の位置は守備での負担が大きく、逆に横山の位置(CF)がショートカウンターからの一発が狙えるポジションだったので、1刺しを狙うなら元気な鈴木が頂点の方が良かった気がする

もしかすると"後半の1刺しのために鈴木をベンチに置いた"という前提自体が微妙に違っており、<先発時>右シャドーの先発にカバーシャドウのうまい阪野を使いたかった<HT後>少しでもフレッシュな選手を置きたくて右シャドーに鈴木を置いた、というように"あくまでプレス強度を考えてのスタメン&鈴木ベンチ起用"だった可能性は高い

結局、後に鈴木のポジションを変更させたのも右サイドの守備先行で考えていたというのを裏付けているように感じる。

・否定的にはなれないが、刺し切るには……

そして、後半は保持の時間も増やしながら、変わって入った野々村や鈴木が存在感を出しながらゲームを進める。

後半もコンパクトを保ち続け、相手に慣れないロングボールを蹴らせ続けたことで第3Qまではゲームを優位に進めた。終盤になると前線3枚の動きもさすがに鈍くなり、攻勢をかける新潟に押し込まれることもあったが、5バックと2DHがゴール前でスペースを与えることなく、最後まで集中を切らさず。

新潟も山雅も刺しに行きたい一方、まだスコアレスで逆に刺される危険性もあったのでベンチの動きもあまり活発ではなく、シュート数も残り15分は両チーム通じて山雅の1本のみとあまり増えなかった

勝ち点とゲーム内容を考えると勝たなければいけなかったのは山雅側ということもあり、素晴らしい試合の中で少しもどかしさも残ったのもこちら側だったように思う

山雅側の残るカードは表原・小手川・浜崎、そして終盤に入れた田中パウロ。柴田山雅での出場時間はそう多くない選手たちと、発言と裏腹に采配は慎重派の柴田監督なので、カードを切りたくても切れなかったというのは伝わってくる。

まだ3分の2ほど残るシーズンの中で、ここをリスクをかける場所としなかったのも半分は理解はできるが、ここから上を目指していくためには少しだけリスキーにでも勝ち点を取れる確率をあげていく必要はでてきそうだ。

■「守備的」という言葉の難しさ

さらにこの試合では試合終了後にも少し気になるトピックスが。

山雅さんはコンパクトで守備的に戦ってきましたが、われわれはチャンスを作れていたと思います。ただ今日は残念ながら、ネットを揺らすことをボールがイヤがっていたような試合でした。相手を上回るプレーがチーム全体としてできていないのであれば心配しなければいけませんが、今日は1試合通じて相手を明確に上回るプレーをチームは表現していたので、引き分けですがまったく心配していません。

(Jリーグ公式から抜粋したので)だいぶ端折られてはいるがこのようにコメントし、実況者はこれに同調。

「守備的ということで言いますと、下位チームは新潟相手にこのように守備的に戦ってくるということは考えられますよね」

と「守備的」というワードを取り上げて話を進めていたが、DAZN解説の梅山さんはこれに対して

今日の松本が守備的だったかと言うとちょっとどうかなとは思います。確かに5バックですし……4バックでも引いて守るということはありますけども5バック=守備的かって言われると、今日の松本はしっかりと中盤からプレッシャーをかけて早い攻撃もあったので……そこはどうかなと思いますけども。

と違った見解を残してくれた。

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監督の正確な意図は分からないし、監督の発した"守備的"と実況が同調した"守備的"に微妙なニュアンスのずれはあった気がするが、実況者の「下位チームが守備的な戦いをしてきて崩せなかった」と山雅側からするとややネガティブに受け取られるような発言の中で、梅山解説員のこの一言はかなり救われたような気持ちになれたのでまずはありがたく感じる笑

もちろん、今日の山雅は守備から逆算して戦術を組んでいたのは監督コメントからしても明らかである。その人の持つ哲学によってはそこを基準に攻撃的・守備的と言っている人もいるのでそういう意味では守備的と言っていいかもしれない。

ただし、今日の山雅が"負けないための戦い"をしていたかと言われるとそういうわけではなく、「リスク」という面では普段以上にかけながら勇気を持ってプレーしていた。相手を押し込むことも(スタッツ的に)明らかに山雅の方が上回っていたので、非保持≠守備的という哲学の下ではかなり攻撃的に戦えた部類だったのではないか。積極的か消極的かという意味でも間違いなく、この試合の山雅は"攻撃的な"メンタリティは見せている。

自分もこの日の山雅は守備的とは思わなかった派だが、これはあくまで哲学の違い。それぞれのスタンス、サッカー観について改めて考えさせられる。こんないつもは流してしまうような試合後のやり取りの中でもそれぞれのサッカー観が垣間見えた、この試合の隠れた名シーンだった。

■大切なのはこの勢いを継続していくこと

さて、話はズレたが……最初にも話したように「勝ち点1でOK」と素直に言えない部分はあれど、試合は優勢に進めることができ、選手・サポから「勝たなければいけない試合」「互角以上にやれた」というのが多く聞かれるほどチーム状況は好転している。

ただ、基本的に「引き分けの評価は次の試合次第」だと思っているのでこの試合の評価も金沢戦の結果次第でも違ってくる。3連勝の勢いを次につなげることができたのか?勢いは止まってしまったのか……?大切なことはこの勢い、この勝ち点ペースをできるだけ保つことである

そんな次の相手・金沢は4戦勝ち無しの3連敗中と、序盤の快進撃からやや曇りが見える状況。新潟戦とはスタイルもチーム状況も全く違うタイプの相手になるが、ここで奢ることなく、しっかりと対策と落とし込みを続けることで愚直に1つずつでも上を目指していきたい。

END

(写真は松本山雅公式より。データはfootball labより)

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