長野戦レビュー~屈辱の連敗~
<両チームスタメン>
・松本山雅
スタメンは3名変更。
GKと4バックは天皇杯から変わらず。
ここまで主力として活躍してきた下川・藤谷が共に欠場。
ボランチには米原に代わってパウリーニョが先発に。
FWはトップ下に国友が入り、左に菊井がスライド。
ベンチには負傷離脱中だった宮部、渡邉が復帰した。
・長野パルセイロ
天皇杯ではGK以外の10名変更していた長野はメンバーを7名を変更。選手を入れ替えつつ、この試合にベストメンバーを合わせてきた。
GKは金。
CBは総替えして池ヶ谷、秋山、佐古。
WBも左右替え、右は船橋と左はCBだった杉井に。
アンカーも西村から宮阪に。
IHは天皇杯でも躍動した三田・佐藤。
トップ下は先制点を決めた近藤。
CFには山中に代わって進が入った。
前回のレビューの最後にも書いたが、天皇杯では欠場していた宮阪が入ることでポイントであるセットプレーの脅威は格段に増している。
<記録>
・ゴール(16)
7:小松
3:菊井
2:村越
1:パウリーニョ、鈴木、榎本、山本
・アシスト(9)
2:下川、山本
1:小松、鈴木、野々村、榎本、菊井
・警告(13)
3:菊井、野々村
2:山本
1:パウリーニョ、小松、住田、榎本(、武石C)
<戦評>
■2ndレグで生まれた違い
・修正策と新たな穴
中5日を挟んで天皇杯で戦ったばかりの両者。
結果を見ると110分では1-1で引き分けだったものの、リーグで出番の少ない選手が中心だった長野相手に内容面では完敗。PK以前の問題が数多く起きていたため、より改善が必要だったのは山雅側というのは天皇杯の試合内容からも明らかだった。
そこでまず霜田山雅が施してきた修正は原点であるプレッシング。
天皇杯では村越が高めに位置し、その分は滝がバランスを取ることで、前線は3トップ後ろは3バックのようなプレッシングとなっていたが、それと同時に3トップはアンカーを捕まえるのも役割として担っており、実質的には3トップで3CBを見つつ、アンカーのスペースも消すような形になっていた。そこでこの試合ではやり方と共にボランチの人選も変更。長野のアンカー(宮阪)には基本的にはボランチの1枚(主に安東)が出ていき、これまでのリーグ戦通り、人に対して人を当てる形に戻す。
だが、長野もこのパターンは予習済み。
山雅がこうして前から来るときの裏返し方もあらかじめ整理されており、スピードのある進・近藤がハイラインの裏を狙い、佐藤・三田がそのセカンドボールを拾うという役割分担・選手起用がなされていた。
これに対し、チームのセオリー通り、常田、野々村もハイラインを維持しようとはしていたが、一発で裏を抜かれるわけにはいかない心理とボランチが前に出て行って数的不利が起こる分、数的不利になる後ろのケアに苦戦していた。
ざっくりと言えば中途半端に間延びしていた形で前が出て行くなら後ろもその分ついていかなければいけないが、裏を一発で抜かれるのはCBの責任になりかねない。もちろん裏を抜かれない、抜かれても防ぐのが1番だが、そうはいってもハイライン崩しを狙うチームにはこの上ない絶好の狙いどころとなるのも現実。
チームとしてそれを背負っていくのか、背負っていくならばそれ以上に得点を取る準備ができているのか?……ビックゲームになればなるほどチーム全体の意思統一がなされているかは細部に出てくる。
・研究されたビルドアップ
一応、山雅側もこの勇気あるハイプレスで何度かはチャンスを迎えることはできていたが、決定機までは至らず。逆に相手にひっくり返されて自陣深い位置からのスタートを余儀なくされるシーンが増えていくことに。
長野はプレッシングからゲームを作っていくチームである一方、山雅はビルドアップから試合を組み立てるチームではないので、この構図になると天皇杯同様に抜け出せない時間が続いていく。特に32分の長野の先制点後はより相手に持たせる余裕もできてくるため、余計にこれが顕著になっていく。
⇧上図のように守備では長野ががっちりと噛み合う形。
長野の前線4人が山雅の2-2のビルドアップとSBを監視。
山雅の3トップに対しても5バックで対応してきており、下りてくる前線に対しても最終ラインが着いてきてかなり強気に潰しにくるような準備が敷かれていた。そうなると出し手も迂闊にボールを入れられないのでどうしても消極的な出し入れが続く。
その結果として、やることがはっきりしていて潰す気満々の長野と試行錯誤しながらボールを回す松本で「気持ちの差がある」ように取られてしまったその理由の1つだったように思う。
・打開策は……
この状況からビルドアップを続けていくための打開策は「質を上げる」or「量を増やす」の大きく2つ。
ここでいう「質」には"パススピード"や"ポジショニング"なども含まれるが、これは一朝一夕ではうまくいかない。強いて言えば普段出さないような際どいパスコースを狙ってみるのはこの試合でももっとできたかもしれないが、やはりどの選手も基本的には監視下に置かれていたので成功率は高くはない。実際に試合中もチャレンジはあっても相手のカウンターに繋がってしまうことも多かった。
より確実(=無理せずに済む)なのは「量」を増やすこと。
前線の菊井や国友が下りてきてボール回しをする選手の「量」増やすことも試合中に行っていてボール回し自体は安定した。一方、打開策というまでには至らず。基本的にこの流れは"仕組み"の中に組み込まれていないはずなので、前線の選手が苦し紛れに助けに行っても全体が連動するわけでもなく(例えばWBがその分高い位置を取るなど)、打開策としてはあまり適していなかったように感じる。
もう1つ、理想かつ現代的な「量」の増やし方で言うと、ボール回しに"GKを交える"という手も。奪われたら即失点のピンチとなり、リスクは上がるがその分選手は押し出されて相手の監視は難しくなる。
山雅にとってはさらに新たな境地へのチャレンジだが、PSMの神戸戦ではその片鱗も見えていた。勝ち点を失う危険性も伴うが、このスタイルをする上ではゆくゆくは通らなければいけない道のように感じる。
ただし、
そもそもを言うと、霜田山雅は「何としても繋ぐ」というスタイルではなければそもそもポゼッション型のチームではない。『相手が前から圧力をかけてくるならばそれを裏返す動きも入れていくべきだし、例え裏に入れたボールが繋がらなくてもまた高い位置から圧力をかけていく』というのが本来の目指すべき姿なはず。
長野のCB陣に目を移しても、全員193cm185cm183cmと身長の通り高さには滅法強く、ただロングボールを入れても弾かれる可能性が高い。それどころかカウンターを喰らいかねないが裏に抜けきればチャンスはある。相手を裏返す(まずは裏を狙う)ための試作をもう少し増やしても良かったかもしれない。
■完敗
・勝負に出るも致命的な2失点目に…
このように序盤を除いて、劣勢の時間が続いていきながらも試合は1点差のまま後半も時間が過ぎる。
その点は敵将が
と話しているように、守備陣の健闘もあり、内容でいくら圧倒されているといえど「1点差ならば勝負は分からない」という状態だった。"交代で入ったフレッシュな選手が流れを変えて、ラストに向けてスパートをかけることで、それまでのゲームとは全く違う結末を迎える……"なんて流れもよくあるものだが、この日はその後の展開も山雅の思うように転がらない。
59分には3枚替えで米原と負傷明けの宮部、渡邉を投入。
特に右SBの宮部は積極的に突破を見せるなどそれまでとの違いを見せたものの、単発で終わることが多く、全体が活性化したとは言えず。フレッシュな選手を投入することによって先ほど書いた「質」を上げる最大のチャンスだったが、3枚替えに見合った変化は見せられなかった。
さらに78分には龍平に代えてWGが本職の村越を投入。
昨年青森でSBでもプレーしていたが霜田山雅ではオプション中のオプション。1点ビハインドの中で明確なメッセージを感じるような攻撃的な交代策だった。
が、そのメッセージある交代も裏目に出ることに。
山雅は前からフレッシュな渡邉・國分らがプレッシャーをかけに行くも秋山が蹴ったラフなボールは常田と山本(大)が競り、中盤のスペースに。これを安東が拾いに行くも前半と同じようにボランチ1枚に対して長野は2枚。しかも投入されたばかりの森川の素早い出足が勝り、そのまま自陣に運ばれてしまう。
1つ1つを振り返っていくと、安東や野々村のところで相手を潰し切りたいし、小松や菊井ももう少し寄せておかなければいけない場面でもあるが、ちょうど全体が前がかりになっていた場面で、連戦中のこの時間なので、個々を責めるのは少し酷と思える部分もある。
いずれにしろ、チーム全体のこうしたズレが重なりに重なり、最終的には宮部と森川・杉井で1対2の数的不利に。
ポケットに侵入した杉井に森川が絶妙なボールを送り、ほぼフリーの状態でクロスをあげるのに合わせて、中では近藤が常田を引き連れて山本(大)と村越のマッチアップを作る。そして、あとは山本(大)が合わせるだけという確率を求める山雅側のお株を奪うような攻撃を完結。
リスク承知で村越をSBに投入した山雅だが、わずか1分程度でこのような酷なシチュエーションを作られてしまい、反撃の出鼻をくじかれることとなる。
・不本意のパワープレー
この時間まで最少失点差を維持してきた山雅にとっては致命的な追加点。
ずっと自分たちのやり方を貫こうとしてきた山雅だが、2点のビハインドになったことで「なかなかやっていないパワープレー(ヤマガプレミアム 監督コメントより)」も行うことになる。
ここまで積み上げてきたものを一度放ってでも、理想とは異なる一矢報いるための策を選んだことに霜田監督なりの決意を感じた。
だが、やはりピッチでは相手以上に味方の混乱は生じていたようで、パワープレーでCBを上げても狙いどころが明確に設定されておらず、セカンドボールを拾うための圧縮も中途半端でコメント通り"なかなかやっていない"のも理解できるカオスな形となってしまう。
GKのミスから生まれた得点で何とか1点差に追いついたので全くの無駄だったとは言えないが時すでに遅し。屈辱的なダービー連敗となってしまう。
という監督コメントが示すように、細かい修正は施しながらも"互いのストロングをぶつけ合おうとする山雅"と"その山雅の良さを消すことで自分たちのストロングを出そうとする長野"という構図は変わることなく、リーグ戦でも「自分たちの設計図通りのサッカー」こそ出せずとも大まかなスタンスはギリギリまで貫いた格好となった。
■この道を正解に
いくら自分たちのサッカーを完成に近づけるためと言えど、ダービーでの敗戦はあまりにも重い。さらに結果・内容面でもいいとこ無しとなると尚のことだろう。そこについては蔑ろにしていいとは思えない。
その一方で、霜田監督の設計図を追い求める上でまだ10節にも関わらず、やり方を曲げてしまう、"自分たちのやっていることは間違いではない"という意識付けをしている段階で"ダービーで勝つために全く違うやり方をしてしまう"というのはここまでの積み上げを無駄にしてしまうリスクもある。
楽観的ではあるが、もしも仮に内容面でボロボロだったとしても首位争いをする長野に対して、自分たちの思い描くやり方を貫いて勝てたとしたら得るモノは計り知れなかったはずだし、逆に"対長野"のために違う戦い方を準備して勝利をモノにしたとしても、チームの「最適解」がぼやけて設計図を完成させる上ではマイナスに作用したかもしれない。
結果論でしか語れないこともあるが、諸々の想像を膨らませ、メリット・デメリットを整理することで納得できることはある。
それでも今回のダービーでの戦い方には賛否が起こるだろう。それはむしろ自然であり、健全なことだと感じる。
しかし、こうして1つ1つ起きたことを整理しつつ、やろうとしてること・できなかったことを議論していくことで、チームもサポーターも成長していくし、それはクラブ全体の成長となる。そして、1つの勝利、1つの敗戦について意見は分かれてもみんなが全くバラバラの方を向いているということは無くなるのではないか。
そして、重い重い授業料を払っているこのクラブが、最終的にこの敗戦を糧にしていくにはこれから進んでいく道を正解にしていくことしかない。例えば、この敗戦を経てシーズン終了時に優勝を果たせたならばいくらか取り戻せるプライドもあるだろう。
話を戻るが、そのためには今シーズンの最初に掲げた「設計図の完成=自ずと昇格も見えてくる」という方針を続けていくこと。それが正解かは誰にも分からないが今年はそこに向けて歩んでいる。数字的にもまだ達成するのを諦める段階ではない。
この2週間で自分たちのやりたいこと・方針の見直しを行い、軌道修正をしつつ、成績面でも上位に喰らいついたまま前半戦を折り返したい。
この敗戦を受けてチームにどのような変化・成長が起こるのか。
1週間後を楽しみに待ちたい。
END
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