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山形戦レビュー~前半戦からの進化×進化~

アルウィンでの劇的な勝利から1週間。名波体制3試合目となった今節。
後半戦の1試合目でもあったこの試合は敵地で上位、かつ8戦負け無しを続けている好調・モンテディオ山形との対戦(いきなりA琉球やら5連勝中の東京Vやらなんなんでしょうか)。

前半戦での対戦は第3節。あの頃は柴田監督と石丸監督で、元反町さんの側近対決などと言われていたが、その後どちらも低迷。この頃はまさか4か月後には「クラモフスキー監督・川井コーチの山形」と「名波監督&三浦コーチの山雅」の対戦になっているとは夢にも思わなかった。妄想でも口にしている人は誰一人いなかっただろう。

だが、違いとしては就任のタイミングで2カ月の差がある。監督交代に踏み切れば必ずしも浮上できるかというとそれはまた別の話だが、交代をきっかけに浮上に成功したと言える山形と比べると順位でも完成度でも差がついている。

この試合では戦前から、完成度の高い山形に対してまだチームの形を模索中の山雅がどのように対抗策をぶつけるか?という構図になることが予想され、案の定そのような試合展開になったがその中で多くの戦術のぶつかり合い、前半戦との成長を互いに見せるシーンが多く見られたのではないか。

結果は0-1で敗戦となったが、チームや個々の現在地を確かめる意味ではヴェルディに続いて良い相手、前に進める試合になったと思う。今回は山形の柔軟なシステム、そしてそれに対する山雅の対抗策を中心にまとめていきたいと思う。

<勝手にチームMVP>

MVP:宮部大己
名波体制の3試合で最大の発見。前節に引き続きこの試合でも対人能力の高さ、これまでにはなかなか見られなかった右CBからの効果的な攻め上がりを見せる。これまで山雅ではあえて使ってこなかったが役割としては世界的にも主流になっているHVに近い。

次点:田中パウロ淳一
敵味方ともに大きなインパクトを与えた田中パウロを次点に。相手の疲労があったとはいえ、"ドリブルの選択肢が分かっていても止められない"というのはまさにドリブラー。右SBでストッパーとなれる選手がいなかった山形を困らせていた。

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<寸評>

■進化した藤田息吹との再会

山形の地までバスで長距離移動を強いられた今節。スタメンは1試合目、2試合目では全く異なる構成となったので、サプライズ起用も含めて注目されていたが、松本のスタメン変更は1人のみ(表原→下川)。ベンチには浜崎・平川が復帰した。システムも含めて前節の良い流れを継続する狙いはあっただろう。

対して山形は好調を支えた南の代わりに前節欠場の藤田が復帰。そのままボランチのポジションに入る。前半戦は怪我のため欠場していたため、山雅からの移籍後初対戦となった。改めて言うまでもないということも多いと思うが、山形では従来のボール奪取能力・スペース管理能力に加えて攻撃面でも能力を発揮。15試合3ゴールと目に見えた数字だけではなく、シュート数も劇的に多くなっており、攻撃の意識自体が向上したことが分かる。

高い技術を持つアタッカー陣だけではなく、この藤田の持ち味を古巣・山雅がいかに封じるかが大きなポイントとなった

■はっきりとしていた抑えどころ

・最重要は偽SB封じ

試合が始まってみるとボールを握る山形に対して、いつも以上にコンパクトな陣形を意識し、奪還からのカウンターを狙う山雅という東京V戦以上にはっきりとした構図になる。

恐らく、最もやらせたくない形は個々が分断され、1つ1つ剥がされて前進される形。今シーズンの序盤は一生懸命プレスに行く前線の裏のスペースを使われ、相手に多くの選択肢を持たれることが多かったので偽SBを交えたような戦術を使われると中の人数が足りないというケースも多かった⇩

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(挟めない上に選択肢も多い)

しかし、東京V戦、山形戦では3412を採用し、相手のアンカー役をトップ下の選手が消す代わりに、2トップが幅を取り、相手の幅のある繋ぎにも対応。
最終ラインが2枚の時は2トップがそのまま、3枚になっても左右のCBには2トップがついてるので、中央のCBがよほどドリブルで前進してきたり、ロングフィードを飛ばしまくるタイプでなければ対応が可能に。プレス距離はかなり改善される⇩

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(中央CBが持ち上がってくると、相手のリスクもでかいが2トップが中を閉めなければいけなくなる)

また、中央では優位性を失わないように常に意識し、相手が中央に侵入してきたり、1人がブロックを外れても同数は保てるような守備陣形を取ることで大きな混乱は起こされなかった⇩

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特に意識して消していたのは偽SBとしても存在感を示していた右の「半田陸の侵入」。好調・山形の1つの得意パターンとなっていたこの形を何としても潰そうとそれに対して効果的な戦術を取れたのは山形を苦しめた大きな要因となったはず⇩

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先ほど書いたようにこの試合では、仮に偽SBのポジションを取ってきても数的不利に陥らないような陣形をあらかじめ敷いている。前方から潰しに来るボランチに加えて、FWもプレスバックで潰せるようなポジションを取っていたことで、複数で挟みこめるような仕組みになっており、たとえSBが中に侵入してきてもその先で蓋をする守備を意識する。

・山形の柔軟性とそれを許容する山雅

ただ山形も形にこだわらない。偽SBの形を取るのではなく、東京Vと同様にSBをそのままサイドに置き、起点に。高い位置で幅を取るSHとともに前進を試みる。

追いつける範囲でFWがSBの前進を阻止していたが、右は特に後ろ5枚のスライドでSBにはWBが、SHには左右CBが対応することが多かった(※左の外山は前節同様ステイ気味)。

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横スライドの意識が高くなったことで以前よりもCB同士の距離が(いい意味で)広まっており、守備範囲は広くなっている。これまでだったらWBが裏を取られたらほぼ独走状態だったのがCBが迷いなく相手のサイドにいけるようになったのは1つの改善ではないか。宮部・常田ともに地上戦でも粘り強く対応していた。

相手が背後、背後と意識してくる中では、昼間に雨が降った影響も含めてスリッピーなピッチで背後のボールの質がなかなか難しいというシチュエーションを作れました。

このように公式の名波監督のコメントからも天候まで加味してこの長いボールを使わせる攻め方は確率が低いと割り切り、ある程度許容しているようにも思う。ボールが流れることでその後の即時奪回も発動しにくいシチュエーションになるので結局山雅ボールになることが多くなっていた。

・順調な守備を乱す”2人の異質”

さらに山形側がサイドに選手を配置し、幅を取ることによるデメリットもある。味方との選手間の距離が広がることでポジションチェンジは限られ、自分のマークで混乱を引き起こされることは少なくなる。自分と対峙する相手はほぼ決まっており、特徴も頭に入っていたはずなのでサイドで持たれて勝負される場面こそあれど致命的なエラーはなかなか出にくい状況になっていた。

このまま確率の低い攻撃をさせておけば「前半はOK」という感じだったが……それでは終わらないのが今の山形。異質の存在感を示していた藤田の運動量と山田康のボールを受ける技術で違いを生み出していく。

例えば藤田は時にはサイド攻撃の経由地として網のかからないエリアに顔を出してきて、スルーパスを出したり⇩

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3人目の動きで裏のスペースに顔を出し、ビルドアップの抜け道となったり⇩

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特にお手上げ状態だったのは藤田が裏のスペースに抜け出してきた2枚目のようなシーン。これを作られた時には現に誰も付いていく事ができず、フリーでクロスをあげられていた。そこからもう1アイディア加えて崩すことができればさらなる危機に陥っていたと思うが、彼自身まだまだ成長途上。これまでのチームでは経験してこなかったようなプレーを重ねていけばここからさらに良くなりそうな予感はする。

■以前残る課題と光明

・カウンターを狙いたくなる即時奪回の沼

このように異質の存在でピンチを迎えるシーンはあれど、守備ではある程度手ごたえを掴んでいたはず。カウンターでもいくつかいい形を作ることができていたが、違ったフェーズで問題が発生。消耗が見え始めた時間あたりからトラジション時(奪った直後)に山形の即時奪回沼にハマる。

山雅側の単純な精度の問題もあったが、藤田を中心に前に奪いに行くことに躊躇がないので前線のネガトラ時の意識がとにかく高かった。その前線のプレスを超えることができれば後ろは手薄になっている……とつい急ぎがちになるのも理解できるが、今の山雅に独力で時間を作れるようなピースは例年よりはやや不足しており、相手のCBに対応されてしまうことが多かった。

このあたりの意識変革の必要性は名波監督も具体的に触れており、その解決策も提示できそうではあったので、中断前に山形と戦い、反省点を炙りだせたことでこの先の落とし込みがしやすくなるとポジティブに捉えていきたい。

・この試合の最大の見せ場

ただ、自陣とは違い、敵陣でのトラジション(奪った直後)時は徐々に良くなってきていると感じるシーンも。この試合で最も良い形を作れたと感じるのはそのボール奪取からの前半の43分40秒。この前半残りわずかという良い時間帯ではあったのでここでうまいこと先制できていれば……と思う攻撃ができた。

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スローインでボールを受けた加藤に対し、宮部が粘りのプレス。前と2人がかりでボールを奪い、そこに國分がすごい勢いでフォローに来たが、それも巧みにパスで交わし、河合へ。そこから河合がドリブルで1人を引き付け、絶好のタイミングで鈴木に預けて、ほぼドフリーでボックス内でシュートまで持ち込めた形。

何と言っても大きかったのは最初の宮部。良い奪い方ができると目の前の相手を置き去りにできるとはよく言うが、その次のプレーで河合に付いていた國分も交わすことに成功。素早い縦への攻撃で局面局面で数的優位性を持ち続け、FWまで続けることができた。

これまでは数的不利な中でFWが質的優位を作ってなんとかシュートまで持っていくというシーンが多く、極端なことを言うと今シーズン、FWはほとんどその状態での戦いだったと言っても過言ではない。これだとなかなかFWは得点数を伸ばすのは難しい。こうした「良い奪取から近くにいる味方に繋ぎ、相手の陣形が揃う前に縦に入れ、FWに良い形で勝負させる」形。今できる範囲での1つの理想形なのかもしれない。

■サイドを切り裂く猛獣と猛獣使いの登場

同点で迎えた後半はゲームメイカー的な役割も求められているトップ下のポジションを小手川に変更。これまで中心でやってきた河合を前半で下げるという大胆な策に出る。

これまでなかなか多くの出番を与えられていなかった小手川だが、名波監督就任後から13分→19分→45分と出場機会を伸ばしつつある。河合が明らかに重労働気味だったのは前半戦の問題としてあったので、2人の途中交代、共存など様々な可能性が広がりそうな45分間であった。

だが、しかし、後半ド派手な爪痕を残したといえるのは田中パウロ。左サイドに入ると果敢にドリブルを仕掛け、何度もクロスを供給。長距離移動のせいか、高い湿度のせいか、はたまた前半の繰り返しのロストが響いてか、山雅はいつもより周りの動きは重く、フォローも遅い状態。そして、動きが重くなっていたのは山形側も同様だったので攻撃はしつこいまでにパウロの左サイドに。ほぼ完勝状態でドリブルを繰り返し敵陣の左サイドを切り裂いた。

これまで先発起用はなく、ごくわずかの"時間限定起用"が多かったパウロ。この試合でも相手の中原-半田ラインが疲弊していたことなど、彼を出せる条件が揃っていたため、持ち味が出やすいシチュエーションではあったが、それでもこれだけシンプルに1VS1勝負に勝てるのはありがたい

そして、復帰の平川も彼を使うためにゲームを操っていたのは見逃せない。元々技術やゲームメイクは世代のトップを走っていた選手なので、今日のような展開ではほぼノーミス、かつスムーズにボールを運ぶのは容易かったように思う。後は身体を戻して、タフに戦えることができるかどうかに掛かっているが、彼もまた名波監督に交代したことによる恩恵を受けられそうな1人。さらなる進化を期待したいところ。

前節に引き続いて交代選手たちの躍動、星をあげてのパワープレーもあり、あと一歩のところまで山形を追い詰めるところまで行くも及ばず。途中から出た選手たちは良い働きを見せただけに、欲をいえばあとは目に見えた数字を残せるかどうかも追求していきたい。

今までは殴られっぱなしのまま試合が終わってしまっていたので、今までにはなかったことです。これを初めからもっと自分たちが押し込んでやれたらもっと点も取れるし自分たちのリズムで90分間サッカーをできると思います(下川)

こういうコメントが選手から出たのもただの強がりではないように感じるサポも多いことだろう。

■選手の今後を左右する水戸戦

悔しい敗戦から1週間、今週の相手は水戸。中断前最後の試合となる。
名波監督就任時に(個人的に)最低目標としていた「降格圏回避で中断期間に突入」することは今節でクリアすることができたので、ひとまず最悪の雰囲気とプレッシャーの中で中断期間に入る可能性は少なくなった。が、それでも3積み上げられるか?0になるか?は言うまでもなく大きい。下手な話、この1戦の出来によって補強(加入)の本気度も変わってきかねない。

つまり、選手個人に着目してもここが分岐点になる可能性はそこそこある。先日、山雅の補強事情にも触れたように一筋縄ではいかない状況になっていることは明白で、決断はギリギリまで見極めて行うはず。誰を出すのか、どこを補強するのか、最終決定を下すことになるという選手編成的にも重要な1戦になるだろう。

あまり実感が沸かないが、場合によっては「山雅でのラストマッチ」になる選手もいるかもしれない。移籍については何も分からない状態で悲観的にさせるつもりはないし、自身でもまだ何も決まってないという選手もいるだろうが、見守るサポとしては最後まで悔いがないように、いつも以上に選手たちの勇姿を目に焼き付けて、いい区切りとなる1戦にしたい。

END



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