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秋田戦レビュー~この追い風を味方に~

第6節にして待ちに待った待望の初勝利。
さらに5試合で1得点だったところから複数得点もゲットして、喉から手が出るほど欲しかった勝ち点3をゲット。私事ながら「前節きつかったのも少しは報われた」と先週の想いが成仏されたような気分になれた。

あまりにも勝ち点を積めてなかったので「とにかく勝って前に進むこと」をレビューでも求めてきたので、今日の勝ち点3は言うことなし!レビューで戦術について四の五の言うのもなし!といきたいところだが、順位はまだまだ降格圏。少し遅れてスタートラインにたてたに過ぎない。

この試合では、前半でいい形を作って後味の悪い終わり方をした水戸戦とは対照的に、後半に相手を畳みかけ、気持ちよく終われたことでいい記憶ばかり残りがちだが、決していいことばかりではなかった。試合展開も外的要因が良くも悪くも大きく影響したので(適応した選手・監督は見事だったが)褒めてばかりはいられない。

組織力・チャンスメイクでは秋田の方が上回っていたという現実も受け止めながらしぶとく・謙虚に勝ち点を積んでいき、最終的に頂きへ到達するにふさわしいチームになりたい。

システム

~勝手にMOM~

MOM:鈴木国友
→ついに山雅移籍後初ゴール。FWではゴール一番乗りとなった。ボックス内での仕事や空中戦以外にも2点目の起点となる動きのような間受けと推進力でも貢献。

次点:河合秀人、佐藤和弘、野々村鷹人
→選べなかった……。限りなくMOMに近い面々なのでサポ内でもけっこう割れるんじゃないのかと。

~戦評~

■前半の不協和音と阪野が苦戦している理由

・理想とは程遠かった前半

水戸戦から常田・表原・前から大野・下川・米原を変更して臨んだ今節。監督コメントを見ると前はまだフルでは難しく、米原は最初から安東との交代を計画していたよう。米原はチャンスを貰った形となったが、ベンチも含めて力強さを意識したメンバーを揃えてきた印象がある。

「試合開始から仕掛けていく」という気持ちとゲームプランをもって試合は始まったが、攻勢に出たのは前半を得意とする秋田側。

山雅は開始4分あたりに篠原から阪野にロングボールが入り、裏返すことに成功。(オウンゴール以外では)前半一番のチャンスを迎えたが後ろから攻撃を作って決定機を作れたのはそこくらい。

相手の早いプレスと強風によってなかなかリズムが掴めず、徐々に後ろに重くなっていく。

・人とボールの流れがマッチしないと負担が大きくなる

試合が落ち着いてくると保持率が極端に低い秋田に対して、低い位置からの組み立てを余儀なくされるようになってくる。CB3枚は幅を取り、米原・佐藤が下りてきてその繋ぎ役をするような後ろ3枚+DH2枚で攻撃を構築。

WBはまずは高い位置を取って幅を取るという姿勢は見られたものの、ビルドアップでその高い位置を取るWBを使うシーンはほぼなく、ラフに阪野に当てるか高い位置を取っていたWBが仕方なく下がりながら貰うようなシーンが多く見られた。

例えば、先ほど触れた開始4分のシーンでも

裏狙い

米原・佐藤がビルドアップに下りてくるも、大野や野々村が持ち運ぶようなプレーは得意としておらず、繋ぎのスピード感よりも相手のプレスが上回っていたことで狙って裏を取るような時間も与えてもらえない。

WBがボールを貰うために下がってくるも貰う向きが後ろになり、ダイレクトで前に送るような選択肢もないのでDHを再び経由することに。相手の多いエリアにいれることになって囲まれてロストするシーンも何度か見られた。

ロジック

前へボールを運ぶポイントが下川や河合の個人技しかなく、繋ぎの経由地となるためにシャドーの河合や鈴木が組み立てに戻ってくるもそれによって阪野が孤立するというシーンが繰り返された。このあたりは繋ぎは割り切って鈴木・河合はが常に阪野の周りにいた水戸戦の前半との違いのように思う。

当然、例に挙げたシーンで篠原→阪野の関係性でゴールに迫ることができているので相手のプレスを受けないために裏を狙うこと自体は悪くないが、それを繰り返しても厚みのある攻撃にはならず、結局はFWの個の力次第になってくるだろう。

もしも、この試合のようにビルドアップでDHが下がり、シャドーがそれに連動して下がっていく必要があるのであれば

逆流

このように人の動きに応じてボールの動きも連動することでパスルートも自ずと作られていくはずだ。逆流すれば薄い場所にボールを入れることになり、そこにいる選手の個人の負担は大きくなる。

今年のキャンプでは後ろから繋いでWB(SB)に高い位置を取らせて……という理想のもとスタートしているので、そのサッカーとこれまでの山雅のサッカーを組み合わせた時にそこのギャップでこうした問題が起きているのかもしれないが、ロジックの再構築に加えてCB3枚による展開力・組み立てやDHの組み合わせも考え直さなければならない。

もしもビルドアップと縦に早い攻撃を両立させるのであればピッチ内で修正するにも限界があるので、今一度チームとして整理していきたい。

■見事だった秋田と勝負を分けた割り切り

逆に秋田はこのボールと人の流れの向きは常に同じ"前向き"にあるのが強みとしてある。攻撃の目的であるゴールの方向ともマッチするので、最もチームで統一感が持ちやすく、反町山雅やスタメンの大半を入れ替えた去年の福岡が最短で昇格を果たしたのもこの理由と共通している。

やることが統一されている、シンプルであるが故にワンパターンになりやすく、アップダウンによる体力の消耗の激しくなったりというデメリットもあり、秋田の得点が全て前半に集中しているのも恐らくそのためだが、ハッキリと確立されているスタイルがあると少ない戦力でも最大限の力を発揮できる。

また良くも悪くもアルウィンの強風はボールの流れと人の流れがマッチしている秋田のスタイルに影響を及ぼした。

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縦に早めにロングボールを入れるも風に押し返され、自分たちのベクトルが弱められるので邪魔にしかならない。それでも秋田は吉田監督が繰り返していたように「継続」「続ける」スタイルのチームなのでそのやり方を変えず。自分たちのコンセプトを貫き続けた。

もちろん理想論だと柔軟性があるに越したことはないが、人間もチームも全てが完璧にはできてはいないので毎試合コンセプトや戦術を変えることは不可能に近い。この逆境の中でもチームスタイル、哲学を貫いたことは敵ながら次以降の戦いに繋がると感じている。

そして、そうした秋田の前後半の勢いの違いを感じ取って前半は何とか凌ごうと舵を切った山雅の選手・監督もまた見事だった。セットプレーでやられはしたが()流れの中でもやられることなく、先制された後にもどんな形であれすぐに同点に持ち込めたことで、秋田に守備固めに舵を切らせず、3得点という結果を残せたのは前半の割り切りがあってのことだと思う。

■2点目を生んだ幅と深さ

そして、歓喜の後半。この日の3得点で多くの人の脳裏に強く焼き付いたのは決勝点となった2点目だったのではないか。

まずきっかけは篠原の縦パスから。鈴木も

「あのボールは左利きの選手だと割と得意な選手もいるけど、右利きの選手だとダイレクトで来ないかな?と思っていた。僕がダイレクトのタイミングで動いてしまったのに、シノくんがいいところにつけてくれた。僕は立っていただけ。」

と話している通り、篠原がダイレクトで縦パスを入れたのは山雅基準でいくと"1テンポ早い"ボール回しだった。生で見ている時も「やけにきれいにボールが刺せたな」「SHが早読みしすぎたのかも」というのが素直な感想だったが、もしかしたら定評のある秋田のスカウティング陣からしてもこれまでのデータにあまりない、想定外のタイミングだったのかもしれない

ただし、それでもこの流れの中での鈴木の貢献度も高い。
ターンからのゴリゴリドリブルまでの判断は非常に迷いがなく、下川に預けた後のランも完ぺき。佐藤のゴラッソに繋げた。これまでは戦術で個性が死ぬことも多かったが、それぞれの個性が噛み合うと何とも面白い。そして、個々の能力はこの順位にいてはいけないと思わされる。

去年は経験の無さや余裕のなさが目立つシーンもあったが、雨にも負けず風にも負けず、シュートやクロスの際にそこまで計算して味方にするほどの経験と実績のある選手たちに頼もしさすら感じている(もちろん去年は去年の良さがあったが……)。今後もこうした個性を生かしたプレーの量産を期待したい。

■高さと勝利を重視するなら横山外しも妥当

そして、試合の終盤にはシャドーに前、最終ラインに山雅初出場となる星を投入。4点目を取りに行くというよりははっきりと試合を締めにかかるメッセージの分かりやすい采配だった。

阪野や鈴木を残したことからも特に"高さ"は重要視していたのだろう、もしも終盤までリードしていたら星を入れて逃げ切るというのはプランとして用意していたはずだ。

逆に仮にリードしていたとしたら、秋田は自陣にブロックを固めているはずなので裏のスペースはこの試合のようにはなかったのは確実。

この試合では横山が使える裏のスペースは多くあったので、試合展開から「横山はなんでいれてないんだ」という声も見られたが、そうしたこの試合の逃げ切り策を見ると横山が仮にベンチ入っていたとしても高さのある阪野や鈴木は下げられないという可能性は高い。

そして、ビハインドだった場合もスペースがないので小手川や表原で地上戦を仕掛けるということを考えていたのであればベンチを横山が外れたのも一定の理解できる。そして、FWで入れるとしたら阪野や鈴木に代わって高さを補える戸島だっただろう(もちろんコンディションの面は我々には分からないので絶対的ではないが)

まだ守備の面では不安があり、3421のシャドーとしてはまだ計算されていない可能性の高い横山(この説については前節も触れた)。キャンプから順風満帆だった彼にとっては最初の試練かもしれない。

■「秋田のゲームだった」現実とそれを制した意味

やや話は逸れたが、こうして秋田の猛攻も防いでスコアを動かされることなく、多くのサポの前で勝利を収めることができた。

footballlabのデータによるとこの試合のシュート数は(秋田側から見て)22-9。秋田はここまで群馬戦●<8-5>、栃木戦〇<8-14>、千葉戦〇<8-10>、北九州戦△<12-9>、京都戦〇<5-22>と耐えて耐えて勝利をもぎ取るか接戦のゲームが多く、シュート数という面ではこの試合は圧倒的に「今季最高のゲーム」と言えただろう。

風の関係も相まって秋田目線では「オウンゴールがなければ圧勝もあり得た」「1年に数回はこういう試合もある……」というような少し恵まれない類の試合となったので、山雅目線でも圧勝とも勝ちに値したゲームとも言いづらいのが正直なところだが、どんな強いチームでもシーズンを通してみると劣勢の試合は必ずやってくる。

浮かれてはいられる勝利ではないが、苦境の中でそうしたゲームをモノにできたのもまた感慨深い。

さらにここまでのゲームでは"先行逃げ切りのような、前半から飛ばして後は気合"という試合も多かったが、劣勢でも後半勝負でもいけるという手応えは得たはずだ。「勝利は一番の良薬」という言葉もあるくらいなのでこの勝利が今後の試合の内容の改善に繋がることを期待していきたい。

この勝利を無駄にしないためにも強敵磐田から何としても勝ち点3を。逆襲の4月で「止まらねえ俺たち松本」を体現したい。

END


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