北九州戦レビュー~偶然と必然の産物~
良い流れを継続する勝利
今シーズン、何度も言っている『この勢いを次に繋げられるか』という言葉。なかなか勢いのつけられないシーズンが続いている中で迎えた金沢戦、北九州戦。後がない状況の中で勢いが続くような勝ち点を2試合続けて奪い取ることができ、勝ち点を積むことに成功。山雅が勝ち点4を積んだことだけではなく、金沢は勝ち点2を、北九州は勝ち点3をそれぞれ失う形になったのも残留争いの上では大きい。
また、試合内容を振り返ってみても前節は下川の退場、今節はセルジの途中離脱とチームの中核の選手を欠いた状況の中で、前節に続いて流れを変えたのは新たに表れた「ラッキーボーイ」的存在。残り11試合を短期決戦と見ればここからは綺麗な崩しや戦術的な積み上げよりも、こうした存在が現れるかが非常に重要な要素になってくる。
得点パターンとしても「セットプレー」という、山雅の本来得意としていた形からの得点を連続で取れたのも価値がある。ここは確証はない部分だが、これまでよりもチームとしての意図も感じられるのでテコ入れは行っているのかもしれない。
ここから先は千葉・栃木・岡山とパワー勝負・球際には力を入れているタフなチームとの対戦が続くが、その力強さに屈することなく、今の良いイメージを継続して「残留争いからの脱出」を目指したい。
<勝手にチームMVP>
MVP:榎本樹
前回の得点に続き、今節もアシストを記録。前節は11分の出場でまだ未知数な部分もあったが、天皇杯も含めても最多45分の出場でプレー内容も良好。積極性が随所に見られ、嫌な雰囲気を払しょくする良い立役者に。特に後半のファーストプレイで北九州に面食らわせることができたことが、前半とは真逆の入りを生んだと言っていい。
次点:伊藤翔
橋内、平川、河合……次点に並ぶべきプレイヤーは多かったが、加入後最長の時間出場&最高のパフォーマンスを見せた伊藤を選出。これまで前線に張っていることが多かったが、ターゲットとなる榎本が投入された後は守備でも広いカバー範囲を見せ、周りと連携を取りながら相手の自由を奪う高いバイタリティを見せた。
<戦評>
■セルジ山口の共存を諦めない
前節金沢との試合で辛くも勝ち点1を拾った山雅はメンバーを2名変更し、FWには伊藤翔、右のWBには宮部を起用。下川は前節の退場で出場停止、ここまで全試合出場だった鈴木も今季初のベンチ外になり、代わりに阪野、村越が久々のベンチに入った。
宮部はここ数試合WBでの先発が増えているが、そのタイミングは星→橋内になった京都戦から。橋内は復帰しているにも関わらずベンチに置かれることが多かったので、もしかすると橋内-大野、星-宮部ラインはここまでセットで選考されてきたのかもしれない。
前線はまたセルジと山口の併用となったが、配置は金沢戦では左でのプレーが多かった山口が右を主戦場に。結果的に短い時間ではあったが、エリア被りに関しては多少は改善が見られ、試合の中で共存策を試行錯誤するチームの苦悩と試行錯誤は見られた。
対してアウェイの秋田の地で先制しながらも追いつかれてしまった北九州。だが6戦負け無しと残留争いの上では良い積み上げができていることもあってそれほどメンバーをいじってこなかったが、今節はロングボールを蹴る際のターゲットとなっていた富山を前川に変更。機動力があり、どちらかというとトップ下のような位置でのプレーを得意とする選手を配置してきたことから、山雅のマークの受け渡しミスやミドルプレスを想定しての人選のように思えた。
■去年を彷彿とさせる北九州の特攻
・想定外のハイプレスとビルドアップのジレンマ
立ち上がり攻勢に出たのは北九州。普段通り、プレスをかけられると序盤はセーフティに前に蹴る山雅に対し、北九州はCBから丁寧に繋いでいこうという姿勢が見える。
となると自然と北九州がボールを握るところからスタートするという構図が増えるのだが、前線での規制が上手くハマらず。軸となるアンカー役をセルジが監視しようとするもハーフスペースに侵入してくる高橋がボールを受けることにより結果、もう1人のボランチや幅取り役のSBが楽に受けられ、山雅の後ろの選手は"下がらざるを得ない"状況に。
また、前でハメようとしてバランスを崩して前にボールを取りに行き、北九州にロングボールを入れさせても、最終ラインと前線3枚の間で拾えるのが佐藤・平川のみと中盤の枚数でも機動力でも上回られていたため、なかなかボールが拾えない時間が続く。
相手の最終ラインに繋がれると簡単にズレを作られ、規制をかけると中盤が薄くなり、セカンドが拾えないという状態になってしまったので自然と重心は重くなっていく。小林監督も「ゲームとしては良い入りができました。意外に山雅さんが引き気味の守備をしてきたので、そういう意味で、そこで点が取れた(公式コメントより)」と、想像以上に狙いがハマっていた模様。
ただ前半6分には両ボランチが連動し、相手のボランチに寄せ切る形から前方の伊藤→セルジ→山口とシンプルな形でショートカウンターを発動させる形を作れていたことも。
本来であればこのようにボランチが高い位置で奪い取り、前線3枚の個をシンプルに使えるのが今の山雅の前線としては理想。何度か平川のボール奪取からチャンスの一歩手前まで行けていたので、この形を意図的に作りたかった。
ただ、この形からも分かるように前線の守備は山口が左で追っていたり、伊藤が中盤に挟みに行ってたりと前線の守備の形はかなりきまぐれで、それに合わせて後ろが動く形になっていたので、後ろの選手が的を絞って奪いに行くのは容易ではない。奪った後の瞬間最大風速は強くとも奪うまでの再現性が低くなってしまうのは必然ともいえる。
・避けたい形での失点と絶望のPK
だが、そもそも小林監督のコメントにあった「意外と……」と言いたいのはむしろ山雅側。名波監督の事前コメントでも自分が見た数試合でも、ここ最近の北九州は序盤からポゼッション&ハイプレスを仕掛けてくることはなく、どちらかというと去年までのスタイルを"封印"してリスクを抑えた戦いをしていたのでこれだけ前に圧力をかけてくるのは恐らく想定外のことだった。
かといって、山雅も今のメンツで前線にハイプレスをかけさせたり、中盤の運動量を増やしたり、ロングボール主体の攻撃にしたりと戦いに幅を持たせられる練度もなければそういうスカッドでもないので、そこはある程度割り切って戦うしかないのかもしれない。『耐えるところは耐えて、偶発的でも生み出したチャンスや流れを生かすのを極めていく……』という方向に進んでいる。
なので、90分間の安定した試合運びはなかなか難しい。言うまでもなく、失点シーンのような「自爆」は避けたい。結果的にボールを奪われたのは村山だが、局面的に見ても試合の流れを通してみても北九州の圧に負け、ミスが生まれやすいような流れができてしまっていた(形ありきのビルドアップについては何度かレビューで触れているので割愛)。
また、致命傷になりかねなかったPK。先制され、前線から圧力をかけたいのも理解はできるが、あのシチュエーションではセルジが負傷し、1人少ない状態での戦い。にも関わらず前に出ていき、相手に隙を与える"ハイリスクローリターン"な選択を行ってしまっていた。
名波監督もよく話している通り、残り1試合しかなかったり、終盤の時間帯ならまだしも、前半のあの時間帯。しかも1人少ない状態で行う戦い方ではない。そうした積み重ねで今の順位になっているといっても過言ではないので要反省しなければいけないシーンだったが、かろうじて審判と相手のキッカーに救われる形となった。
■絶体絶命の中で投入された絶好の男
そして、セルジの代わりには河合が投入。
下りてきて圧倒的な存在感で低い位置からゲームを作るセルジに対して、河合は常に動きを止めず、前線でボールを引き出すようなプレーを意識的に行えていたことで、低くなっていた重心が自然と前に向くようになっていく。
それまではボランチ+セルジで相手も前に重心をかけやすくなり、WBに入った時にも前への選択肢が少ない状況だったが⇩
河合が前で中継地となることで相手のボランチも高い位置を取りづらくなり、外山や平川へのプレスも回避しやすい状況が生まれたといった感じ⇩
もちろん、河合の運動量×剥がす技術はチームでも抜けているものがあり、他の選手にそれをやらせるのは難しい。人ありきではあるので属人的な修正ではあるが、結果的に相手がプレス疲れ・攻め疲れをし始めるタイミングで、核となる選手が入れ替わったことで強制的にプランBに切り替わり、流れをイーブンに戻すことができた。
問題は「(仮にセルジを中心とした戦い方がハマっていても)セルジ抜きではそもそも同じ戦い方が継続できなかったこと」「最初から河合を使ったと言っても同じ展開にはならなかった可能性が高いこと」ではあるが、残留争いと監督交代の最中、そこまで突き詰めることは難しいだろう。この試合ではそんな"偶然"とあえてその戦いに舵を切っている"必然"が良い方に向かい、逆転に繋がることになる。
■名波新体制の価値と流れを変えた2人
・ピッチ内外を活性化する生え抜き若手の起用
そして、逆転に向けては早い時間に点を返すしか無くなった山雅は榎本と村越を後半頭からW投入。この痺れる展開で公式戦経験の浅い2人を入れるという勝負だけではなく、互いの残りカードを考えても山雅は河合でカードを1枚使っているため、残すカードは45分で阪野1枚だけ(残りは米原・野々村)というまさに背水の陣。大きな期待を寄せているであろう山口を勝負どころで下げるというのも簡単ではなかった。
後半に入ってからは早々に榎本・村越が攻守で縦へのベクトルを強く意識したプレーを多く見せる。それに対して、前半とは逆で面を食らう形になったのは北九州。全く違うタイプの選手同士の入れ替えで、それほどデータがない選手が全力でプレス・ドリブルで勝負を仕掛けてくるのでもしかすると動揺は見られたかもしれない。前半のあの時間が山雅にとって"耐えたい時間帯"だったように北九州も"耐えたい時間"にわずか7分で失点してしまったのは痛恨だったように思う。橋内のシュートも見事だったが、セットプレーで3つの局面(常田・榎本・橋内)で相手に先手を取られると難しくなってくる。
そして、2点目のシーン。
北九州のCBは岡村181㎝、村松171㎝と、ツインタワー(榎本は186㎝、伊藤184cm)を相手にする時に高さの面は大きなウィークポイントになってくる。村山からのフィード時点では岡村-伊藤、村松-榎本でマークについていたが、競るのは高さのある岡村、村松がそのカバーという決まり事があるため、ここでマークが入れ替わり、どちらもシンプルに自分の強みを生かすことができた。北九州としては最初から岡村をつけていればあそこまで自由には落とされることはなかったのに……と悔やまれるところだろう。このあたりもそれほどデータがない選手を抜擢したことで生まれたギャップのように思う。
・整理された守備網
点を取ってから(正確には先制点後)は山雅もブロックを組む時間も増える。ここでも鍵になっていたのは河合で、相手の陣形とこちらのプレスに合わせて3421と352を併用。これによりサイドのマークの受け渡しも明確になった⇩
また、3枚で幅を埋めるだけではなく、前2枚が最終ラインにプレスに行く際にはアンカー役(針谷)に中央の平川が出ていくシーンも見られたので、3枚になること、そして前線から後ろまでが組織的に動けていたことによる後ろの安心感のようなものは見て取れた。
突破されてもCBが後ろでカバーでき、ロングボールを入れても中盤は山雅の方が厚くなっているので、回収はできずでほぼピンチはなく、試合はクローズ。ここで強力なターゲットマンが出てきたり、時間限定の強力助っ人が出てきたりと状況を打破するカードが出てくれば、また状況は変わってくるだろうが北九州はそういうチームではないので、個で蹂躙できない難しさはあるだろう。今更言うことでもないが、PKで勝負を決めれなかったのが大きな痛手となった。
■千葉の寄せの早さをうまくいなしたい
そして、今週はアウェイで千葉との対戦となる。
ここ3試合は全て先制点を上げているが、磐田には3点を奪われ逆転負け、群馬、愛媛には徹底的に守り切って1-0の勝利。尹監督を知っている人からはお馴染みだが、先制されるとそれを押し返すのは容易ではない。
タックル数2位、インターセプト1位と相手への寄せはJ2でもトップクラスで素早い寄せがチームの生命線となっている一方で、勢い余ってファールやカードを貰うことも多々ある点、そこをカバーしていた鈴木大輔が今節は不在な点などからここ数試合で磨きがかかってきたセットプレーは大事にしていきたいところ。
(余談だが反則ポイントも異常なほど貰っている)
山雅もドリブルの指標がリーグでもトップクラスになっているのでそこをクリーンに潰せるか、抜ききるor反則を貰えるかという構図も楽しみにしたい。
この試合でひとまずは降格圏から脱出したものの、まだまだ一寸先は闇状態。早く抜けて、来季に向けて備えるに越したことはないのでなんとしてもアウェイの地で勝ち点3を取り、良い流れを継続していきたい。
END
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?