見出し画像

町田戦レビュー~逆境で見えた課題と実力差~

キーだった前半の立ち上がりで一気に窮地に

前回の岡山戦。ホームでは初の3失点敗戦と書いた矢先、さらなる悲劇が待っていた。前半の早い時間に退場者が出たことで非常に難しい試合になったのは理解ができるが、選手たちに取ってもショッキングな試合になったことは想像に容易い(むしろ、昇格を目指しているチームならそうでないと困る)

水曜日にも試合がある過密スケジュールの前に悪い流れを止めることは叶わなかったが、このままリーグで負け続けるわけにはいかない。この3連敗は攻守に一体感が出せず、シュート期待値も0.5台を超えずとほぼ良いとこなしだったのは事実としてあるので、問題点にしっかりと向き合って次の試合こそは勝利を手にしたい。

システム

(基本フォメは352だったかもです)

<勝手にチームMVP>

割愛、村越君良かったです

<戦評>

■待ちに待った重戦車登場

栃木、岡山と続いた連敗を止めたい山雅はスタメンを3人変更。負傷が発表された安東(→表原)以外では左SBが定位置になっていた下川を常田に変更。また、一番のサポーターの関心事となったのが初のメンバー入りで山雅初先発となったルカオ。これまで相手のDFラインを下げられず、前線の起点となる選手がハマらないことで苦戦していたので(ベストな解決法ではないが)持ち前のパワーと推進力で相手の最終ラインに圧力をかけ、押し下げてもらおうという期待が伺えた。

対する町田も敗戦を喫した前節から2人を変更。昨年からの不動のボランチ佐野が全治8週間の負傷から復帰し、それに伴い、平戸がSHに。さらに長年町田のSBを支えてきた奥山が負傷離脱している左SBには元々は前線の選手である土居が公式戦では初となるSBとしての出場、前節左SBで出場していた三鬼は本職の右に回った。

■落胆と意地、動き出すスコア

・町田のストロングと山雅の誤算?

開始30分までで全得点の半分を叩き出すなど序盤で得点をあげてゲームを優位に進めるのを得意パターンとしている町田、この試合でも3バックを匂わせる立ち上がりやトリックプレーなど序盤での得点力の高さが納得の積極的な仕掛けを見せてくる。

山雅は532を基本にしながらも保持時はルカオをターゲットに定め、そこにむけて河合や鈴木国らが絡んでセカンドボールを拾う形。ただし、まともにプランを見れたのは開始10分程度だったのでその後のプランは不明。これは序盤のみだったかもしれない。

そして、町田が狙ってきたのはこちらの右サイド。

左

本職は1列前になる土居を左SBに置いていたので試合前から左は高い位置を取るのは決まっていたようにも思うが、こちらは不安定な右サイドから攻められることになった。中と外を行き来する平戸・土居の左サイドコンビは受けに回ると大変厄介で、自由度の高かった平戸・土居に表原がどこまでついていくのか?誰に受け渡すのか?が非常に曖昧だった。

前節の町田左サイドは三鬼-吉尾の組み合わせ。低い位置からゲームを組み立てられる三鬼に表原の運動量をぶつけるという算段があったかもしれない(し、なかったかもしれない)が、少なくともこれだけ表原が後ろ向きで走らされることになるというのは山雅にとって大きな誤算だったように感じる。

・セットプレーをやすやすと与えすぎている問題

案の定、町田の立ち上がりの圧力にルカオに当てて拾う以外の活路が見いだせない山雅は、絶好の位置からのFKを沈められ、前半11分に先行されてしまう。

壁の問題、駆け引きの問題など失点時のFKの問題もあったかとは思うが、セットプレーを取られてしまった立ち上がりの試合運びが招いた失点というのは多くのサポが感じているはず。左右どちらも狙えて、中に合わせる可能性も残すような位置からのFKではまさに"祈る"しかない心境だった。

毎試合のようにセットプレーを課題に挙げ、集中して取り組んでいることは伝わってくるが、そもそも栃木戦・岡山戦・町田戦と前半4分、1分、2分といずれも早い時間に最初のCKを取られているところはいただけない。このあたりから要改善ではあるだろう。

・先制点の前に見られた構造的な大エラー

では、具体的にFKを招いた直前のプレーはどうだったか。

プレーはまず(山雅から見て)左サイドのスローインから始まる。

サイドチェンジ

⇧去年の水戸戦などでも見られた課題だが、スローインから長い距離でサイドを変えられる時にはボールサイドの河合はサイドに寄っており、佐藤・前は後ろのコースを切りながらスライドすることになるので、プレスに行くのは明らかに間に合わない。ただ寄せないわけにはいかないので寄せに行くことで明らかに中盤が振り回されることになる。

さいどチェンジ2

⇧そして、平戸に渡った時点で①土居が裏に抜ける動きを見せ、最終ラインが引っ張られる。佐野へのプレッシャーに行っていた前は表原のフォローに。②大野と前のギャップがひらく。

サイドチェンジ3

⇧①②はともに狙われなかったものの、佐野に戻されたことで再び前がプレスに。恐らく「ボールホルダーにプレスは絶対」が約束事になっているので、前が走らされることに。であれば、それに連動して最終ラインが押し上げ、スペースを圧縮するのがセットでなければならない。

そこを町田は見逃さなかった。いや、恐らくスカウティングでここが空くのは想定内だったのだろう。一瞬の動き出しが光る中島と再び中に侵入してきた平戸、逆の長谷川の関係性で狭い(はずがプレッシャーはかからない)スペースを使って逆の吉尾まで展開。この時点でほぼ勝負ありだった。

振り返ると中盤の前は「中盤での逆サイド(佐野)対応」、「表原のフォロー」、「再び佐野へのプレス」とほぼ全速力で行うことが求められている(ちなみに間に合わなかった「平戸への挟み込み」も本来は前のタスクとなっている)。また、反則を取られた外山もきっちりとスライディングでコースを消したことにより、ハンドを取られてる。しっかりと走り、最後のところをやらせない気持ちを見せてくれたことには触れておきたい。

そこからの失点で「また早い時間に失点か」というムードも出てくる中、表原の加入後初となるゴラッソが生まれ、チームの意地を見たが。。。さらなる逆境がその直後にやってくる。

■常田と河合を失った1プレー

常田の一発レッド。判定についてはDAZNで解説されているので割愛。
DOGSOの4要件について、このルールの抱える問題点についても詳しく話してもらっているのでDAZNの解説では物足りない、納得のいかない人は是非とも。

若いDFラインが平戸→中島のホットラインの餌食になった。

・河合を下げるという選択の妥当性について

ここで柴田監督は常田の欠けた最終ラインに星を投入。
一応、「4バックにシステムを変更する」という選択もあったかとは思うが、現実的には11人でも仕込み切れていないのが明らかなシステムへの移行は難しく、表原をSBにするor野々村・星でCBを組むというのはリスクが高かった。「少しでもそのままの時間を長くできれば」という指揮官の狙いを遂行するにはあまり理にかなった選択にはならないので、この星の投入自体は自然な選択だったと思う(町田は高さ押しでくるチームではないので山口時代にCBをしていた前を1列下げる選択もあるとは思うが……その想定で練習していなそうなのでそれも厳しいか……笑)。

その犠牲になったのはリンクマンとして全ての試合で存在感を示していた河合。ルカオを最前線、国友・佐藤・前がその後ろに並び、531のようなフォーメーションで、できるだけ失点を抑えつつ、1刺しを狙う。キーとなっていた河合を下げてまで、前半限定のルカオを残したのは期待の大きさが感じられる。そこから鈴木・河合の2択を迫られた時にセットプレーの攻守の強度や独力での得点面を期待されて鈴木が選ばれたか。

・現実に起きた問題点

しかし、現実はそう甘くはなかった。
町田も前半はそれほど縦に早く攻めてくるわけでもなく、最終ラインから揺さぶりをかけて山雅の出方を伺う様子。まだ同点だったこともあり、保持しつつ、勝手にこちらが疲れてくるのを待っていたかそれとも5バックを崩すのに慎重になったか……。いずれにしろ、大きな期待をかかっていたルカオを使ってワンチャンスを狙っていた山雅にとっては失点こそしないが、プランが乱されるような1手を打たれてしまう。

町田が穴を探していく上で、明らかに分が悪そうに見えたのは先ほども触れたこちらの右サイド。町田の左SB土居と山雅の右WB表原、それぞれこのポジションでの経験は多くなく、敵陣に押し込んだほうが明らかに有利なマッチアップだったが、1人退場者が出たことでこちらは引かざるをえない構図に。表原が前に出ていけない時間が増えるのはあちらの思う壺だった。

それでも前半は(退場からは)0で終えたかったし、その希望が見えかけた時間にも差し掛かっていた。しかし、大きな1点が前半の内に入ってしまう。表面的には表原が中島に出し抜かれた形だが、できればそもそも作られたくないマッチアップで、仮に中島の動きについていけていたとしても止められたかどうか……。わざと表原の影に隠れて後ろから飛び込んでくる勝負勘から中島の強さを見た。

ここ数試合、山雅のラインをあげる動きは頻繁ではなく、J2トップレベルのラインブレイカーからすると飛び出すタイミングを掴むのは簡単だったように見えたので、格好の餌食になってしまったのは改善したい。

中盤3枚が積極的に前に出ていく分、後ろもそれに合わせて押し上げることで①相手の最前線をオフサイドエリアに追い込み②DFと中盤のスペースを殺すことで素早く寄せられるような設計にしていかなければならない。

■結果を踏まえた上で代案を考える

ここまでが前半。退場後の守備の負担は大きく、致命的な1点も許してしまったので、1人少ないのを差し引いても良い前半ではなかった。

文句ばっかりでも仕方ないので代案も考えていきたい。
大前提として、河合を下げ、星を入れるこの選択も(この時点では)それなりに理解できる。

どんなシステムにしても1人足りない時点で問題点は出てくるので、どうすればその問題を減らし、プランに沿った選手起用になったのか……?実際に選ばれた策を否定するというよりも、結果を踏まえた上でベストだったかを探っていきたい。

まずはこの選手器用・システムを選んだ理由は
・前線にルカオを置くことで独力で時間を作ってもらえる
・常田の分の高さは補える
・慣れ親しんだ532と似たタスク

出てきた問題点は
・ルカオが前半しかでれない(河合ルカオを欠く後半の戦いは?)
・河合不在により、時間を作れるのがルカオのみに
・5バックから抜け出せない(主に右サイド)

それらを踏まえて……

カウンターの脅威を残しつつ、できるだけ5バックのスライドを安定させるためのA案が
⇩<()は後半最初>

退場後

サイドに前をスライドし、ルカオも河合も残す形。柴田監督の監督コメントにもあったような5バックから抜け出せない問題は右WBでの経験も豊富な前を右に置くことで多少はなんとかなったか。また前はビルドアップでも出口になれる選手なので一発でルカオを狙う意図があるなら悪くないはず(不安になるのは守備時のIH……)。

そして、失点を抑えつつ、ゲームを進めていくことに重点を置いたB案は

退場後2

ルカオを下げ、3411で河合をトップ下のような位置に置き、中盤の優位性を保つ形。カウンターでの脅威は薄まるが、中盤3枚でギャップが生まれ、攻撃の時間(保持できる時間)自体は増えるのではないか。最前線が鈴木-河合になることで守備の意思疎通は取りやすくなってはいたはず。交代枠を使わずに済むのもスタミナ面ではプラスになるだろう。

繰り返すようだが、1人足りなくなる時点で問題は必ず出る。
絶対的な正解はなく、だいたいは結果論的な議論になるだろう。ここでは触れられていない事情・現場のひっ迫感も多くあったはずなので監督やスタッフと同じ土俵に立つことはできない。
しかし、その上で常にベストな選択をしていくことも監督・スタッフの仕事であり、力量が試される局面なので、この機会に改めて精査・改善していけることを願う。

■10人でも11人でも見過ごせない3点目

そして、後半も盛りだくさんの内容だったが、その中でも特に今の山雅の問題点が浮き彫りになった4失点目をピックアップ。

裏返す (2)

前線の戸島はGKのラインまでプレスをかけに行ったところでGKのパスから一発で裏返され、一気に中島へ。これは大野が弾いたが、前は前線へのプレスに行っているため、中盤での拾い役は佐藤1人だけ。対して相手は3人なのでセカンドボールを拾うのはかなり不利だった。

一見、攻めに行ったが故の失点のようにも思えるが、本来であれば
α:前線のプレスは最小限。後ろに人数を残してセカンドを拾う
β:裏を取られてでもDFラインが押し上げて全体のコンパクトを保つ
γ:危なくなったら徹底的にクリア(大野が外に切る)

のどれかで統一したかった。α、γは意図的に選ばなかったので、理想はβだろう。それで一発で裏を取られても全体が前がかりになるべきだったと感じる。

跳ね返せるタイプのCBがいないのが影響してか、ここ最近はDFラインは早めに下がることでロングボールに対処するが、セカンドを拾う人がいない→拾われて失点という構造を突かれて失点するケースがあまりに多い。

昇格争いに加わりつつある町田だが、山雅の弱みをよく分析し、90分の試合の中でも時間ごとに戦い方を変えながら、的確に突いてきていたと思う。

■天皇杯の勝利を次へ

終わってみると5失点大敗。ほとんどの試合1人少ない試合だったが、それ抜きにしても攻守に完成度の差は大きかった。いや、正確にはその差によって生まれた先制点、数的不利というほうが正しいかもしれない。

最初は5枚と3枚で守っていたところを、4枚と4枚にしてコンパクトにしたかったですが、しきれない状態でした。(松本山雅公式より)

という問題点が試合中見つかっても修正しきれない、後手を踏んだ状態で苦し紛れに4バックに変更しても選手が耐えられていない姿を見ていると"設計"のミスというよりも"準備段階"からの失敗が大きいと思うが、再びトレーニングのところからできること・できないことを整理して、試合中にばたついてしまうのは何としても避けたい(10人になっているのだからなおさら)

これで公式戦3連敗と再び窮地に追い込まれてしまったが、水曜日には若手中心で臨んだ天皇杯で琉球相手に見事1-0で完封勝利。

画像7

(試合は見れてないが)得点に絡んだ村越・戸島・パウロ、中盤のトライアングル、3人の若き最終ラインとここから序列の変化、さらなる競争の激化も起こりそうな予感を感じさせてくれるものとなった(下川・浜崎・河合は元から主力級として考えている)。

秋田→松本→琉球と中3日で移動し、選手層的にはそれほど恵まれているわけではない琉球なので、その点は考慮すべきだが、あまりにもチーム状態が悪いのでこの勝利に大きな意味を持たせることができるのではないか。

逆に言うと、リーグ戦で連敗中であることには変わりはなく、まだ何も成し遂げてない。勝てなければこの意味は薄れる。意味を持たせられるかは次節以降にかかっているだろう。

相手は監督交代で守備が整理され、安定した試合運びが戻った長崎。
元々攻撃陣はJ2でもトップレベルのタレントを揃えてはいるのでいかに90分隙を見せずに戦えるか、隙を見せないためにはゴール前での集中力というよりはその前段階で”敵陣で前進を阻止して、相手が前がかりにくるのを押し返す"ことが強く求められる。リーグ戦でも再び統一感を取り戻し、天皇杯組も含めた総力戦で、強敵を相手に勝ち点3を取りたい。

END

(画像・監督コメントは松本山雅公式より)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?