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J3入門ガイド作ってみた⑥<鳥取・藤枝>

今回は第11節、第12節で対戦するガイナーレ鳥取、藤枝MYFCについて

<ガイナーレ鳥取>

■直近5年の成績と監督遍歴

17年:森岡隆三 J3・17位
18年:森岡隆三(1月-6月)、須藤大輔(6月-12月)J3・3位
19年:高木理己 J3・7位
20年:高木理己 J3・5位
21年:高木理己(1月-5月)、金鍾成(5月-12月)J3・12位

22年監督:金鍾成
13年まではJ2で戦っていた鳥取はJ2・JFL入れ替え戦で讃岐に敗れたことでリーグ創設1年目のJ3に参戦することに。徐々にその印象も薄れてきているがJ3も9年目で沼にハマってるチームの1つになる。一昨年までは3位、7位、5位と昇格争いに近い順位に位置するもシーズンを通して波なく戦い切ることがなかなかできずに自動昇格に届いていない印象。また直近5年で見てもレオナルド(新潟→浦和など)、井上黎生人(岡山→京都)、河合秀人(琉球→松本→山形)、加藤潤也(群馬) 、三沢直人(京都)など上のカテゴリーでも個で違いを生み出せるような戦力を多く送り出しているのも特徴的。クラブとしての輝かしい功績である一方、昇格の弊害にもなっていそう。

昨年は高木理監督のもと昇格に向けて「3年目の正直」を目指したが、スタートダッシュに失敗したことで第7節終了後に監督解任。その後、18年琉球で昇格、20年鹿児島で4位の成績を収めた金鍾成監督が途中就任することに。しかし、その後も2カ月勝利できず、昇格争いからも早々に脱落することとなった。
今年も金監督は継続、10名の新加入を加えたが、内訳をみると大卒が6人、高卒が1人と若い選手が多め。「走(は)ぜる」をスローガンに掲げ、J2昇格に向け、フィジカルと走力、そしてスピードの強化を目指している。

■去年のスタメン

・第1節

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A鹿児島 ○3-2

・第16節

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H熊本 ●1‐2

・第30節

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H八戸 ○3-0


勝ち点29 9勝 2分け 17敗 得点36 失点53 得失点差 -17

順位こそ15チーム中12位だったが敗戦「17」は14位沼津・15位讃岐(15敗)を超える最下位。その代わり、28戦で引き分けがわずか「2」と極端に少ない数字となっている。
これだけ勝敗がはっきりつく要因の1つは失点数の多さ。失点53は八戸・沼津の44から大きく引き離しての最下位。山雅の平均失点数が1.69であるのに対し、鳥取は1.89なのでどこよりも多くの失点を味わった気になっている我が軍を上回り、Jリーグで最も多くの失点を味わったシーズンとなった(特にホームの長野戦では1-8の敗戦を喫している)。
だが、全く鳴かず飛ばずだったかと言われるとそういうわけではなく、後半戦は上位のA岐阜戦3ー0、A富山2ー0と完封勝ち、ラストは3連勝を記録するなど力を発揮する試合もあり、はっきり言ってよく分からないチームでもあった。

システムは442、4231、3421、3322など様々だったが、相手によって柔軟に変化したというよりは負傷や失点数の増加、さらに監督交代もあって最適解を見つけるのに苦労したよう。詳しい低迷の要因についてはシーズン終了後、クラブから具体的に述べられているので興味のある方はぜひ⇩

選手に目を移すと、2000分超えはGK田尻、CB鈴木、ボランチ新井のみ。固定できなかったと総括で述べられているだけあって全体的に出場時間は割れている。目を引くのはチーム得点王のFW田口。わずか先発11試合(途中出場15試合)のみで出場時間も1100程度だが9ゴールを記録。ラスト6試合で7ゴールと絶好調のままシーズンを終えている。

■現スカッド・オフの雑感

【GK】
GKのインアウトはなし。ここ2年はガンバに長年在籍していた田尻が正GKとして君臨しているが終盤は地元出身で生え抜きの糸原がスタメンに。引き続きこの2人のポジション争いが続くか。

【DF】
DFの要・鈴木は残留したが、終盤CB中央起用されていた藤原(→YS横浜)と左CBの杉井(→長野)が移籍。主力を欠くことになったが(終盤の3CBでいくならば)琉球でも活躍した増谷(岡山)がCBに入るのではないか。大卒では長井(広島修道大)や小林陸(東海大)が加入。共に地域の大学選抜には入っているが未知の部類には入る。

【MF】
一定の出番はありながら満了になった可児(奈良)の他、湘南からの新井(福島)・横川(武蔵野)、セレッソからの秋山(南葛)、川崎からの原田(長野)とレンタル満了。レンタル選手だけで見ると放出5人、加入は0と方向性をシフト。アルビレックスシンガポールから知久、韓国2部・FC安養から田村を逆輸入、さらに4人の大卒を加えた。

田村は京都ユース時代は10番を背負い、20年のJ3・福島では9ゴールを奪ったスピードスター知久は国学院久我山高が選手権で準優勝した際に名倉(仙台)らとチームを引っ張った中心メンバー。その後はそれぞれ海外も挟みつつ、鳥取に流れ着いた。大卒組では静岡学園→青山学院大のルーキー小澤が注目株。全体的に機動力に長けたドリブラーが多く加わっている。

現有戦力では去年一気に出場時間を増やした成長株で10番の世瀬が1月に手術を受けて復帰まで3カ月の見込み。序盤戦をどう乗り切るか。

【FW】
6G6Aの石川、終盤得点を重ね9Gを記録した田口ら一定の結果を残したFW陣が残留。顔ぶれはほぼ変わりはないが、高卒ルーキーとして飯塚高校から高尾が加入。山雅の村越がプロ第一号になり、3年連続でプロ輩出を続けている飯塚高校の期待の星なので個人的には注目している。

■予想スタメン

なかなか失点が収まらないことでGKは2度変更中。開幕スタメンで一度は出番を失った糸原がここ2戦では再びゴールマウスを守る。

CBは琉球や岡山でも活躍した増谷の負傷が大打撃だが、入れ替わりのタイミングでキャプテンの石井が帰ってきた。その相方には広島修道大学からのルーキー長井がここ2試合スタメンで出ている。しかし、この組み合わせは石井173cmと長井176cmでともに小柄。元々高さを重視するタイプではないが、東海大高輪台高→東海大のルーキー小林を起用すると予想
SBは右には筑波大学からアルビレックス新潟シンガポールを経由して大卒2年目にあたる知久、左に東京農大からのルーキー丸山がここ最近は先発出場中。この2人は元々本職はボランチで、足元からの繋ぎを重視する金鍾成監督らしい起用となっている。

ボランチはサイズがあってボールも配れるロマン溢れる10番世瀬とボール奪取に長けた6番新井の去年から続く鉄板コンビ。連携面は去年から組んでいるだけあってかなり良いものがある。この2人が試合を落ち着かせられるか、山雅のプレスによってカオスを作られるかで試合は大きく左右されるだろう。

右はルーキー時代から古橋らを擁する岐阜などで出番を得ていた石川。本来は最前線での起用が多いが、右サイドでもプレー可能。シュートもパスも持っているストライカータイプのSH。一方、同じく岐阜で活躍した永島が不在の左サイドはなかなか定まっていない。前節は去年、一昨年と2年連続でチーム得点王を取っている田口を本職ではない左に置いてきた。この田口は四日市中央工出身で山本龍平の1つ下にあたる。
SHの片方にストライカータイプのFWを起用することは珍しくないが、いわき戦では両方がストライカータイプ。攻撃時は4トップのような形になることも。

そして最前線は献身的で身体を張れる澤上とチーム得点王(4点)で嗅覚を持ったストライカーの大久保の組み合わせ。ちなみに大久保は関西大学・澤上は大阪体育大学とともに関西大学リーグ出身で大野とは対戦経験がある。ただ2トップは前節SHに入った田口や石川も強力。違う組み合わせになる可能性もそれなりにある。

■ここまでの分析&展望

1勝1分け8敗で勝ち点4で最下位。ここ5戦でも5敗、天皇杯も下位カテゴリーのヴェルスパ大分に敗戦でとにかく勝ち星が遠く、リーグ戦で直近3勝2分の山雅とは対照的なチーム状況となっている。
内訳は8得点23失点と、得点数は下位グループの中ではまずまず取れているが失点23はぶっちぎりで最下位(YS横浜が10節時点では18失点)でとにかく失点が止まらない。第6節の鹿児島戦(0-1)以来、5戦連続複数失点を喫しており、3得点取らなければ勝てない厳しさはある。

ただし、守備で大きくテコ入れを行うかと言われるとそういうわけではない。かつて琉球で「3-1で勝つサッカー」と掲げていた金鍾成監督はリスク覚悟で得点を奪うサッカーを行うタイプの監督であり、(もちろん失点を減らすことも述べているが)選手起用や戦術では手堅いやり方をしてきていない印象。

内容面に移るとまずは注意しなければいけないのはアタッカー陣。ここまで鳥取全体で8得点を挙げているが全て前線の4枚の得点。昨季9Gの田口、昨季6G6Aの石川に加えて、今シーズンは大久保が4Gと活躍中。J1では伸び悩んでいる感はあるが澤上も総合的に能力の高いアタッカーである。前節いわき戦もほぼ独力でクロスバー直撃のシュートを放つなどあと少しで先制というシーンも作れていた。「低迷してるにも関わらず、前線が得点を取れている」というのは鳥取の1つの特徴である。

また、その前線を生かすためのビルドアップは本職がボランチの選手が入るSBが起点になることが多い。後ろにボランチの1枚が落ちることも多いが基本的にはこの形で片上げでボランチを張らせて前線へのリンクをするパターン。

前線の自由度は高く、FWの1角(主に澤上)が下りてきたり、ポジションチェンジしたりとこれといった決まりがあるというよりは各々の動きを見ながら阿吽でやっている感が強い。

そして、一度スイッチが入るとかなり前がかりに人数をかけてくる。細かくパスを繋いだり、デコイとして錯乱したりするのでまずは危険なエリアを潰し、FWに得意な形で撃たれないように気を付けたい。

ただ最大の弱点になるのがこの時のリスク管理の甘さ。「ビルドアップ時の片上げのSBの裏」や「前がかりになった後、相手にロングカウンターを仕掛けられた時の最終ラインの処理」などかなり対応の甘さが見られる。フィジカル面や守備強度よりも足元に長けたタイプが並ぶ最終ラインは岐阜戦ではシンプルにンドカの裏に入れられたボールをそのまま収められ、振り向きざまにシュートを打たれて失点、愛媛戦でもSB-CB間に入れられたボールをお見合いする形になって大外から回ってきたSHの小原にその隙を突かれて失点している。「ただでさえ前がかりになって後ろが薄くなっている上に最終ラインの強度もそれに伴っていない」というのが今の失点数に繋がっているように感じる。

さらに非保持時でもかなり前がかりになっていることが多く、2トップだけかなり前にいて、442ブロック間が間延びしているということもしばしば。総じて縦に早い攻撃に対しては背後を使われて後追いになっている間にやられるという失点が多い。

山雅としては保持/非保持問わず、相手の裏のスペース、特にSBの裏は意識して、"引き出しておいてひっくり返す"を行っていくことでこちらのストロングと相手のウィークが合致しやすくなるだろう。出し手となることが多い常田や住田、前線で身体を張って、抜け出しもできる榎本、ルカオなど1つ飛ばしの展開を得意とする選手たちがポイントになってくる。

最後に……鳥取は時間帯別の失点を見ると23失点中13失点は前半のうちにやられている。割合としては「特別多くない」ようにも感じるが、「13失点」は失点数リーグ10位の沼津の総失点数に相当する。しかも8敗のうち7敗は「前半の失点がそのまま決勝点になる」という負け方をしているので、山雅としてもこの流れにうまく乗り、前半のうちに得点をあげてリードした状態でハーフタイムを迎える試合運びをできればかなり楽になるだろう。

そうはいっても過密日程中のデイゲーム。どういう展開になってもやっている側は大変な戦いになるはず。楽をしたい場面も出てくるはずだが、強い気持ちを持って内容結果ともに良いものになるようなゲームを期待したい。

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<藤枝MYFC>

■直近5年の成績と監督遍歴

17年:大石篤人 J3・7位
18年:大石篤人(1月-7月)、石﨑信弘(7月-12月)J3・16位
19年:石﨑信弘  J3・3位
20年:石﨑信弘  J3・10位
21年:倉田安治(1月-7月)、須藤大輔(7月-12月)  J3・11位

22年監督:須藤大輔
19年にはクラブ史上初の首位、最高順位の3位も記録した名将・石崎体制
だったが、J2ライセンスも交付され、本格的にJ2昇格を目指した20年は一転低迷。石崎体制に区切りをつけてコーチ陣も一新、選手では岡山から押谷、福岡から鈴木惇、栃木から元山雅の岩間らを加え、倉田監督のもと昇格を目指すシーズンがスタートした。だが、堅守速攻のスタイルがなかなかハマり切らず、21年も序盤から低迷。倉田監督が7月に退任になり、18年に鳥取を3位まで引き上げる快進撃を見せた須藤大輔新監督を迎えることになった。

今年も引き続き指揮を執ることになった須藤監督のことは選手として強く印象に残っている方も多いかとは思うが、監督としても現役時代の熱さや攻撃へのこだわりは変わらず。監督歴時代は鳥取の半年、今回の藤枝の途中就任のみと長くなく、シーズン最初から指揮するのは初めてだが、「サッカーはエンターテイメント」という自らの哲学を度々口にするように目指すサッカーは明確。「3点取られても4点返す」「超攻撃的」「ボール保持率65%を目指し支配するサッカー」という監督の哲学に惹かれて移籍してくる選手も少なくなく、今年も引き続きその姿勢を貫いてチームを作っていくと見て間違いないだろう。

■去年のスタメン

・第1節

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A福島 △0-0

・第16節

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A富山 ●1-2

・第29節

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H横浜 ●0-3


勝ち点32 8勝 8分け 12敗 42得点 42失点 得失点差0
近年は3バックオンリーで戦ってきた藤枝だが、倉田監督は442を採用。キャンプから11節までは442で戦ってきたが、結果が出ないことで3バック(352)にシフト。宮崎には20本ものシュートを撃たれながらも粘り強く戦い切り、勝利したがその後が続かず。連敗を喫したタイミングと中断期間が重なり、監督交代となっている。その後はシステムは3421で固定。しかし、須藤監督のスタイルへの転換として岩間や久富のCB起用などポゼッション志向の選手起用、リスクをかけての前がかりな攻撃が増加。超攻撃な3421に生まれ変わり、最終的に得点数42は宮崎、いわてに次ぐ3位でフィニッシュ。また(得点数+失点数)の数でも42得点・42失点で上の鳥取(36得点・53失点)に次ぐ2位なっているのも「エンタメ性が高い」と言われる須藤監督のサッカーが体現された結果と言えるのではないかと思う。

またオフの大きなトピックスとして枝村、谷澤、森島康、那須川らJ1・J2で長年戦ってきたベテランが揃って引退している。

■現スカッド・オフの雑感

【GK】
ほぼ出番がなかった大杉(→福島)、マテウス(→未定)は契約満了に。代わりに熊本のセカンドGKだった内山を補強した。長年J3で活躍している正GKの杉本もかなり計算できる選手だが、昨年熊本の正GKだった内山も須藤監督の超攻撃的サッカーに惹かれてやってきた実力者。GK争いは熱い。

【DF】
須藤体制ではほぼ出番がなかったCBの秋本(→引退)、金正也(→未定)、元山雅の森本(→下関)、左WBの稲積(→高知)、那須川(→引退)がチームを去ったが、出番を得ていたのは終盤にパワープレー要員としても起用された世代別代表の長身CB佐古(→東京Ⅴにレンタルバック)くらい

だが、川島・秋山・鈴木、さらに須藤体制ではCB起用されていた岩間もここのポジションで使われていたので主力は十分に残している。さらにここに小笠原(熊本)、神谷(川崎)とそれぞれビルドアップと戦術眼に長けた現代型のCBを加え、須藤監督の攻撃的サッカーに適した補強が行えている。

【MF】
先ほども挙げた谷澤・枝村の引退組、鮫島(→都農)、清本(→未定)、枝本(→くりやま)らは出場機会は限定的。代わりはG大阪U-23時代にJ3でほぼ丸4年戦ってきた芝本(G大阪)、出戻りとなった水野(熊本)とこちらも的確に補強してきた

大卒では兄の大輝と同様に変態ドリブラーと評される榎本(東海大)、すでに特指としてデビューして2G2Aの久保(中京大)、潰し屋の金浦(立正大)、高卒ではここ最近J3の一大勢力になりつつある秀岳館高校の10番ペドロも獲得。(ちなみにMFではないが秀岳館高校でいうとCBカウアンも獲得)。新卒獲得には早めに動いていたこともあり、誰かしらが脅威になる可能性は高い。

【FW】
大石、押谷、岩渕とチームのトップスコアラーが残留し、森島(→引退)、宮本(長野へレンタル)の巨漢CF2人がチームを離れた。宮本は同カテレンタルになったが、堅守速攻からスタイルを転換した須藤体制以降は出番を失っていたのである程度は計算の内のはず。
加入ではシンガポール1部で得点王&MVPの土井(ホウガン・ユナイテッド)、磐田期待の若手・三木名門・法政大学のリーグ戦トップスコアラー・中井と違った経歴の若手を3人が加入。3人とも宮本・森島の代わりとなるような高さはないが得点力を兼ね備えた選手となっている。このあたりにも監督の好みは反映された。

■今年の予想スタメン(予定)

■開幕前展望(予定)

■試合前情報(予定)

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※掲載順・目次

①カマタマーレ讃岐・YSCC横浜

②鹿児島ユナイテッド・SC相模原

③テゲバジャーロ宮崎・FC岐阜

④アスルクラロ沼津・ギラヴァンツ北九州

⑤AC長野パルセイロ・FC今治

⑥ガイナーレ鳥取・藤枝MYFC
⑦愛媛FC・いわきFC
⑧ヴァンラーレ八戸・カターレ富山
⑨福島ユナイテッドFC・松本山雅

(データはfootballlabより)

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