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愛媛戦レビュー~ブレない強さはまだ先に~

「負けなしにもいつか必ず終わりはくる」
リーグ戦、そして"対石丸監督"という点でも、内容面を考えると9戦負けなしというのは出来すぎていたような結果ではあったが、それでも負けていい理由にはならない。そして、「負け方」や「タイミング」は重要になってくる。

今日の負けに関しても、人によって捉え方は異なりそうだと感じているし、ポジティブな点もネガティブな点もそれぞれ挙げられそうだが、なかなか甘くないリーグだということを再認識させられる試合になったことは選手・スタッフ含めた共通認識だろう。

さらに、次はいわきFCとの直接対決が待っている。
この現実から目を背けることなく、ただ強い気持ちは持ち続け、大一番をモノにできるような切り替え・準備をしていきたい。

<両者のフォーメーション>

・松本山雅

前節、藤枝を相手に攻守で手応えを得たことで、前節からメンバーの変更はなし。代表帰りの横山やケガからの復帰組もTMを見る限り多かったが、スタートは「継続」を選んで愛媛に乗り込んだ。

ベンチは佐藤に変わって横山が入っている。

・愛媛FC

長野相手に後半巻き上げ、同点に持ち込んだ愛媛だったが、メンバーは大幅入れ替え。

CBはDFリーダー栗山、右SBの忽那が欠場で代わりのCBには鈴木、右SBには前節はボランチだった森脇が入る。それに伴って空いたボランチには森脇に代わって今年の軸となっている横谷が先発に復帰。

左右のSHは左に小原、右に近藤が鉄板だったが、近藤が欠場で前節はベンチにも入っていなかった佐藤が第2節以来のスタメンに。

前節は大澤・進で組んでいた2トップは松田・進で本来の2人に戻してきた。

パス数平均は443.3本で6位。

<記録>

・ゴール数

7:横山
4:小松
3:外山
2:住田、榎本
1:常田、菊井、宮部

・アシスト数

3:外山
2:常田、菊井
1:ルカオ、佐藤、住田、濱名、ビクトル

・累積

2:村越、佐藤、前、パウリーニョ、菊井
1:米原、住田、浜崎、宮部、安東、外山、榎本

<戦評>

■"やるべきこと"への差が出た前半

・違う顔を見せてきた石丸愛媛

最終ラインからのビルドアップからではなく、CBからのロングボールで一気にDFラインの裏を突く狙いがあった愛媛。

立ち上がりは愛媛のほうが直近何試合かでやっていたサッカーではなくて、少し多めに自分たちの背後にボールを供給するようなシーンが多かったと思います。

山雅プレミアム 監督コメントより

と話すように想定外のサッカーを立ち上がりから繰り出してくる。

愛媛は長短のパスを小気味よく繋いでゲームを組み立てるのが1つの特徴になってるチームで、パス平均のデータを見ても1試合平均433.3本はリーグ全体で6位。

この試合では山雅がパス本数で40本(379本ー421本)ほど多く繋いでいるが、今シーズンの愛媛がパス本数で上回られた試合は、開幕3連敗を喫した後で割り切ったサッカーを行った対YS横浜戦(379本・リーグ8位)とパス回数で上位を誇る対北九州戦(370本・リーグ3位)の2試合のみ。

普段から見ている方はなんとなく察しがついているかと思うが、山雅はパス本数はリーグ15位(366本)なので、これだけ見てもいかにこれまでのスタイルとは違うことをしてきたかが分かる。

これまで石丸監督とは10戦戦ってきたが、その中で最も石丸サッカーらしくなく、ロングボールを裏にめがけて数放ってきて、自らが認めるほど守備的な戦いにシフトしてきた。が、やっているサッカーは魅力的で理想を追い求める中でも突然現実的な割り切りをしてくるのはある意味、石丸監督らしさともいえるかもしれない。

・相手のやりたいプレーを消せていたか

対して、前節の藤枝戦のように中盤を圧縮して、最終ラインを高く、コンパクトに保ちながら試合を進めるプランを持ってきた山雅。

前節の後半よりは最終ラインは高めにライン設定をしていたが、今年は後ろに重くならないような守備にチャレンジしているので、初期設定としては妥当であり、裏にボールを入れられてもそう簡単にやられることはなく、序盤はそれなりに対応できていたように思う。

ゲームは前半、相手が予想と違ったフォーメーションで来たというのもあったけど、ある程度ゲームコントロールしながら、相手のラインが高いというのを踏まえてスカウティングどおりに相手の背後を上手く利用できていたところはあった。もう少し上手く進入できていたらもう少しゲームを楽に運べていたのではないかと思ったし、そこは課題としてあった。右側からしか進入できていなかったところで、もう少しバランスよくプレーし、間延びさせた状況を上手く使いたかった。

愛媛FC公式 監督コメントより

(ちなみに愛媛は山雅の左裏を狙っていたように見えたが、どうやらそうした狙いはなく、CBの試合中の判断、もしくは選手の特徴上、山雅の左サイドの裏にロングボールが集中しただけのよう)

ただ、山雅としては厄介だったのは左の森下からも高精度の対角フィードがあったこと。

同サイドは限定できても対角は難しい

同サイド(右CBの鈴木→山雅の左サイド)を狙われる分には常田や外山も対応しやすく、小松がプレッシャーをかけにいくことでコースは限定しやすかったが、森下サイドからも逆を狙うことができたので、小松1人でプレッシャーをかけるには限界があった(鳥取戦では左CBに左利きを置くことの重要性を説いたばかりだが、森下ほどの技術の選手をフリーにさせていればそんなに関係ないんだなあと……笑)。

そして、前線は前線で、"サイドの選手が中に"、"中の選手がサイドに"と流れることもあったのに加えて、単純に対角からのボールはマーカーが視野から消えやすいので何度も狙い撃ちされると難しさはあったと思う。

・修正しようとはしていたが……

こうなるとざっくりと修正は「前からプレッシャーをかけにいく」か「CBがラインを下げる」の大きく2択。今年の山雅のやり方であれば安易にラインを下げるのではなく、前線の形を組み替えて相手に合わせるのが最善策となるが、

森下サイドにプレッシャーに行くTPJの"プレス判断の難しさ"や"二度追いのタスクをこなす負担"を考えると流れの中で組み替えるのが難しかったのかもしれない。本来ならばハイラインで裏に蹴られるようになった場合は前線が押し上げてプレスをかけるいうのがセオリーだが、うまくそれができなかった。

僕だったり大野くんだったり、背中から抜ける相手に対して結構難しいタイミングが多かったです。前半の途中で「もう少しラインを下げてスタートしよう」ということをチームの中で共有しましたが、その時間帯がもう少し早くてもよかったかなと思います。

山雅プレミアム 常田選手 選手コメントより

名波監督からはDFラインを高く保つように言われている中で、CB陣も後ろから押し上げようとしたり、オフサイドトラップを仕掛けようとしたりしていたが、なかなか前線が限定しに行けない状況なのでリスクの高い選択だったように感じる。

こちらがほどよい妥協点を見つけるよりも先に相手が先にチャンスをモノにした。

先制のシーンの前、オフサイドトラップをかける場合は一度静止する必要があるので、外山が止まってしまったのは仕方ないが、相手は当然走り続けるので失敗すれば完全に置いていかれる。オフサイドトラップをかける場合はDFライン、もしくは外山自身がしっかり掛けきらなければ間に合わないのは当然という点が1つ。

そして、1番はその前のリスタートからのパス。
散々言われていたにも関わらず、通されてはいけないエリアをリスタートから通されてしまったのは要反省すべき点。

先ほど「ハイラインを保ち続けるのはハイリスクだった」と個人的な考えを書いたが、見方によっては「ハイラインを敷いていても防げる/防がなければいけない形」でやられているという考え方もできるので、ラインを下げなかったことはそれほど反省のウェイトは大きくないかもしれない。

・相手の嫌がる攻撃をできていたか

ただ、失点に直接は関係ないがこの前半を通してみた時に、最大の問題点であり、大きな遠因としてあるのは「守備の機会があまりに多すぎた」、「相手の陣形を押し下げるような攻撃がほとんど繰り出されなかった」ことにあると個人的には思う。

前節はロングボールを効果的に使いつつ、前線の関係性で裏を取り、ボランチやWBを絡めて厚みのある攻撃を行う、裏を取れなくても深さを作ることで他の選手が生きるスペースを作ることができていたが、今節の前半はそもそも裏へのアクション自体が少なく、後ろの選手たちが前にロングボールを蹴れるタイミングがあっても蹴るのを躊躇しているというシーンが多かった(DAZN越しではFWの動きは見れないのでもしかすると動いていたのかもしれないが……)。

裏で一発で繋がらないとしても愛媛のようにそのまま高い位置からプレスを始められることやクリアさせてスローインやCKを獲得することができるので、相手のペースで試合が進み、押し込まれている時ほどそれに合わせて下がるのではなく、強かにそれをひっくり返すような動きがあれば良かったように思う。

また、前半は25分に常田が攻めあがったところから外山・安東がそれを追い越していき、するすると抜け出した安東が菊井からのパスを受けてシュートを放ったシーンがあったが、今日の栗山抜きのCB陣(森下・鈴木)は保持やフィードはうまい分、こうした飛び出してくる選手へのアラートさや守備の強度には不安はあった。

前半はCBがMVP級の活躍をして、松本CB陣のウィークを突こうとしていた愛媛に対して、山雅側も愛媛の守備陣のウィークを突くような機会を増やし、自分たちの時間を増やすことが前半最も必要な要素だったのではないか。

■本来やるべき形を示した後半

・不本意で最高の一発解決

前半の停滞感を受けて後半はTPJに代わって横山を投入。彼だけが悪かったというわけではないが、横山の対抗馬として期待されて起用されていたこともあり、HTで苦い交代となってしまった。

後半は入りからチーム全体がギアを入れ直し、積極的な飛び出しや追い越しから愛媛陣に攻め込む時間が続く。愛媛側も流れを切ろうと裏へシンプルに蹴って前半のような形に持ち込もうとするも単発では山雅CB陣の対応が勝り、再度攻撃という時間が続く。

51分には菊井→横山でシンプルに裏を突いたところから、森下と横山の1vs1を作り、横山がドリブルで完全に抜き去る形を作るなど前半には見られなかった積極的な前線のアクションが見られると、直後の52分には外山からのマイナスのボールを受けた横山が、左足ダイレクトで放った美しい軌道のシュートがそのままGKの頭上を越え、見事な同点弾に。

J2のGK陣に入っても遜色ないセービングを持っている徳重の意表をつくようなシュートからは技術の向上はもちろん、メンタル面の充実も感じられる。

この試合ではあえてエースの横山をベンチに置いておくことで、他の選手にチャンスを与えるだけではなく、彼の不在時のチームの成長を見せることで彼自身にも刺激を与えたい意図があったはずだが、わずか数分のうちに前半抱えていた問題の多くを横山で解決させてしまった。

采配としては「的確で狙い通りの修正」であったが、この試合の全体、もっというとリーグ3試合・天皇杯1試合で試行錯誤してきた「"彼不在時の狙いや期待"としては不本意」な結末になってしまったかもしれない。

・「裏を見せる」と後ろは楽になる

そして、(Twitterでやっているスペースでは触れたが)「裏を見せる」ことによる好循環が生まれた象徴的な1シーンが後半にあった。

それは54分。
安東が最終ラインに下りての後ろからのビルドアップ。前半だったらここでみんなが足元で貰おうとして手詰まりになりかけていたシーンだが⇩

後半から横山の裏の選択肢が出てきたため、下川がロングボールを蹴る素振りをした瞬間、相手は裏を警戒して縦を切りに来る。これに対して、フェイクでうまくタイミングをずらし、前線に張っていた前とワンツー⇩

そして、相手が下がったことによるスペースで下川が使い、住田がそれを預かり、逆の外山に展開するというスムーズなビルドアップ。

安東が下りて後ろ4枚にしてのビルドアップ自体は前半と特に変わりなかったし、実際に裏にロングボールが送られたわけではないが、前線が裏への動きを見せ続け、DFラインを引っ張ってくれたおかげで下川→住田→外山のプレーする時間とスペースが生まれ、前3枚が下りてくる必要もなく、分厚い攻撃を生み出せている。

もちろん相手の背後へ一発で通せればそれに越したことはないが、それだけが目的ではなく、裏を意識させることで「相手のブロック間にギャップを作ること」や「セカンドボールを確実に拾うこと」を今シーズンは一貫してやってきているので、前線の選手は最低限それをやれなければ横山頼りにはなってしまうし、この試合の前半のようにどん詰まりになってずっと守備の弱点を突かれ続けるという展開になってしまう。

■意地を見せるも1点及ばず

・次節にむけての修正点と好材料と

こうした好循環もあり、後半はほぼ山雅が主導権を握る。相手は前半のように余裕を持って回せなかったことや守備で後手を回ったことで、後ろを厚くする急造5バックでまずは守備を整理、カウンターで一刺しする方向に狙いを変更。山雅の勢いはこれにより一度は止まってしまうが、それでもやや追いついた山雅側が優勢な時間が多かったと思う。

しかし、なかなかもう1発が刺しきれずにいると28分、36分と立て続けにゴラッソを喰らう。いい時間に畳みかけられないでいると相手がワンチャンスを仕留めて勝負を持っていくというのはサッカーではよくある展開だが、あれだけのゴラッソを10分で2発喰らうことは年1回あるかないかくらいの確率のはず。

それでもそのゴラッソのきっかけになったのは2点とも中盤の球際勝負で勝ちきれなかったところから始まっているので、いわきFCという球際・トランジションのラスボス戦を前に修正が必要になってきそう。

ただ、かなりショッキングな2点目、3点目を喰らった後もやけくそになるのではなく、後ろからの追い越しやボックス内に人数をかけたクロス攻撃を続け、90+1分・宮部のゴールで一矢報いたのは負け試合の中でもプラス要因。欲を言えば2度3度あった同点に追いつけそうなシーンでしっかり決め切ってほしかったところだが、前半が嘘のように見せていたアグレッシブな姿勢は次節にもつなげてほしい。

・今年イチのリバウンドメンタリティを

さて、試合はこのまま2-3で終了。
この敗戦で9戦負けなしはストップ、2位いわきとは勝ち点3差がついてしまった。4位の富山、5位の岐阜の影も見えてきて後半戦は"出遅れていた本命組"も上位争いに本格的に加わってくるだろう。山雅としてはますます連敗は許されない状況になっている。

ただ、ポジティブに考えれば、しばらく背中を掴むことができていなかったいわきを直接叩くことができる大チャンスに変えることもできる。

山雅は直近では北九州や長野、愛媛と事前のスカウティングとは違うやり方をしてきた相手に勝ちきれない、苦戦する傾向があったが、そういう点ではいわきはやりたいサッカー、戦術、強み・弱みははっきりしていて、準備してきたものは出しやすいはず。正面突破の真っ向勝負になるだろう。

ここで得た悔しさを忘れずに、この敗戦を力に変えて、前半戦最大の大一番を勝利で飾りたい。

END

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