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起業家たちへの手紙

本記事はHAXの姉妹アクセラレーター「IndieBio」の創業者でマネージングディレクターを務めるArvind Guptaがmediumに投稿した記事を邦訳・編集したものです。
IndieBioは米サンフランシスコに拠点を置く、ライフサイエンス分野で最大規模のスタートアップアクセラレーターです。2014年に設立され、現在まで計116社のライフサイエンス系スタートアップのメンタリング、育成を行っています。本記事はIndieBioからの投資・支援を受けるスタートアップに向けた内容ですが、コロナ禍におけるスタートアップの立ち回り方や、IndieBioの取組を紹介しています。(HAX Tokyo)

起業家、CEO各位

現代史において前例のない衝撃の真っただ中に私たちはいます。

これがいつまで続くかは誰にもわかりません。これがどう終わるか誰にもわかりません。

しかし、私は知っています。どんなことも、人々が思うほどそう良くも悪くもないのです。きっと大丈夫ですよ。むしろ好転するかもしれません。昔の人が言っていたように、危機を無駄にしてはいけません。私たちは、まず危機から脱し、生き残る必要があるのです。

生まれも育ちもテンダーロインのジェシー通りの地下(訳注:IndieBioの拠点)だったあなたたちは、IndieBioに所属している企業であり、この危機を乗り越えられる生存者なのです。IndieBioのオフィスに入るということは、人生の苦難を乗り越え、再び研究室でそれに直面することです。

しかし、今回の衝撃はそれとは異なります。新型コロナ は、私たちのビジネスや地域社会、そして家族への貢献といった、あらゆることを試そうとしているのです。そして、それは私たちを傷つけ、時に苛立たせます。

優れた企業であっても、世の中の変化を認めようとしなかったために死に絶えることがある—この教訓は2001年(訳注:9.11同時多発テロ)と2008年(訳注:リーマンショック)から学んだことです。その間違いを繰り返してはいけません。株式市場は数週間で25%下落しました。プライベートマーケットはどこへいってしまったのでしょうか?

危機の中から、きっかけを見出す

この危機的な状況から、きっかけを見出すためには、二つのことを並行して行う必要があるでしょう。

一つはダイナミックに変動する市場環境がもたらす新たなチャンスを積極的に掴みにいく準備をすること、二つ目はあなた自身の今のビジネスを守ること。

もっと簡単に言えば、「生存モードへシフトしよう」ということです。

この危機を混乱ではなく、学習と適応の機会として捉えてください。リモートワークやコラボレーション、シェアリング、それらは簡単なものではありません。しかし、自由な発想力を持てば、それらを実現できるビジネスやテクノロジーを見つけることができるかもしれません。

第二に、不況は脆いものを淘汰します。淘汰から生き残った人たちは、競争相手が減り、顧客が増えた「新しい景色」を見ることになります。その日を迎えるためにも、生き延びてください。

第三に、才能のある人にはチャンスが訪れるでしょう。多くの企業は正しい決断を下すことができず、廃業することになるでしょう。それによって、優秀な人材が流出します。これからの一年半、あなたのチームにとって最高のメンバーを探してください。

第四に、IndieBioのネットワーク力を活用する機会です。IndieBioに所属する起業家は、皆同じような経験を持ち、お互いに助け合っています。研究室の使い方や病欠などの社内規定の作り方、それ以外にも難しい決断を迫られた時のベストプラクティスは、お互いに相談することで簡単に見つかるでしょう。一人では難しいことでも、団結すれば乗り越えられます。

新型コロナによる危機を味方につけるためには、良い守備をすることが重要です。ここでいう守備とはとは、あなたが生み出した価値を守ることです。まず、考え得る最悪なシナリオを想定し、それに基づいて自身の計画を策定してください。最悪のシナリオでは、新型コロナによって、航空業界を含むあらゆる業界で需要が減退し、原油価格の暴落がシェール生産者の事業撤退を招くといった、経済の連鎖反応が起こり、結果的には2年かそれ以上続く大不況に陥ることも想定されます。

そのためにも、自分たちの会社が生き残るための2カ年計画を作りましょう。財政面だけでなく、社員の士気にも配慮した計画を立てましょう。すぐに計画を実行する必要はありませんが、バックアッププランがあることで、今後の戦略的な意思決定に役立ちます。

手持ちの資金で会社を長く維持できそうになければ、直近の資金調達に間に合わなかった投資家や、直近のラウンドにバリュエーションの影響で参加できなかった投資家にエクステンションラウンドを持ちかけるべきです。優秀なVCは、このような時代はバーゲン品を探すチャンスと考えています。彼らに投資のチャンスを与えましょう。

また、支出の意思決定に役立つマイルストーンを見つけましょう。もし、2回目のロックダウンが発生した場合には、経済が再び衰退することが想定されます。そうなれば、全ての経済活動がフリーズするでしょう。しかし、迅速で安価なに提供できる治療方法が開発され、誰もが利用できるようになれば、経済はすぐに正常に戻ります。優秀な人材を積極的に探しましょう。

どのスタートアップも、今まさに資金調達をしようとしています。VCはパートナーと直接対面で会うことすらありません。彼らはあなたと同じくらいあなた自身のビジネスを理解しようとしています。今のところVCにはあまり期待しない方がいいでしょう。頭と直感を頼りに、資金が底をつかないようにしながら、価値の高い活動に集中しましょう。他の企業が先を争っている間に、別の市場を獲得しましょう。アクティブな状態を維持しましょう。無駄を減らしましょう。

難局に備え、自分たちの価値を守る守備を学んだところで、次は攻撃に集中しましょう。市場で勝利しましょう。

全てのIndieBio出身企業は、世界でも最も深刻な問題を解決することに焦点を当てたバイオテクノロジー企業です。新型コロナは、あなたたちバイオテクノロジー企業の必要性を拡大させるでしょう
豊かな資本を保有する層が自宅での滞在を余儀なくされ、何ができるか考える家庭で、あなたたちスタートアップの存在が露わ(あらわ)になるでしょう。コロナ禍で医療への投資が十分でないことが明らかになりました。温暖化による気候変動は、大気中の二酸化炭素濃度改善に十分に投資していないことを明らかにするでしょう。全世界が突然気づいたのですーー破壊的な生物学は良い面も悪い面もあることを。

あなたの製品をソリューションとして市場に提供する準備を整えてください。今すぐ行動してください。ビジネスを停止しないでください。製品を準備しましょう。もちろん、政府や自治体からのガイドライン(ソーシャルディスタンスを保つ、シェルターを設置する)に従う必要はあります。しかし、在宅勤務とは「家にいながら仕事をすること」を意味します。研究室での実験は中止を余儀なくされるかもしれませんが、在宅での実験計画は継続できます。

支出を抑えながら製品化にこぎつけるには、重要な取引先が直面しているマイルストーンに集中しましょう。新しい製品開発は後回しにして、現在の市場で勝ちなさい。あなたが取る一つ一つのアクションは、取引先が超面している喫緊の課題を解決する改善策に結びついているかもしれません。シリコンバレーのほとんどのVCは、最近新たな資金調達を実施しました。彼らは、今後数年のうちにそれを元に投資しなければなりません。すぐに資金調達の動きがあるでしょう。彼らをあなたが経営するスタートアップに引き付けるために、プレスリリースで連絡しましょう。進捗を見せましょう。市場を牽引できる力を示しましょう。顧客基盤を構築しましょう。営業活動はすべてを解決します。

既存投資家にあなたの計画の最新情報を送信しましょう。財務計画だけでなく、あなたの会社の誰かが 新型コロナ に感染したら、どうするか方針を伝えましょう。できる限りの準備をしてください。これで投資家を安心させることができます。

そのためにもIndieBioが持つネットワークを利用してください。あなたは独りではありません。もしあなたが試薬やアドバイス、プロトコル(訳注:実験の実施要綱)を必要とするなら、お互いに手を差し伸べなさい。チームに手を差し伸べましょう。私にいつでも連絡してください。

IndieBioは、さまざまな形でコロナ・パンデミックに対応している

まず、IndieBioの新しいバッチ(アクセラレーションプログラム)は2020年5月4日からサンフランシスコとニューヨークで本格的に開始する予定です。私たちはコアとなるノウハウやコンテンツを配信するオンラインプラットフォームを準備しています。新しいかたちでプログラムを始めることを心待ちにしています。状況が良くなれば、全員を研究室に連れていき、作業を完了させます。デモデイは夏に開催します。投資家と企業との対話を容易にする新しいオンラインシステムで実施する予定です。

第二に、私たちは1日おきに質問やディスカッションするのための時間を設けます。また毎週タウンホールミーティング(訳注:企業のトップ経営陣と、現場で働く社員とが一堂に会して、直接対話できるようなかたちで進められるミーティング)を開き、新型コロナを生き抜くためのベストプラクティスと最新情報を共有します。

第三に、 「Discord」 というオンラインコミュニケーションアプリを使用し、人との物理的な距離を保ちながらコミュニケーションします。参加するスタートアップは、できるだけ早くリモートでメンバーを見つけることをお勧めします。

コロナと戦うスタートアップを募集中。既に開発に着手している投資先企業も

投資先企業の中には既に新型コロナ対策に取り組んでいるスタートアップもいます。
・CasprはCrispr RNA検出を用い、 新型コロナ 向けの臨床現場即時検査(POCT)を開発しています。
・ Amaryllis Nucleicsは 新型コロナ検出用のRNA検出試薬を使用しています。
・Diademはエキソソームデコレーションプラットフォームを用いた、パンコロナウイルスワクチンプログラムを開発中です。
・ Pando NutritionのCraig Rouskey氏は、サンフランシスコ住民を対象に、迅速なRT-PCR検査を立ち上げています。 
・Girihletは、疾患の重症度予測するためにT細胞集団の同定に取り組んでいます。
・Daltonは質量分析技術を用いて、軽症患者と重症患者を予測し、治療補助薬を開発しています。
・私たちは ニューヨーク州と協力して、新型コロナを診断できる新たなスタートアップを支援しています。


新型コロナと戦うスタートアップをご存知であれば、IndieBioが力になると伝えてください。上記のような取り組みに出資したいと考えている投資家をご存知であれば、私たちに紹介してください。この世界のために、より多くの人々が新型コロナと戦う必要があります。

大きなチャンスは激動の時に訪れます。鋭い目と澄んだ心を持ちましょう。
覚えておいてください。

「闘い」に勝つのはスピードですが、「戦争」に勝つのは忍耐です。

Arvindより

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