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CESでスタートアップがやるべきこと・見ているもの

世界最大の家電見本市「CES2023」が閉幕しました。新型コロナウイルスの影響を受け2021年はオンライン、2022年はオンラインと対面のハイブリッド開催でしたが、2023年は会場開催がメインとなりました。

日本からもさまざまなスタートアップが出展し、メディアやSNSでその様子をご覧になった方も多いと思います。その中には来年以降にCESへの出展を考えているスタートアップも多いのではないでしょうか。

HAX Tokyoでは今回のCES 2023に初出展したスタートアップにインタビューを実施しました。取材に応じていただいたのは変形する電動バイク「タタメルバイク」を開発するICOMAの生駒崇光さんです。

生駒さんはタカラトミーを経て、Cerevo、GROOVE Xとスタートアップ2社を渡り歩いた後に現在の会社を創業。起業前からCESへの出展をスタートアップのメンバーとして経験しています。その生駒さんから見た今年のCESや出展の経緯、そして出展時に準備しておきたいことについて伺いました。

ICOMAが開発する「タタメルバイク」。その名の通り、折りたたんで保管・収納できるのが特徴。バッテリーで駆動する電動バイクで、今春からの発売を予定(本文に後述)している

――CES、お疲れ様でした。まずは今回出展された経緯について教えてください。

これまでSNSで自分たちのプロダクトが話題になったとき、日本よりも海外からのリアクションのほうが多かったんですね。自分たちのYouTubeチャンネルにアップしている動画を解析しても、8割は海外からのアクセスということもあって、海外への展開はありえるだろうと考えていました。

一方で僕と共同創業者(小縣拓馬氏)は元々タカラトミーの出身で、その時に携わっていたのがトランスフォーマーでした。日本で生まれたトランスフォーマーはカラクリ的な要素が当たって海外で大ヒットしたというのを僕らは目の当たりにしていて、自分たちのバイクでも再現したいと考えていたんです。

ICOMAの生駒崇光さん。
CESから帰国する途中のトランジット先でZoomでのインタビューを実施した。

海外の展示会としては「VIVA TECHNOLOGY(フランス)」も検討していましたが、僕がCerevoに在籍した頃から馴染みのあったCESに出ることを決めました。

出店する目的は2つあって、1つは今春発売に向けての販路開拓。キットとして販売できることを現地ではアピールして、興味をもったディストリビューター数社とコンタクトできました。

もう1つは海外展開した先のサプライヤー開拓です。海外進出といっても、全てを自分たちでカバーすることは現実的ではないので、海外のパートナーやサプライヤーを探していました。こちらも結果的には数社ほど名刺交換できたので、帰国したら次のステップに向けてコンタクトする予定です。

――今回はJETROのサポートを受けて出展されていますよね。

ジャパンパビリオンに参加するスタートアップ募集の案内を見て応募しました。自分たちで出展するとなると渡航や滞在の手配だけでなく、現地でブースを施工する会社の手配や資材の調達などやるべきことが多いのですが、そういった面をJETROがサポートしてくれたのはありがたかったですね。

体外面でいえば「日本のスタートアップ」という印象を強くアピールできるのが利点ですね。僕たちのタタメルバイクで言うと、日本の住宅事情を踏まえたコンパクトさが強みで、その背景を理解してもらう必要があります。自社単独のブースだと背景を1から説明する必要があるので、ジャパンパビリオンという枠の中で「日本のプロダクト」と印象づけることは、僕らにとっては非常に有効でした。

――イノベーションアワード(出展者の中から優れた製品に与えられる賞)も受賞されていたということで注目度も高かったように思います。

イノベーションアワードのブースに展示されたタタメルバイク

イノベーションアワードのブースにも製品が展示されていたので、それを見て来たという方も多かったですね。アメリカの中でも日本の住宅事情と近いニューヨークや韓国、台湾の方はかなり関心を持ってくれました。国内外のメディアからも多数取り上げられたので、PRという面では成功だったのかもしれません。もっとも、TechCrunchからは「重すぎて車のトランクに載せられない」と酷評でしたが(笑)

とはいえ、電動バイクという国際的に見ても「サチってる(ここでは市場が飽和しているという意味)」マーケットの中で、大手メディアにピックアップされたのは大きな収穫でした。

CESに出ると何がサチってるのかがよくわかります。例えばポータブル電源はもう至るところにブースがありすぎて、何が強みなのかが伝わりにくくなっている状態でした。イーバイク市場に話を戻すと、そういった状況でも注目を集められたのはバイクが変形するというユニークさが要員だったのかもしれません。

――CESでサチってるモノを見るというのはユニークな切り口ですね。

CESについてはクールに見ている部分があります。過去にイノベーションアワードを取った製品が売れるとは思っていなくて、むしろ売れなかった製品のほうが圧倒的に多いですよね。僕がサチってるものを見ている理由としては、市場が飽和していて価格が下がっているテクノロジーを探しているからです。

会場の至るところに展示されていたという電動バイク関連のブース

タタメルバイクを例に挙げると、EVのコンポーネント部品がサチってるからこそ、安く調達でき開発工数を抑えられました。だからこそ、自分たちの強みである構造やデザインにフォーカスできたんですよね。もし、モーターやEVコンポーネントをイチから開発していたら、ここまでたどり着けていませんでした。

「枯れた技術の水平思考」という名言(任天堂の故・横井軍平氏によるもの)がありますが、「サチってるもの」というのも近いところがあります。つまり、何が自分たちの製品に取り込めるのかという視点で見るためのキーワードのようなものなんです。この発想は原価と販売価格にシビアな玩具業界で培ったものかもしれません。

――コロナ禍を経てCESに限らず、海外の展示会に出展したいハードウェア・スタートアップも多いと思います。これからデビューするスタートアップに向けて、アドバイスはありますか?

海外で通用する自分たちの強みや、日本らしさを突き詰めることが大事だと思います。出展に当たっては競合の製品やイノベーションアワードで賞をとっている製品もチェックして、自分たちの製品を比べて見るとたくさんの気づきが得られると思います。

その際、日本の製品は目立たないアプローチに落ち着きがちなので、地味ではない独自性をどこに盛り込むかを考えたほうがいいと思います。その辺りの発想やアプローチをユカイ工学さんは非常に上手くやっていて、いつも刺激を受けています。

僕たちの場合は変形以外にも側面に液晶パネルを取り付けたりして、他の電動バイクにはない魅力や可能性をアピールしていました。それをそのまま製品化するには技術的なハードルがあるのは事実なのですが、それを見た事業会社の担当者と具体的な商談になったり、協業の話につながったりするので、アプローチの方法は非常に重要です。

――CESに出すベストなタイミングがあるとすれば?

それは年内にリリースすることが決まっていることが大前提ですね。僕たちもブースに来たバイヤーに対して「春には出すよ」と言っていましたし、その年にもらったフィードバックを盛り込んだ次のモデルを来年のCESに出すというサイクルを目指すぐらいがいいですね。それは自分たちが金型レスで製造できるからできることなのかもしれませんが、比較的サイズが小さく、アセンブリしやすい製品であれば、金型を起こす直前のモデルで出展して受注先や協業先を探すのも有効だと思います。

――各国のスタートアップを集めたパビリオンも目にする機会があったと思いますが、今年はいかがでしたか?

やはりフレンチテック関連のブースは非常に目立っていました。アジアでは韓国がスタートアップに力を入れていて、かなり多く出展いました。日本では目立たない存在かもしれませんが、サムスンやLGはグローバルでは超大手でCESでも見せ方が上手いし、その2社が支援するスタートアップのブースもあって圧倒されました。

日本からも大手メーカーが今年も出展していますが、全体的に見ると目立っていないように感じます。スタートアップの出展者数も少ないので、より多くの国内スタートアップがCESで結果を残すような状況になってほしいと思いました。

――ICOMAは今回の出展を経て、どのようにビジネスを展開させていく予定ですか?

今春に小ロットでの製品リリースを予定しています。大々的に売り出していくのではなく、ユーザーからのフィードバックを集めやすい環境を作るために、まずはアーリーアダプターとして製品に興味を持ってくれた方に対して販売することを目的としています。

CESでフィードバックを受けた内容は今春発売のモデルだけでなく、今後にも反映していく予定です。

フィードバックは外部の声に限らず出展したメンバーからもありました。というのも一日中ひたすら自分たちでバイクを変形させていたので、動きがスムーズではない箇所や壊れやすい箇所など課題もたくさん見つけられました。こういった課題を一つ一つ潰していきながら、製品の品質を上げていくことが自分たちの命題だと思います。

また、CESでもさまざまな協業先候補の企業と接触できましたが、僕たちはタタメルバイクに携わっていただける事業会社やサプライヤー、ディストリビューターを引き続き募っています。もしご興味を持った方がいましたら、お気軽にご連絡頂けると嬉しいです。

西村康稔経済産業大臣が生駒さんのブースを訪れた際の1枚

CES会場の写真提供:ICOMA
取材・文:越智岳人

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