見出し画像

2024年8月の歌 テーマ祖父母 

謡曲をさらえる祖父の傍らで背中丸めて刺繍さす祖母 
我が祖母は四つの時代の目撃者生きに生きたり百七年を 
六甲もこ

祖父母たちを知らない我もばぁばとなり孫の記憶に思い出残す 
朝いちばん珈琲淹れるキッチンに「シュワシュワ」と響く目覚めのいい音
伊藤美枝子

島々はまばゆきばかり輝けり岬にて日のしずむを待つに
新しき器具の操作を面倒と思いゐるのは老いきしゆえか
今森貞夫

七十でようやく祖母になれたよと友はスマホの待ち受け見せる  
白壁が眩し過ぎると閉じた目の裏にくっきり建物浮かぶ   
鵜川登旨

銭湯を出たあと祖母の買いくれしコーヒー牛乳冷んやり甘し
看護師の掛けた毛布の温もりに検査の前の心の緩む
大室やよい

芙蓉咲く母の郷ではもぎたてのとうもろこしをもてなされたり
縫い物の手をしばし止め眼鏡ごしに祖母の吾見る眼差しやさしき
岡まなみ

店先で育ち過ぎたキューリ見つければ瓜もみの甘い祖母の味顕つ
引き出しをしっかり閉めよと祖母の声着物はねず色背正し座る
小野貴子

古時計祖父の手入れにまだ動くその音響き昭和懐かし  
ひっそりと祖父のかたへに寄り添いて座っておりし祖母の思いは   
小島夢子

つかの間を夜空に光る天の川祖父の語りし星物語
ひとつだけ葉かげに赤いさくらんぼ見つけてほしいと風にゆれいる
関本なつ

受話器から「ヘルプ、グランマばあちゃん」と まだ孫は二歳の吾にも「オレオレ詐欺」が
お泊まりに姉妹で行けば爺ちゃんは畑のスイカ抱えて帰り来
筒井みさ子

コーヒー好きの祖母の面影うすれゆき砂糖かきまわす音もきえゆく 
姪ふたり気づかいくれし乾物の磯の香りが私をつつむ 
原 葉

唐椎(トウジイ)の木陰で豆を選り分ける祖母の背中にセミの声降る
ウーバーで配達されたバースデーケーキ写メして甥にお礼する
藤代敏江

ブドウ畑で
見上げれば光差し込み手が止まる秋待ちわびるみどりのしずく
憂鬱な心も晴れる青空を見つけて願う日々の幸せ
宮川美智子

土の中で慌てているだろセミの子らケヤキは倒され駐車場となる     丹精込め祖母育てたる大きスイカ孫ら抱えて力自慢する        
森田郁代

奈良の鹿猛暑を避けて集まれり人に混じりてミストの下に     
幼き日祖父のお膝でせがみしは創作混じりの熊野の民話   
山下ふみ子

本棚にまじめに座する祖父と祖母埃はらいて海に連れ出す 
砂浜に麦わら被りまどろめば編み目通してまったりの夏 
楽満眞美 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?