【短編】 破損を縫って
今朝、布団に穴が開いた。五年前に亡くなった母が上京するときにくれた、最後の形見みたいなものだった。
「大学生になって忙しくなるんだから、せめて布団くらいはしっかりしたのにしなきゃね。」と、一緒に買いに行った母は言ってくれたのに、いっこうに大学は忙しくならないまま終わり、母だけが帰らぬ存在となってしまった。
だからこそ、五年経って破れてしまった布団がまるで、楽しかった頃の母の思い出ごと穴が開いて無くなってしまうような気がした。私に出来るのはただやるせないまま、朝を過ごすことだけ