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非当事者研究への脚注

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非当事者研究への脚注その5

 今回は「当事者」のミッシングピースです。「非当事者研究その2」で、法律の専門用語だった「当事者」が障害者運動で使われるようになったということに少しだけ触れました。

 ここで年表的に触れておくと、「当事者」が初めて登場したのは1890年の民事訴訟法で、障害者運動で使われ出したのは1980年代です。この約90年の間、「当事者」を法律以外で全く使われなかったのかというのが一つの謎です。
 この謎に対

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非当事者研究への脚注その4

 「非当事者研究その3」で「非当事者」について考えましたが、言葉足らずだったので、ここであらためて考えてみます。

 「非当事者」は「当事者でない者」という単語として使われます。しかし「非当事者」を文字通りに読めば「当事者に非ず」すなわち「当事者でない」という述語になります。「当事者でない者」を無理矢理に作れば「非当事者者」になります。

 あるいは「非」は「当事者」ではなく「当事」すなわち「事に

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非当事者研究への脚注その3

 「当事他者」は「当事者」に「呼び掛け、応答を期待する者」です。「呼び掛け、応答を期待する」ことは「きく」ことでもあります。

 「当事者」と関わるにあたって、「傾聴」すなわち「聞く・聴く」ことで、「当事者」の主体性を尊重することが大事とよく言われます。これまで聞かれてこなかった「当事者」の声を「聞く・聴く」ことはもちろん大事です。しかし「当事者」が話さないなら、聞かなくていいのでしょうか。もしか

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非当事者研究への脚注その2

 廣松渉の用法から、「当事他者」を「当事者に呼び掛け、応答を期待する者」としました。「呼び掛け」と「応答」は、一見すると、前者が能動的で、後者が受動的なため、「当事他者」が主体的で、「当事者」が客体的に思えるかもしれません。しかし「呼び掛け」と「応答」とは、そう簡単に能動と受動とに割り切れるものではありません。

 なぜ「呼び掛け」るのかを考えると、その行いの基底にあるのは「応えてくれるだろう」と

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非当事者研究への脚注その1

 まず言っておかねばならないのは、「当事他者」は私の造語ではありません。哲学者廣松渉が用いた言葉です。ここから「当事他者」の哲学的出自を確認できます。

 「当事他者」は廣松から始まりました。廣松は、新たな共同性を模索する運動が「連合赤軍事件」という無残な結末を迎えた当時の時代状況を背景にして、共同性について原理的な思考を展開した論文「共同主観性の存在論的基礎」の「第二節 役柄的主体と対他性の次元

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非当事者研究への脚注その0

 「非当事研究」では、「非当事者」から「当事他者」へと至る道をなるべく簡潔にしました。ここからは非当事者研究の過程で考えたけれども、あまりまとまっていないことを書きます。私の手に余るものばかりで、誤読のオンパレードを楽しんでもらえたらと思います。

 ふりかえると、「非当事者」から「当事他者」へと至る道には、哲学者ジャック・デリダの二つの方法があったように思います。

 まず「非当事者」という言葉

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