衝動さん、僕を殺さないでください

2022年8月22日の文

自分が溢れ出すのが、好きじゃない。
動転したり、込み上げてくる暴力的な衝動を抑えられなかったり、足首まで真っ赤になってどうしようもなかったり、何も面白くないところで急に笑いが込み上げてきたりするから。
僕はそれを恥ずかしい、と思う。
自分のコンプレックスだと。

僕は抑えがきかないことが多い人間だった。
小さい頃から、怒りっぽくて、コントロール不可の危ない衝動に見舞われることが度々あった。
周囲の人にとったら、扱いにくい子供。
でも僕は、人に褒められるのが好きで、怒られるのがトラウマになるくらい無理な人だった。
悔しくてよく泣いていたと思う。
布団を殴りながら。
地面に寝そべりながら。
自分でもなんで湧いてくるのか分からない怒りを、何度も何度もやりすごして、その度に悔しくて、泣いていた。
自分を封印したかった。
「癇癪を起こさないで」「拗ねないで」と言われる度にまた湧き上がる怒りを、痛みに変えて、悲しみに変えて、やり過ごすのが嫌だった。
痛みも悲しみも、被害者意識になって、「自分だけ悲劇のヒロインぶるな」と、親からも友人からも全く同じ言葉を言われた。
それも、また痛みに悲しみに変えた。
それ以外の対処方法がなかった。
布団を殴っても消えない。
顔を殴っても消えない。

辛かった。
それを誰かにつらいと言えなかった。
これが一体何に分類されることなのか、何もわからなかった。
自分のこれが、人に辛いと話すようなことなんだと、知らなかった。


歳を重ねて少しは心臓も遅くなって、衝動に見舞われることも幾分か減った。
そして対処方法も、過眠や、過食や、性欲発散に増え、それがちゃんと機能するようになった。
「拗ねないで」「すぐに怒らないで」「うるさい」と言われることは減った。
それは僕の自尊心を、少し癒した。

そして、自分では予想もしなかった形で、これまでの人生散々傷つけられてきた「怒り」が封印されることが、中学一年生の冬、起こった。
鬱だ。
びっくりするくらい、衝動がこない。
襲われない。コントロール不可にならない。
その代わり、びっくりするくらい、全てがどうでも良くて、全てに特に何も感じなかった。
多分初めの頃の僕は、自分に振り回されない、周囲に煙たがられない、ということを喜んでいたと思う。
忘れる前まで。

だんだん鬱がよくなってきて、あぁ、よくしたいな、とか思い始めていた頃、タオルをしまっている場所を開けて、ぼくは怒りに呑まれた。
ぐちゃぐちゃに仕舞われたタオル。
昨日まで、なにも感じていなかったのに。
僕は絶望した。
あぁ、これじゃないか、これが嫌で、これが嫌で堪らなくて消えてほしくて、だから、消えて嬉しかったのに。
完璧主義なんて、綺麗好きなんて気持ちの悪いものが無ければ、こんなことにはならなかったのに。
その夜に、また泣いた、と思う。
覚えてないけど。

なんとか、それが少なくなった時期、僕はとにかく下品な本を読んでいた。
エロ本。
18歳以下は見ないでね、ってやつ。
見てる間は気持ちいいとか忘れられるとか、今まで生きてきた中で一番、衝動に対して効果的で、必ず一時的でも消してくれる方法だった。
後味は良くなかった。
自分がどんどん汚れていく感じ。
気分が悪くて、死にたくなった。
こんなバカバカしい理由で。
それでも、それをやめることができなかった。
それのおかげで、基本的に鬱々とした状態で日々を過ごす代わりに、人に苛立たない、感情に振り回されないことを手に入れていたから。

だんだん、また心臓が遅くなって、微力ながら自分の完璧主義とか綺麗好きとかをマシにしていって、それでもエロ本から離れられずに、ぐちゃぐちゃに過ごした。
そのうちに、そういうことを忘れた。
何に苦しんでたとかそういうの。
苦しくなる前に常にエロ本を読んでるようになった。

そしてまた、思い出す。
そんなことを繰り返すのが嫌で、また、また、また、繰り返した。
繰り返し続けた。
そして今になって、いい加減、向き合わなきゃいけないと、衝動に見舞われた時、すぐにエロ本にパスをするのをやめようと思った。
紙に書き出すとか、10秒数えるとか、そういうことができる状態ではないけど、今度は紙に書きだして、自分のコンプレックスを掘って掘って見つけて、それに丁寧でいたいと思った。
でも、どんどん出てくる自分は、今まで積み重ねてきたと思っているものを全て崩す、禍々しいもので、それを受け入れるとかいうのは、そうそう容易いことではなかった。
そしてきっと、ずっと、「次はこれ、次はこれ」と、終わりなく自分を乗り越え続けて、結局「ままならない」で、終わるしかない気がした。

ここ2、3年間、僕はその禍々しいものとの向き合い方は変えてこれなかったけど、未来の自分に託し続けてきたけど、ほんとに小さく小さく、コンプレックスの解除をしてきた。
その時間は、よかった。
あってよかった。
でそれが少し落ち着いたと思ったら、襲われた。
次はこれか、と思った。
ちょっと、ようやく、長い時間をかけて、乗り越えたと思ったのに、封印していた氷塊が溶けたみたいだった。

次はこれ、を、受け入れるしかない。
見ないふりして、下ろして、気にしないふりして、そうやってやり過ごしながら、今度はこれとの向き合い方を考える。
だから、危ないことになるだろう。
だから、人に迷惑かけまくるだろう。
だから、自分を傷つけるだろう。
だから、なんとかじっくり焼くみたいに、頑張っていくね。
頑張ってね。

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