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加藤ゆたか
2024年3月31日 13:39
俺は他人の自分への好意が色で見える。 よくある天気予報の気温を表すアレみたいな感じだ。 俺への好意の低い順に青、水色、緑、黄色、オレンジ、赤、と色が変わる。 試しに教室のクラスメートを見渡せば、大半の奴は水色か緑。つまり、少し嫌いか無関心ってこと。 これが黄色になると俺のことがほんのり好きって感じで、今までも黄色の女の子にアプローチすれば高確率で付き合えた。メリットっていうとそれくらいか
2024年3月30日 15:49
「トリあえず……と。」「あきら。そこ、変換ミスってる。『とりあえず』でしょ?」「あ、ほんとだ。」 リビング。ノートパソコンの前で、小学生にしては少し背伸びした印象の少女が、年下の少年に言う。 指摘を受けた少年が入力した文字を消して打ち直す。「とりあえず……よし。それじゃ、えまちゃん。何を書く?」「そうねえ。」 えまと呼ばれた少女は顎に手を当てて考えはじめる。 目をつむり、情景
2024年3月29日 22:41
「絶対にはなさないで。」 通学路、僕は急に路地裏に引き込まれた。 むぐっ。 そしてすぐに口を手で塞がれる。 誰だ? と目をやると同じクラスの酒井さんが僕の制服を掴んでいて、緊張した面持ちでどこかを見ている。 酒井さんのキリッとした眉が美しい。実は密かに憧れていた。同じクラスだけど、こんなに近くで彼女の顔を見たことはなかった。「……っ。」「しっ。黙って。」 酒井さんが声をひそめ
2024年3月28日 22:05
「あ、ささくれ!」 教室で美優が私の指をさして言う。 なるほど。確かに右の中指の爪の上に二、三本、ささくれが出来ている。 これ痛いんだよね。 冬だから乾燥してたのかな。 ささくれが出来るなんて思ってもなかったから、ハンドクリームを指の先まで塗ったかどうかも憶えてない。 あー、なんか残念な気持ちになる。 私は口を曲げて美優を見た。「なんて顔してるの、沙織。」「だって、ささくれっ
2024年3月27日 22:38
「お届け物でーす。」「わあ、大きな箱。」 私とタロウちゃんの愛の巣に届けられたのは、人が余裕で入れるんじゃないかってくらい大きなダンボール箱だった。 私が玄関から顔を出すと宅配便のお兄さんは台車に載せたその箱の横で笑顔でお辞儀をした。よくエレベーターに乗れたなと思う。 私は受け取りのサインをしてから、箱を見て聞く。「私ひとりで持てるかな?」「そんなに重くないですよ。」 お兄さん
2024年3月13日 21:44
うちが扱う物件はとにかく安いので、当然、客の質もお察しであった。 金のないフリーターのおっさんとか、売れないミュージシャンみたいな格好した男とか。そんなのが何件内見を回っても決めきれない。おかげさまで俺の給料も上がらない。 こんな仕事、他に楽しみがなければやってられないだろう。 つまり、今日の客は当たりだった。 十八歳の女。高校を卒業して地方から出てきたらしい。金が無いから安い物件を探
2024年3月12日 07:18
あばばばば、どうしてこんなことになっちゃったんだろう、どこで間違えたんだろう、こんなはずじゃなかったのに、血の気が引いて心臓がバクバクいって頭が真っ白になって、何も考えることができない、時間ばかりが過ぎていく、何度も叫んだ、叫んだけど何も解決しなかった、もうダメなんだ、やるしかないんだ、深呼吸をして気持ちを落ち着かせて、ここまでの思考は一秒にも満たない、とにかく私には三分以内にやらなければならな