加藤ゆたか

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  • 創作大賞2023 イラストストーリー部門 応募作

    創作大賞2023 イラストストーリー部門 応募作 『そもそも彼女は死んだはず』

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小説『そもそも彼女は死んだはず』 第一話「よみがえり」

#創作大賞2023 #イラストストーリー部門 #小説 桜舞う季節。初々しい少女たちが真新しい制服に身を包み、新生活に心躍らせ、校門をくぐる季節。 夜の学校は、桜の木だけが外灯の光を白い花びらに反射させ、いっそう神秘的に存在を輝かせる。 須山美里は保健室の窓から桜の木を眺める。美里は学校に誰もいないこの時間が好きだった。少女たちの姿が消えた夜の校庭は、静かで、透き通っていて、別の世界のようだ。だから美里が彼女を見つけた時、信じられないけれど、一瞬彼女も別世界から迷い込んだのか

    • 小説『そもそも彼女は死んだはず』 最終話「それから」

      #創作大賞2023 #小説 校庭の桜の木が白く光る花びらをはらはらと散らしていた。 「この桜も役目を終えたんだ。」 かのんが美里の横で寂しげに言った。 季節外れの桜は今、本来の姿に戻ろうとしている。 夜が明けようとしていた。   「先生。これからどうするの?」 「どうって……。私、てっきり成仏するんだと思ってたわ。」 「するわけないよ。だって今や先生は大悪霊にも勝った最強の霊なんだよ?」 「えぇ? 最強だなんて私、全然そんなつもりじゃなかったのに。」 桜の木を背景に、

      • 小説『そもそも彼女は死んだはず』 第十四話「火を噴く拳銃」

        #創作大賞2023 #小説 美里の銃から、迫り来る大悪霊の腕に向けて弾が発射される。 バン! バン! バン! 本物の銃の反動がいかほどのものか想像もつかない美里のイメージした大口径の銃は、美里の手の中で軽く跳ねただけで収まった。 弾が当たった大悪霊の腕の一部が大きく爆ぜた。 「ぐおおお……。」 大悪霊が撃たれた腕を引っ込めて美里たちを大きな目玉で睨む。無数の黒い手足は美里から距離を取りウヨウヨとうごめいているだけだった。 「もしかして……大悪霊が怖がってる? 先生

        • 小説『そもそも彼女は死んだはず』 第十三話「大悪霊」

          #創作大賞2023 #小説 「大悪霊……!」 「覚悟を決めなきゃ……。」 「そんな……。」 かのんは周囲を見渡した。目に入るのは教室に散らかった机と椅子。校長に襲われて散らばったカバンの中身。かのんはどこにいったかわからない美里の武器を探した。一番近いのは教壇の上に置いたはずの銃だったが……。 その時、美里が声を上げた。 「あぁ! あれは!?」 美里の声の先をかのんは目で追った。そこにあったのは教室の窓いっぱいを占める大きくて不気味な目玉だった。 「ああ……大悪霊に

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        小説『そもそも彼女は死んだはず』 第一話「よみがえり」

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          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第十二話「先生お願い」

          #創作大賞2023 #小説 「先生! お願い! 元に戻って! 鬼にならないで!」 鬼化した美里にもかのんの言葉は届いていた。美里はまだ完全に悪霊になってしまったわけではなかった。しかし、美里はどうしても悲しみの洪水を止められなかった。自分が死んでいた事実も受け入れられないし、自分の姿が鬼のように変わってしまったこともつらいし、目の前には自分を殺した校長がいる。 このまま校長に恨みをすべてぶつけてしまえばどれだけ楽になるだろうか。 「私は先生に感謝してるの!」 かのんの

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第十二話「先生お願い」

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第十一話「襲われる」

          #創作大賞2023 #小説 「きゃああ!」 教室にかのんの悲鳴がこだました。校長がかのんの胸ぐらを掴んでいる。豹変した校長を押しのけようと必死に抵抗するかのんだったが、体格差が大きくてどうすることも出来ないでいた。 美里が校長に向かって叫ぶ。 「校長! やめてください!」   しかし、美里がどんなに呼びかけても校長はかのんを離してはくれなかった。 美里はわけがわからなかった。なぜ、先ほどから二人は自分を無視するのか。校長にもかのんにも自分の声がまったく届いていないようだ

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第十一話「襲われる」

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第十話「遭遇」

          #創作大賞2023 #小説 「先生は混乱してる。」 美里は一ミリも体を動かせない。美里の額から汗が流れる。かのんが悪霊か否か? かのんの問いが頭の中を巡る。かのんを撃ちたいなんて思うはずがない。彼女がどんな存在であったとしても、美里はこれまでの彼女を信じたかった。しかし、洪水のように不安感が押し寄せる。 かのんは優しい声で美里に言った。 「私は先生に助けてほしいだけ。言ったでしょ。」   かのんは慎重に言葉を選んでいた。 かのんの目にもハッキリと見える。美里の首に浮かび

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第十話「遭遇」

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第九話「校長」

          #創作大賞2023 #小説 その日、高柳校長は妙な話を聞かされた。なんでも昨夜、校舎の教室が燃えているところを見た住民がいたという。だが、消防隊が出動し、すべての教室を確認しても火事どころか荒らされた形跡も見当たらなかった。このところ、おかしな噂ばかり耳に入る。 夏なのに桜の木が満開で咲いているところを見ただとか、深夜の校舎に人影を見ただとか。 生徒たちは怪談話として面白がっているが冗談ではない。この学校では二年前、本当に人が亡くなっているのだ。 「だからといってなぜ俺が

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第九話「校長」

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第八話「美里とかのん」(イラストの場面)

          #創作大賞2023 #小説 「大丈夫!? 先生!?」 かのんが心配そうな顔で美里に近づく。どこで怪我をしたのか。理科室では一撃で悪霊を倒した。大悪霊には触れられてもいない。 かのんは美里の足の怪我の状態をもっとよく見ようと、美里の足に手を伸ばした。 「触らないで!」 「先生?」 思いがけず美里に拒絶され、かのんはビクリと肩を振るわせ硬直した。かのんが見た美里の表情は青ざめていて、どう見ても普通ではない。 「かのんさん、私から離れて!」 「なんで……? 先生?」 「早

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第八話「美里とかのん」(イラストの場面)

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第七話「理科室とその先」

          #創作大賞2023 #小説 すっかりお馴染みになった夜の校庭、桜の木の下。白い外灯の光を反射してヒラヒラと輝く花びら。 そういえば、いつまでこの桜は咲き続けるのだろう? 「お待たせ。先生。」 かのんは上機嫌で美里に声をかけた。 気付くと自然と足が桜の木に向いていた。かのんが現れるずっと前から美里は桜の木の下で独り立って待っていたのだ。 「はい。じゃあ今日もよろしく。」 かのんが美里にいつもの紙袋を手渡した。ずっしりと重い。袋の中に黒い銃身が覗く。 「昨日も言ったけ

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第七話「理科室とその先」

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第六話「攻略」

          #創作大賞2023 #小説 「先生! 早く撃って!」 「できないわ……!」 「くっ……。」 かのんは図書室の奥に目をやった。無数の光る目がチラチラとこちらを見ているのがわかる。餓鬼はこいつ一匹じゃない。かのんは順番を間違えたと後悔した。 「先生! 図書室を出るよ!」 かのんが美里の腕を引いて図書室のドアまで走る。ドアに手をかける。餓鬼たちは追って来ていない。しかし、図書室から漂う悪霊の気は先ほどよりもずっと大きく膨れ上がっていた。 「先生! 先生!?」   図書室を

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第六話「攻略」

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第五話「図書室の思い出」

          #創作大賞2023 #小説 「悪霊はね、先生には攻撃してこないんだよ。」 「え!?」 今日はここまでにしようと言った後、職員室を出て桜の木まで戻る途中にかのんが言った。 「だから、もっと落ち着いて狙えばよかったんだよ。」 「そういうことは早く教えて!」 校庭の桜の木は変わらず外灯に照らされて白い光を放っていた。 「まぁまぁ。勝てたからいいでしょ。それじゃね、先生。また明日。」 かのんは桜の木の下で満面の笑みを作ると美里に手を振った。そしてまた、瞬きの間に消えていな

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第五話「図書室の思い出」

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第四話「大蜘蛛との戦い」

          #創作大賞2023 #小説 暗い職員室の天井に何かがへばりついていた。カサカサと動いている。美里を見つめる八つの目。 「きゃあああ!!」 それが人よりも大きな蜘蛛だとわかるのと同時に、美里は天井のそれに向けて銃を発射した。美里の撃った弾は天井に穴を空けたが、素早く動いた大蜘蛛の体には傷ひとつ付けられていない。   「あ、あれも悪霊!?」 「そうだよ。」 かのんは落ち着いた声で返事をした。対して美里は想定外の相手の登場に完全にパニックに陥っている。大蜘蛛の動きの先を読ま

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第四話「大蜘蛛との戦い」

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第三話「職員室のおしゃべり」

          #創作大賞2023 #小説 美里の銃に撃たれて悪霊の男は消えた。 「はぁ、はぁ……。倒した?」 「うん。今度はちゃんとやれたね。」 美里は銃を握る自分の手が汗でべっとりと濡れていることに気付いた。 「恐かった……。」 今にも腰が抜けてその場にへたり込みそうだった。 美里の前にまわったかのんが「ふふふ」と笑って言う。 「才能あるよ、先生。次もよろしくね。」 「次もって、これで終わりじゃないの!?」 「こんなザコで終わりなわけないじゃん。」 「そんな……。」 かのん

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第三話「職員室のおしゃべり」

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第二話「銃と悪霊」

          #創作大賞2023 #小説 「実は私、熱中症じゃなかったんだ。」 「どういうこと?」 「悪霊ってわかる?」 かのんは紙袋を向けたまま、真っ直ぐに美里を見て言った。ふざけているようには見えない。 すっと風が吹き抜けて、桜の花びらが二人の間を舞う。 「私ね、悪霊に殺されたの。」 「嘘。私は確かにあなたの症状を確認したわ。」 「それが悪霊の仕業だったの。だから、先生がいくら処置してくれても私は助からなかったと思う。」 美里はかのんの言葉を信じられなかった。 しかし、それなら

          小説『そもそも彼女は死んだはず』 第二話「銃と悪霊」