基本ポートフォリオにおける為替リスクの取り扱い:GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ⑤

今回もGPIFの基本ポートフォリオについての簡単なメモです。今回は、GPIFにおける為替リスクの取り扱いですが、GPIFは(私の理解では)基本的に為替リスクをとる、というスタンスで運用を行っています。このことはGPIFの説明でも明言しており、例えば、youtubeで植田CIOが下記のスライドを用いており、「基本的には為替ヘッジなし」と説明しています。

https://www.youtube.com/watch?v=Wh5Q8KwdOvg&t=37s

基本ポートフォリオの計算ロジックは下記にも記載しましたが、基本ポートフォリオは、政策ベンチマークを用いて、「国内債券:外国債券:国内株式:外国株式=25%:25%:25%:25%」という結果を計算しています。

財政検証と実際の基本ポートフォリオの計算のイメージ:GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ④|服部孝洋(東京大学) (note.com)

その際、政策ベンチマークにおける外国債券および外国株式は、下記を参照すると「FTSE世界国債インデックス(除く日本、円ベース)」、「MSCI ACWI(除く日本、円ベース、配当込み)」であり、外国債券・外国株式のインデックスを円建てにしていることがわかります。つまり、海外株式・債券を円建てに直した際の動きを計算して、(もちろん円建ての)国内債券と国内株式との相関関係を考慮して、基本ポートフォリオを計算しているということになります。

https://www.gpif.go.jp/topics/Adoption%20of%20New%20Policy%20Portfolio_Jp_details.pdf

GPIFが為替ヘッジをすべきか、ということについては議論があるとおもいますが、これまでの報道を見るとたびたび為替リスクのヘッジについては議論はなされています。例えば、下記のような記事があります。

三谷理事長は9日のインタビューで、現在のポートフォリオについて「為替ヘッジをしない前提で作成した。為替ヘッジがどうしても必要というわけではない」との認識を示す一方、円高到来時の損失拡大を回避するため、「できる範囲でヘッジした方がいい」との考えを述べた。
9月末時点の外貨建て資産は約49兆円で、積立金135兆円の3分の1程度を占める。
三谷氏は、外貨建て資産の保全を念頭に「為替動向に確信が持てるなら、ヘッジそのものは否定しない」とし、「メーンとなるのはドルやユーロ。確信が持てるときに、どうするか考えたい。為替ヘッジ取引の実施環境は整えている」と語った。

インタビュー:資産保全へ為替ヘッジも選択肢=GPIF理事長 | ロイター (reuters.com)


もっとも、今でも為替リスクは取るという基本スタンスが維持されています。今年になり、GPIFが為替フォワードを用いることが報道され、銀行などでフォワードは為替ヘッジで用いられることが多いことから、為替ヘッジを始めるのかなとおもいました(ちなみに、為替フォワードでどのように為替リスクをヘッジするかは「日本国債入門」の12章を参照してください)
GPIF、24年度に外債先物と為替フォワード取引開始へ-理事長 - Bloomberg

もっとも、植田CIOは、為替フォワードの活用は、「リバランスの際の効率性を高めるものであり、ごく短期のもの。あくまで基本ポートフォリオに基づく運用を着実に実施するため、適時適切な資産配分の調整を実行するためのもの」(例えばここの4:40あたりを参照してください)と説明しており、基本的には為替リスクは基本的にとるというスタンスに変わりはありません。

GPIFが近年高いリターンを得られているのも、大幅な円安が進みそこから利益を上げられた点も少なくないと思っています。そのため、為替リスクをヘッジしなかったことについては、これまで結果的に成功していたといってもよいと思います。その一方で、円高の際には損失が拡大することを意味します。私自身の中で、年金運用で為替ヘッジをどのように考えるべきかについてもう少し丁寧に考えてみたいと考えており、また別の機会に取り上げようと考えています。

<これまでのGPIFのメモ>
GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
GPIFの歴史:アベノミクスによる運用変更は成功したのか|服部孝洋(東京大学) (note.com)
GPIFによる貸株停止再開についてのメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ②:アベノミクス時の変更|服部孝洋(東京大学) (note.com)
GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ③:オルタナ投資について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
財政検証と実際の基本ポートフォリオの計算のイメージ:GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ④|服部孝洋(東京大学) (note.com)

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